奇跡

今日も髪を巻く。自分に1番似合うメイクに大好きなお洋服。

だって君に会うんだから、1番可愛い私にならなきゃ。

大好きな君に会えると思うだけで心がはずむ。

今日は一段と綺麗に髪が巻けたよ。気づいてくれたら嬉しいな。


「おはよ、しーくん」

軽く微笑みながら。きっとこの私が1番可愛いから。

『おっはよー!今日の調子はどうだ?』

「今日はルンルンだよ」

だって君に会えたもの。

『お、もしかしてイメチェンしたか?』

「残念、惜しい!髪がいつもより綺麗に巻けたの」

でも気づいてくれるんだね。

『今日の昼ごはんなに食べたい?俺はねー、オムライス!」

「オムライスかー、いいね。でも私はパスタかなぁ」

オムライス好きだもんね。

『ほんと、あの頃の俺たちからは想像もつかないよな。これぞ奇跡!』

「まともに口聞いてくれなかったもんね」

懐かしい。彼は今から想像できないほど人見知りで、まともに挨拶すらできなかったな。


『これからもよろしくな』


「…こちらこそ。ところで昨日はなにしてたの?」


『お、もしかしてイメチェンしたか?』


「それさっきも言ったじゃん。そんなにいつもと違う?」


『今日の昼ごはんなに食べ』


ぷつり。

辛くなって画面を閉じる。

今返して欲しい言葉はそれじゃないのに。

会話がしたいよ、笑い合いたいしふざけあいたいの。

ただこっちを見て欲しいだけなのに、君に触れることさえ叶わない。

ねぇ、君の瞳にはなにが映っているの?

私には暗くなった画面に映る悲しそうな顔しか見えないよ。

この世に存在し続けることは一生君に触れられないという意味。

でもこの世とさよならしたら君を見ることすら叶わない。

君と出会えたこの世界には感謝してる。君と同じ時代に生まれてよかった。

でも私と君を分け隔てる世界は好きじゃない。

ねえ、もしも奇跡が起こるなら。

奇跡が運命に抗うたった1つの方法だというのなら。

どうか私に奇跡をください。


「君の隣を歩きたいよ……」

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愛のカタチ。 あかね @akane_003

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