あなたの寝息と常夜灯の音
入間しゅか
あなたの寝息と常夜灯の音
午前二時。真っ暗だと寝れない私のために常夜灯がついている。ぼんやりとしたオレンジの灯りは照らされているというより、包まれているような気がして安心する。
いつも、この時間に目が覚める。いつものようにあなたは私に背中向けて眠っている。寝息が聞こえる。常夜灯はジーっと音をたてている。あなたのたてる生きている音と、生命とは別の音をたてる常夜灯。
私はあなたの背中の凹凸をなぞるように眺める。男性の角張った体つきが好きだ。体を覆う筋肉が伸び縮みする様が好きだ。どんな男でも、体つきは同じだ。たとえ、痩せて気弱な男でも、筋肉だけは堅い意思があるようにゴツゴツとして体を形成している。角張った体つきは確固たる意思をもって男性を男性たらしめている気がした。
なぜ自分の身体がこうもカーブが多く、柔らかいのか。なぜ、胸は膨らみ、ヴァギナがあり、月経に苦しまなければならないのか。稀に私は、女性が当たり前に受け入れるそれらに対して強く疑問を抱き、強く反発したくなる。だが、男の身体で産まれたらこの悩みは消えたかというとそれは違う気がする。つまり、私は女だろうと男だろうと納得することは無いのだろう。
頭痛。ズキリと頭痛。目の奥から後頭部を刺すように頭痛。私が女性であろうと男性であろうと、私であると言えるものが欲しかった。あなたの背中が遠のいていく。私が不安になる度にあなたは「きみの性別がなんであれ、ぼくは君を好きになったと思う」と言ってくれるのに。頭痛。ズキリと頭痛。
あなたの背中越しに、少し開いたカーテン越しに、レースのカーテン越しに、網戸越しに夜を見る。あなたの寝息と常夜灯の音。静まるベッドで私は私であることを願った。
あなたの寝息と常夜灯の音 入間しゅか @illmachika
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます