月よりも
森野雨鷺
月よりも
今日、私の恋人が久々に同じ部屋にいる。
恋人のトウヤは作詞家として活動していて、いつもは作業室に篭っている。
ならば、と思い昨日友達から聞いた話を持ち出してみることにした。
「トウヤー」
「なに」
パソコンから目を離さないまま、返事するトウヤ。
「今夜は月が綺麗ですね」
彼が私の顔を見ていないのは知ってるが、ドヤ顔になってしまう。
「ああ、そう思うよ」
窓をちらっとみて一言。
え?
終わったよ。会話。
待って、終わった。
「トウヤ、月が綺麗ですね!」
トウヤのベッドに座り再チャレンジ。
「だから、俺もそう思う」
それでも、顔はこっちに向けない。
「いや、違くてさ!昨日友達から聞いた話なんだけど、、、」
全く、わからない様子のトウヤに私は痺れを切らして話始めた。
「夏目漱石がI love youを月が綺麗ですねって訳した話でしょ」
が、トウヤは被せて答えを言い出した。
「えええ!なんで知ってんの?」
「いや、昨日アキから教えてもらって」
「トウヤもか。なら、なおさらいい返事ちょうだいよ!」
なんだ、びっくりした。
ならもっとあるじゃん、いろいろ、さあ。
「だから、俺もそう思いますって言ったじゃないすか」
「、、、え、そういうこと、、、」
全く、わからないのは私だったようです。
「、、、ユキ」
ため息をつくトウヤ。
「全然気づかなかった、、」
顔が熱くなる、ああ恥ずかしい。
「自分で言っておきながら、バカなのかな?」
やっとこっちを向いてくれたと思ったら可愛くない言葉を浴びせてくる。
「うるさいな!なら、天才トウヤさんは
I love you どう訳すんですか?」
さあ、トウヤ答えに困ってしまえ。
「そうだな、、、」
と呟きながら、椅子から立ち上がって
ベッドに座る私に近づいてくる。
え、何。
するとトウヤは私の肩を掴んで優しく押し倒した。
顔が近くて心臓がうるさい。
全く抵抗しようとしない自分が恥ずかしい。
「俺ならこう訳す」
私から目を離さないまま、ふわっと笑うトウヤ。
チュッ
触れるだけのバードキス。
私は本当に彼を天才だと思う。
月よりも 森野雨鷺 @kurage_noge
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