自由に生きたいと願う俺の冒険譚は『ユーザーのたかし君』に乱される
緒方 桃
第1話 神様を初めて憎んだ日
春。桜が綺麗と評判のこの街『ブルーム』では、満開に咲く桜が「始まりの季節」を告げていた。
今月で16歳になる俺、ルーベン=ハイトは今日から念願の冒険者になれるのだ。
「はぁ……はぁ……」
桜が咲く道を、俺は息を切らしながら走る。今、俺は『冒険者の儀』に参加すべく、期待に胸を膨らませて教会に向かっているのだ。
今日、冒険者になる者は『神の導き』というスキルを与えられることで晴れて冒険者になれるし、俺もその一人。
さぁ、俺はどんな神様のお導きを受けるのだろうか──。
〇
「アーデルハイム出身、アジール。前へ……」
「はい!」
「キミはアレス様から『魔導士』として生きるよう命じられたので、このステッキをやろう」
「ありがとうございます!」
教会では冒険者の儀が執り行われていた。
今、これから冒険者になる者が名前を呼ばれ、神の名前と、その神の導きの結果が提示され、それに伴った装備が渡される。
神から言い渡される職業は『剣士』や『魔導士』、『回復術士』などのありふれたものばかりなのだが……。
「キミはダークネス☆エンジェル様から……」
「キミはあああああ様から……」
「キミは
神様の名前が独特すぎる……。この神様、ホントに大丈夫なのか??
そうだ、今のうちにまともな名前の神様が取り憑くようにお願いしておこう。俺は自分の番が回るまで手を合わせ続けた。
「ブルーム出身、ルーベン。前へ……」
「あっ、はい!」
そして、名前が呼ばれた。いよいよ運命が決まる。俺は発表されるギリギリまで願い続けた。
そして、神父が口を開く──。
「キミはたかし様から『剣士』として生きるよう命じられたので……」
ん? たかし?
聞いたことのない名前の神様だ。けれど名前の響きからはど派手な感じがしないし、危ない人では無さそう……。てことは俺、まともな神様の元で冒険者として生きていけるのか!? しかも職業は憧れの『剣士』!! やったぜ!!
……そう思い、心が高鳴った俺。すると頭上に大きな黒い魔法陣が現れ、そこから『魔剣』と言わんばかりの禍々しい黒の大剣が、地面を
これには教会にいた人々も驚きを禁じ得ない。中には腰を抜かす者もいた。
「この剣を授けよう」
……は? なんで俺だけ??
皆は木製の武器か鉄剣といった、初心者に相応しいチープな武器なのに、どうして俺だけがあんなおぞましいモノがプレゼントなんだ!?
「あの……俺もみんなみたいに鉄剣がいいんですけど……」
俺はボソッと小声で自分の意思を恐る恐る伝えた。するとだ。
「なに? 神様からの贈り物を受け取らんというのか! この無礼者め!!」
「ひっ!!!」
俺の言葉に神父さんはぶち切れた。だってそうだよな。俺、あなたたち神父様が敬う存在に逆らったんだもん。
だとしても。だとしても……だよ。おかしくね? 俺の冒険者ライフだけおかしくね??
今すぐにでも「たかしてめぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!」って叫びたい。
だけどこれから始まる冒険譚のイカレ具合は、まだ序の口だった。
〇
2020年、日本。
そこはルーベンたちの住む世界と違って、技術が発展しており、街は大いに栄えていた。
街には謎の力を以てして自動で動く乗り物が走り、都に立つ立派なお城よりも頑丈で大きな建物ばかりが並ぶ。まさに別世界。
そんな国では、『ゲーム』という娯楽が流行しているようで──。
二階建ての大きな家の一部屋で、少年が一人、明るく光る縦長の端末を横向きにして眺めていた。
そこには──『OPクエスト』と書かれていた。
OPクエストとは、今までのゲームの中でも「オートプレイが有能」というのが売りのスマホRPGゲーム、とのことだ。
ちなみにスマホというのは、少年が持つ縦長の端末のことを言うらしい。
「ふぉぉー! ついにリリースされたぞー!!」
この少年もまた、冒険者に憧れるルーベンのように目を輝かせていた。
少年はスマホを指でタッチする。
「名前か……、めんどくさいし本名でいいや」
少年は『たかし』と入力し、『OK』と書かれた文字に触れる。どうやらそれが彼の名前らしい。
「アバターか……、この金髪の爽やかイケメンにしよ」
続いて数多くの冒険者から、ルーベンと思しき者を選択。
「やっぱ主人公は強くてかっこよくないと! 攻撃力に振りまくって無双してやろ!!」
ゲームが始まるのを心待ちにするたかし君。ゲームを進めていくと、
「ん? 『らくらくチートガチャ』? ★5の武器が確定で手に入る……お値段は3000円か。よし、買お!!」
これにより、『★5 インペリアルグロウ』という黒い魔剣が手に入り、たかし君の──いや、ルーベンとたかし君の冒険が幕を開けたのだった。
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