5話目「白太がまたしても見てしまった「謎の男」は、夕美映町都市伝説の一つに数えられるらしいぃ!?」






「ヨッ!!」



「! っなんだ、竜也かあ〜。ビックリさせないでくれようーー、いや。それがさあ、今日の早朝新聞配達してる時にね……」


 只でさえちょっとオカルト的なものに敏感になっている白太のことを、声をかけて驚かせたのは、同じ夕美映ゆうみばえ小学校4年2組の親友、朱我利竜也あがりたつやだ。


 髪の毛は、ちょっと赤みがかった艶のある黒髪に、トップ以外は後ろ髪もサイドも短髪で、前髪は搔きわけてあり、


 髪の毛のトップは癖っ毛ではあるが、まるで炎が燃えあがり昇るような形で逆立っている。

(イナ○○○○ブン!?)


 服装はというと、アウターは分厚いそのまんまフレッシュなオレンジ色のウィンドブレイカー、パンツは俗にいう短パンで、淡いグレーにパッチ柄をサイドの裾にあしらえた、少し落ち着きも持たせたスタイル

〔まさに持たせた、のか……。ただし、ウィンドブレーカーの裏地は全色ネイビー〕。


 背は白太よりもまだ高いが高身長ほどではない。でも白太と同じ日本の平均でみた同年代の子供よりも、健康的な身体つきで「元気はつらつさ」は白太よりも旺盛おうせいにある。そんな小学4年生の男子だ。


「そんなことよりシロ。お前さっきはじーーっと、橋の下の方の何見てたんだ?」


「あっ、そっちは」、


 と、障害のもつせっかちな特徴から、さっきの橋の下の河原にいた男性のことを、先に話すべきだったのに、話せなかったなあ、と。


 とどのつまり障害を、自分自身の優しさの中で。呪いつつ、その男のことを話そうと。そちらにまた目をやったら



 男性のその姿はどこにも見えず。



 謎めいた男がその場からこつ然と姿をくらましたかのような事象を。白太はまたも見、体験した。


(確かにあそこにしゃがみ込んでいたんだけどな……)


 白太は、この日またしても奇妙・奇怪、ハッ!! と。でも何故か『気になって仕方がない』という、そんな境地にさせられる出来事に、遭遇してしまっているようである。


「さっきあそこにね、変な黒い男の人が、川のそばでね。しゃ、しゃがみこんで、い、いたんだけど……」


 確かに存在していたが、瞬く間に姿をくらませた黒の服装で身を包んだ、その男のこと。親友、朱我利竜也あがりたつやに白太は話そうとするのだが、口がモゴモゴ。


 なにか意味のある言葉を相手にうまく、上手に発っしたい・発っさなきゃいけないとなると、白太はまたもうまく話すことが出来ない。


〜〜


 コミュニケーション能力が、他の自分と同世代の子供よりも著しく劣っている……。白太はそのことをもう悟ってはいたのだが、


 それでも、もっとうまく友達とコミュニケーションがとりたい! でも上手になれない。


 白太は普段から、そんな自分を受け入れることが出来ずにいた。もっと日頃から意識してうまく話そうとすれば、より自分のことが分かってもらえると強く思い込んでいるからだ。


 要はせっかちで自意識過剰な性格であるのだが、会話上手になるためのソーシャルスキルトレーニングなどの、コミュニケーション能力向上のための訓練をする余裕などをこなすことは、日々の生活で難しいこと。


 白太は意識の中でなんとなくは分かっているはずなのに。それでも納得いかない、出来ない。他の人と同じように、もっと上を目指したいから!!


 などと、向上心はいいことだが、それが自分の心を締め付けていることを。解き放てていないことを。白太はまだ知り得ないでいた。


〜〜


「あーー、要はあれだな、シロが見てたってのは『体中漆黒新聞お化け』じゃないか!? ……あっ、てーー! うそうそ。ご、ごめん、シロ。俺、からかい過ぎちゃった!?」


「ちがうよ、自分のことだから、竜也は関係ない……」


「……ふーっ、よかった。そういう穏やかで何に対しても・誰がからかっても、いかったりしないところが、ずば抜けて優しくて群を抜いて羨ましく思えるところが、そこがいいんだよな〜〜、シロのな!」


「あ、ありがとう。すごくとってもうれしいよ……」。


 そんな自分でも親友がいることは、白太には誰よりも・なによりも「誇り」であった。自分の駄目な所・レッテルもすべて冗談で笑い飛ばしてくれ、時には自分のことをどんな相手にも全肯定してくれる。


 既に人よりも劣っている自分のことを『なにものにもかえがたい大切なもの』。のように日々接してくれていることには、竜也に対しても彼は感謝の思いでいっぱいだった。


「んで? 今日の早朝何を見たの!?」


「後で学校に着いたら教えるよ。クラスの僕をからかう人達も含めて、その全員を見返してやるんだ。ああ、もちろん、竜也はその中には入っていないから安心してね」。


「おいシロ。それお前のいい方だと、今日の早朝見た何かを俺だけには教えてくれないようないい方じゃないか、だいたいアイツらに関してはなあ。俺がいつかギャフンと痛い目合わせてやるからっつってんだろ!? まあ、図体からして、まず敵わねえんだけどな……」

 

「あ、ご、ごめん。ま、間違えちゃったね、ぼ、僕も、今日の朝一番に夕美映橋ゆうみばえばしでみたアレもあってか、もう頭は」


「おーーふたーーりさあん!!」


「うわっ、なんだよ! 脅かすなよー。シロなんか、今日俺が脅かしたのも含めて、三回バビックリしてんだからなーー!!」


 そう二人の後ろからひっそりと、いきなり話しかけてきた女の子は。白太たちと同じクラスの耳織木みみおりこだ。


 ベージュ色の編み込みセーターの上に幼気なプレーンタイプの淡い水色の生地、そこに黒と白の斜めにラインが入った刺繡が主に主張する、ジッパーアップのフードつきジャケット。スカートは厚手の膝丈より少しだけ上の、台形型をしたライトグリーン、靴はキャメル色のムートンブーツだ。


 まだ小学生でタイトなスカートは今どきど同世代の女の子も履くことはないに等しい。でもちょっとお下げ髪が珍しくも可愛らしい、おませちゃん系キャラだ。


 実をいうと、竜也はこの耳織みみおりのことが好きなのである。だが向こうはどう思っているのか。他のクラスメイトへ自分のことが興味あるのかどうかを聞こうにも、その勇気が持てないでいる。


「脅かすなよを二回もってなあにー! さっきシロちゃんが見た男性ってさぁ……黒勾くろまが怪人かいじんじゃないかなあ?」


「「黒勾くろまが怪人かいじん!?」」


 白太と竜也が同時に思わず声を上げた。


「なんだよ、は相変わらずの地獄耳だなあ……」。


「ほら!! 夕美映町ゆうみばえちょう新都市伝説で最近囁かれ始めた話。なんでも、この夕美映町ゆうびばえちょうに謎の一族で古くから伝わり伝承されている呪式を使って、密かに霊媒師業を営んでるんだってえ!! 人以外にも、烏や黒猫に化けることが出来るらしくて、この町で神出鬼没に現れてるらしいよお」。


 白太は木ノ美の話を聞いて、そういえば確かにあの人、全身が黒一色だったし、姿もいつの間にかいなくなってもいた、なにより川の水をすくっていたのは


 その、自分しか扱えない「呪式じゅつしき」というものを使って、手ですくったその水に何かを唱えかけていたのか……。




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