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自分でも驚くくらいに声を上げていた。喉の制御が壊れてしまったみたいだった。どうしてこんなにミオに対して腹が立つのか、経験したことのなかった私には分からなかった。
そして、思わずミオのことを右手で軽く突き飛ばした瞬間、もうずっと繋いでいなかったはずの手を、たったいま離したような気分になった。ふいに涙が出そうになって、吸い込んだ息と一緒にそれを飲み込む。
「……私は私の大切なものに正直でいるだけ」
数秒黙ったミオの体から、やがて力が抜けるのが分かった。
「……あぁ、そっか。分かった」
今更になって、自分が弟のことを見上げていることに気がついた。いつの間に身長を抜かされていたのか、私は知らなかった。
ミオは地面に置いてあった鞄を拾い上げる。
再び顔を上げたミオの前髪が風に煽られた。真っ直ぐに目が合った弟の瞳が、先ほどとは明らかに何かが違っているような気がしてどきりとした。まるで知らない人と目が合ってしまったような心地だった。
ミオ、と口にしようとした時には、弟は何も言わずに私の横を通り過ぎていた。
夜の公園に一人取り残された私は開いていた右の手のひらを握りしめた。
ふと頭上を見ると外灯の下で飛んでいた蛾は一匹になっていた。さっきまで一緒に飛んでいたもう一匹の蛾は、いったい何処に行ってしまったのだろう。
辺りを少し見回した。灯かりの外の夜は本当に暗くて、それを見つけることは出来ないかもしれないと思った。私は、泣いてしまった。
ふたり 完
ふたり 文月 螢 @ruta_404
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