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「何をそんなに怒ってるの」
「……怒ってねぇし」
私は何度か頷いて立ち上がる。
「じゃあ帰ろ? お腹空いた」
「じゃあ一人で帰れば」
「ミオを連れて帰らないと意味ないでしょ。ほら」
「……は、何」
右手を差し出した私を、ミオは眉を顰めながら見上げる。
「こうすると元気出るでしょ? 悩んでることがあるならお姉ちゃんに相談しな」
小さい頃はよく二人で手を繋いだ。事あるごとに「ミユ、手!」と私に手を伸ばしてきた弟のことをよく思い出す。小学校の高学年になったあたりから、私たちは一緒にいる時間がだんだんと減っていった。高校に入ってからは私が話しかけることはあってもミオから声をかけて来ることはないし、会話も滅多にしなくなった。
手を握ろうとした私を、ミオが思い切り払い除けて立ち上がる。
「……っ、何年前の話してんだよ。……てか、たった数分早く生まれたからって偉そうにするのやめろよ、苛々する」
「偉そうになんてしてないでしょ」
ミオの大きな瞳は伸ばした前髪に隠れてほとんど見えなかった。それでも、睨まれていることだけは分かった。
「……あのさ、ずっと言いたかったんだけど、お前、学校で女子と手繋ぐのやめろよ」
「なんで?」
ミオと手を繋がなくなってからも、私は誰かと手を繋ぐことが日常になっていた。大切な人とは手を繋ぐことが私にとっては当たり前になっていた。
「レズって言われてるの知らねぇのかよ」
中学の時に、廊下で誰かにそう言われたことを思い出す。私は気にも留めなかった。その頃から仲の良かった友達とは同じ高校へ通うことになった。高校で新しい友達はまだ一人も出来ていない。クラスメイトから距離を置かれていることはなんとなく分かっていた。でも、私はあまり気にしないことにしている。
「知ってるけど、それが何」
大切なものは大切で、それがどんな種類だとか強さだとか、そういうことにはこだわらないし、そんなことはどうでも良かった。
大切、ただその言葉だけで説明が出来ないことも、他の呼び方を繕う必要も、私にはない。
「お前がそんなだから、俺が迷惑してんだよ」
「迷惑?」
「お前が女同士で手繋いだりしてると、俺までホモとか言われんの。双子だからって何でもかんでも一緒にしやがってうんざりなんだよ」
「じゃあ私とは違うってはっきり言ってやればいいんじゃないの」
「全員馬鹿だから通じねぇんだよ」
「そんな奴ら放っておけばいいじゃない」
「だからお前がそういうことしなければアイツ等だって俺に絡んで来ないだろ!」
「全部私のせいにして、私と結び付けてるの自分なんじゃん! 嫌ならちゃんと私と別々なんだって自分で言えばいいでしょ!」
ミオとこんな風に怒鳴り合って喧嘩をしたのは、生まれて初めてのことだった。
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