オレオレ私メリーさん

「もしもしィ!? オレだよ! オレ、オレ! 分っかるかなぁ爺ちゃん!」


 とある安ビルの事務所、安っぽいスーツを着た男が雑な詐欺仕事を働いていた。

 何度も同じ内容の電話をかけ、即座に電話を切られて面倒そうな顔をしている。


「そうそう! オレだって!? だからさぁ金を――。チッ……また切られちまった。ったく、今どきこんな詐欺が通じる家なんざねぇだろ……? 兄貴も何考えてんだか……。おっ……とぉ、オレだよ! オレ、分かる?」


 愚痴を呟きながら手当たり次第にかけ、繋がるたびにオレオレと呟き続ける。

 彼の脳内には、どうでもいいから早く終わってくれとの願いしかなかった。


「クッソ……また切られた……なんでオレがこんな目に……」


「おいサブゥ!? まだ繋がんねえのかあ!?」


 事務所にいかにもヤクザな格好をした男が入って来た。

 サブと呼ばれた電話をかけていた男は、ヘコヘコと頭を下げる。


「ヒッ……! 兄貴ッ! ヘ……ヘヘ、順調ですぜ。手ごたえはあるんすよ」


「オウ、早くしろよ。金持ってそうならジジイじゃなくてもいいんだからよ?」


「分かってますって、もうちょっとだけお待ちを……」


「ったく、使えねえなあ……」


 首筋をゴキゴキと鳴らしながら、兄貴は部屋の奥へと去っていった。

 やれやれと溜息をついたサブは、すぐに、どうすんだコレと頭を抱えた。


「ぐおー……兄貴に殺されちまうー……クソッ、神様仏様! いや、この際なんでもいいから金になる仕事で俺を助けてくれっ! ……ん?」


 神頼みに全てを託したサブの耳に、電話の呼び出し音が聞こえた。

 不審に思いながらも、サブは電話に出てしまった。


「なんだぁ? どっからの電話だよ……はーい、もしもし? オレですよ、オレ」


「もしもし? 私、メリーさん。今――」


「あー? キャバ嬢か何かか? 兄貴ー! 何か女から電話入ってますよー?」


 電話口の向こうで呟く可愛らしい声を放置し、サブは兄貴を呼んだ。

 兄貴が気合いの入ったパンチパーマを撫でつけながら、ノソノソと寄ってくる。


「おぉん? 女だぁ? 誰だよ、名前は?」


「メリーっつってましたね。今この電話で繋がってますよ」


「オウ貸せや……オレだよ、オレ。オウ、あぁ? ゴミ捨て場だぁ? ……チッ、切りやがった……」


「兄貴の女っすか?」


「知らねえよ、どっかの馬鹿女が酔っぱらってんだろ。ワケわかんねえヤツに繋げてんじゃねえよボケが」


「ヘイ、すんません……でも、ここの番号知ってたんすよ? 兄貴じゃないなら、どっから漏れたんすかね?」


「この事務所に居た連中からだろ? ちっと前にここの連中が全員行方不明になったから場所とれたんだよな」


「へぇ……兄貴がやったんすか?」


「ンなわきゃねえよ、オレがやるなら全員から金むしり取ってからだ」


「うす、気ぃつけます……」


「何言ってんだサブ? おっ、またかけてきやがったか……オウ、オレだ……メリーさんな? 今どこよ? ……駅前だな、すぐに行く。――うっし、やるか」


「え、何するんすか兄貴?」


「オウ、ちっと待て……電話のこのボタンを押してだな……これでいいか」


「何したんすか?」


「グループ通話ってやつだ、会議用に使ってたらしくてな……サブ、もしメリーとかいう女が出たら繋げろ。オレの携帯に繋げとくからよ……ガラ攫って来るわ。女なら金になんだろ」


「マジっすか!? 詐欺はどうするんすか?」


「それも同時にやンだよ! テメェが役に立たねぇからオレがシノギしてんだ! ちったあ働け!」


「ヒィッ! すんません兄貴! すぐやります!」


 そういう事になった。

 兄貴はチャカを持って女を攫いに行き、サブは詐欺仕事をせっせと行う。


「オレオレ、オレだよ、分かる? そうそう、あ、ちょっと待ってて、もしもし?」

「私、メリーさん。今――」

「はぁ? あんたぁメリーさんなんかぁ!?」

「いやちょっと待って違うんすよ」

「サブゥ!? 保留にするか、せめて適当に話合わせろやぁ!」

「サブさん? これ何人と繋がっとるんじゃ? なんじゃこのイタズラ電話……」

「あっ、チクショウ切られちまった……えっとメリーさん。今どこにいるんすか?」

「そっちはオレがやるからテメェは仕事しろや!?」

「すんません! じゃ適当に……っと、お? またメリーさんか? もしもし?」

「私、メリーさん。今、兄貴の前にいるの」

「なんか変な人形が立ってんぞ、オイ……これ売れるか……?」

「おっ、繋がった」

「はい、もしもし、お母さん?」

「私、メリーさん。今、兄貴の腕の中にいるの」

「えっ! 私が失くした人形の!? 兄貴って誰……?」

「あん? これ嬢ちゃんの人形か? これ高いやつか? 教えてくれよ」

「えっと、好きでしたけど。すぐに別のを買って忘れてたお人形です……?」

「私、メリーさん。その子の家はお金持ちなの」

「オウそうか、いいネタ持ってんなこの人形。母親いねえなら狙い目だな」

「なんなの! あなたたち誰なの!?」

「オレだよ、オレオレ」

「オウ、番号からそいつの住所調べとけ」

「私、メリーさん。今から、あなたの家に向かうの」

「お母さん助けて!? 変な人たちが家を狙って来るの! 早く帰ってきて!!」

「兄貴の相手はお母さんでも無理っすよ……」

「私、メリーさん。今、あなたの家の前にいるの」

「あぁ? 瞬間移動したのか……? どんな技術持ってんだこの人形……」

「あなたたち一体なんなのよ!? いい加減にして!!」

「私、メリーさん。今、あなたの後ろにヤクザと一緒にいるの」

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オレオレ私メリーさん @suiside

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