おもちゃのスター

日音善き奈

おもちゃのスター


おかしの国に住むクッキーとケーキは、おかし作りが大好き。

今日もおかしのお城で、てづくりのあまーいおやつを食べておひるねしています。


「あれ?ちょっと早く目が覚めちゃった」

「う〜ん、まだみんな寝てるね」


目がさめたふたりは、おうちを抜け出してたんけんに出かけました。

森の中の小さな空き地に出ると


「ひゅーい、ひゅーい」


ふしぎな音がきこえました。


「おうい、きみはだれ?」

「おいらは、つむじ風のこどもさ」

「そこで何をしてるの?」

「りっぱな風になる練習!

おまえたちみたいなちいさな子や、わんこや、家までふきとばせるくらい強くなるんだ」


風の世界では、ヘクトパスカルが大きいほどえらく、女の子にもモテるそうです。

クッキーとケーキはつむじ風の練習に付き合うことにしました。

二人をのせて飛ぶことが出来れば、りっぱな風の仲間入りです。


「それー!」


くるくるくる

つむじ風は思いっきり走りますが、ふたりはその場で回るだけ。

それでもめげずに練習して、つむじ風は二人をのせて運べるくらい強くなりました。


「フォッフォッフォッ、おわかいの、おぬしはつよい風になりそうじゃ。

どうじゃ、強風コンテストに参加してみんか」


どこから見てたのかおじいさんが木かげから出てきて言いました。

その言葉につむじ風は大よろこび。


「おいらが強い風になりそうだって!

