ふたり

文月 螢

1

 

 夕飯前になってもミオが帰って来ないので、私は母の機嫌が悪くなる前に「探してくる」と家を出た。

 初夏が近づく午後七時、日中はずいぶん暑くなった町も、日が暮れてからは風がまだ少し冷たい。長袖でも良かったな、と後悔したけれど家に戻る気もしなかったので半袖のまま夜に足を踏み出した。


 家から五分ほど歩いたところにある小さな公園で、弟のミオを見つけた。

 ミオはブランコに座って、ぼうっと空を見上げている。視線を追うと、外灯の下に二匹の蛾が群がって一緒に遊んでいるかのように飛び交っていた。


「ミオ」


 私の声に弟はこちらに顔を向ける。

 幼い頃、双子の私たちは「本当にそっくり」と言われていたけれど、今ではほとんどそんな風に言われることは無くなった。二か月前に入学した高校では、言われるまで気づかなかった、とみんなが口を揃えて言う。私はそれを、少し寂しく感じる時がある。


「ご飯もうすぐ出来るって。早く帰らないとお母さん怒るよ?」

「……」


 ミオは私から目を逸らし、地面を見つめた。


「こんなところで何してるの?」

「……別に。散歩してただけ」


「学校終わってからずっと?」


 ミオは部活をしていないはずだから、放課後すぐに家へ向かえば遅くても夕方の五時半には帰って来るはずだ。今日は部活が休みだった私の方が家に着いたけれど、ミオはなかなか帰って来なかった。そしてもう七時。制服のままずっと公園にいたのだろうか。


「……」


 ミオは答えなかった。


 ここ数か月で、ミオは急激に口数を減らしていた。口が悪くなって、不愛想にもなった。母は反抗期だと笑った。


 私は、両足を投げ出してブランコに座った弟の足の間にしゃがみ込んで、彼を見上げる。


「最近元気ないじゃん」

「……は?」


 案の定、睨まれてしまった。


 

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