おじいさん、おいらをコンテストにつれていってよ」


コンテストではそよ風や春風、木枯らしや痛風など色んな風が出場していました。

特に山おろしはとても強く、つむじ風は負けてしまいました。

その夜、クッキーとケーキがまた目を覚ましてトイレに行くと、おじいさんの声が聞こえてきました。


「クックック、みんなよう育っとるわい。

特にあの山おろしは有望そのもの。

このまま行けばおかしの国を吹き飛ばすこともできそうじゃ」


なんと!おじいさんは悪い人だったのです。


「たいへん!風たちはだまされてるんだわ」


クッキーとケーキはあわててつむじ風を起こして今聞いたことを話しました。

他の風たちにも今の話をして、コンテストはやめようと言いましたが、誰も話を聞いてくれません。


「どうしてみんな僕たちの話を聞いてくれないんだろう?」


クッキーがふしぎそうに言うと


「コンテストで優勝すれば、女の子にモテるんだ。おいらだって、本当は優勝したいよ」


つむじ風がはずかしそうに言いました。



クッキーとケーキはなんでも知っている森のいだいな木に知恵を借りに行きました。

でもいだいな木だったのは今は昔、あんまり長いこと誰も来てくれなかったので、にんちきのうがだいぶ落ちていました。


「わしはもう年寄りだから山おろしを止めることなどできんよ」

「そんなこと期待してないから!どうすればいいのか教えて!」

「これでも昔はの〜……昔は強かったんじゃがの〜……」


話は平行線です。


ケーキとつむじ風がイライラを隠せない中、のんびりやのクッキーがしんぼう強く元いだいな木だったの話を聞いていました。

そして


「この国の王様、おもちゃのスターに会えばなんとかしてくれるって!」


と言いました。


おもちゃのスターはどこに住んでいるのかわかりません。

でも、空に虹がかかるときは必ずてっぺんまで登っていって、すわって歌を歌っているそうです。


大変、つむじ風は次の雨までに虹のかかる高さまで飛べるようにならないといけません。


必死に練習するつむじ風ですがなかなか虹の高さまでは届かず、きげんが悪くなっていきました。


「オイラばっかりが大変で、お前ら何やってるんだよ!お前らの国のことだろ!」


その言葉に、ケーキは泣いてしまいました。

クッキーはケーキの手をぎゅっとにぎって言いました。


「じゃあいいよ、がんばらなくて」

「え…!?」

「いいから、もう。ぼくたちだけでなんとかするから」


クッキーはいい子なのですが、ものの言い方というものを知らない子でした。

ケーキといっしょにお城に帰ると大きな画用紙を何枚もつなぎ合わせて、虹の絵を描きました。

虹が出るときは必ず現れるほどの虹好きなのだから、ニセモノの虹でも出てきてくれるかもしれません。


「できたよー!」


できあがった絵を持って、ニコニコしながらつむじ風のところに戻ってきました。

ふたりはつむじ風と一緒に高い山に登って、虹の絵をひろげ、おもちゃのスターが現れるのを待ちました。



やがて、三角帽子の小人さんがはなうたを歌いながら現れました。

小人さんはひょこひょこと虹の上に登ると体を揺らして歌い始めました。


「あなたがおもちゃのスター?」

「ぼくがそれだよ!」

「たすけて、おかしの国がピンチなの!」


話を聞いたスターはこう言いました。


「それは、この国の魔法をとくしかないね!」


昔々、この国はしあわせも魔法もない、つらく厳しいところでした。

それを見て胸を痛めたスターが魔法を使って楽しいことがいっぱいの国にしたのです。

魔法をとけば、風は話すことも望むこともやめ、悪い人に利用されることもなくなるとのことでした。


「つむじ風としゃべれなくなるなんて、いや」


ケーキはしくしく泣きました。


「言葉がつうじなくても、おいらたちは一緒さ。

かなしい時はなぐさめてあげる。こうやってね」


そう言ってつむじ風はケーキのおさげをふわふわと揺らしました。


「ぼくは、前みたいなつらい世の中を見るのはいやなんだ。

だから前みたいに戻ってしまうなら、魔法はとかない。

この国が魔法なしでも幸せいっぱいだってことを教えてよ!」


そう言うとスターは不思議な本を渡しました。


「この本に、幸せをたくさん集めてきて!」


クッキーとケーキはお城に帰って、朝になってからまちに幸せ探しに出かけました。

道行く人びとはみな幸せな人ばかりでした。

おじいさんもおばあさんも、お花屋さんもお菓子屋さんもみんな幸せでした。

魔法の本は幸せのページであっという間にうまっていきました。


もっともっと幸せを探そうと、ふたりは山の奥へ行きました。

そこは三つ子の魔女が住んでいる山でした。

魔女たちは訪れた人に野草のスープをごちそうしてくれるのですが、そのスープを飲むと、おかしの国の魔法がとけてしまうのです


山にはすでに魔法がとけてしまった人たちが寄り添うように暮らしていました。

みんな、幸せではありませんでした。


「ここのみんなは幸せじゃないの?」

「幸せなんて、魔法がとけた時になくなってしまったよ」


「三つ子の魔女を倒そうよ。おいらがふーっとふきとばしてやる!」


クッキーとケーキはつむじ風にのって岩山のてっぺんに住んでる魔女の小屋にいきました。


「ひっひっひ、かわいいじょうちゃんとおぼっちゃんがきたねえ。

さあスープをどうぞ。飲みやすいようにトナカイの肉もつけておいたよ」


そう言って魔女はドロドロしたくさいスープをだしました。

おなべには、トナカイの頭がどかんと浸かっていて、とてもぶきみです。


「わるい魔女め。そのくさいスープを飲ませてみんなからしあわせをうばったな。

おいらがふきとばしてやる!」


ひゅーっ


魔女たちはコロコロところげていきました。


「きゃー!」

「こしがぬけたーっ」

「かたがあがらんっ」


ひんしの魔女たちはうすぐらい部屋の食器棚のうしろにかくれてしまいました。


「みのがしておくれ、あたしたちはわるいことをしてたわけじゃないんだよ」

「おもちゃのスターのおさとうとバターとクリームのせいであたしたちはみんな、ほれ、こーんなにシミ、シワだらけ!」

「みんなをあたしらみたいにさせたくないから、とびきりのデトックススープを作って食べさせていたんじゃ!」


はなしを聞くと、スターの魔法でつくりだしたおかしは、食べ続けると魔女みたいにシミ・シワだらけになってしまうということでした。


「魔女たちはいいことをしようとしてたんだね……。料理がへたなだけで」


とクッキーがいいました。


「それならわたしたちの出番!体にいい素材を使っておいしい料理をつくろう」


クッキーとケーキは魔女のつんできた野草を使って、おいしくて体にいい料理をたくさんつくりました。

おいしくて、肌にもよくて、みんな少しずつ、幸せのページが増えていきました。


やがて本がしあわせのページでいっぱいになったので、もう一度スターに会うために虹をかけました。


「はい、スター、本にしあわせをいっぱいあつめてきたよ」


そう言ってケーキが本をわたしました。


「わあ、よく集めてきてくれたね。みんな、ありがとう!ぼくとってもうれしいよ!」


「というわけで、スター、きみはもう用なしだ!」


「え〜〜!」


ニコニコ言うクッキーに、スターは目からぽろぽろ涙をこぼしました。


「ちがうちがう!

スター、今までみんなを幸せにしてくれてありがとう。

もう、魔法がなくても幸せだからもう安心してね」


「うん、わかったよ」


スターはちょこんと虹にすわりました。

らんらんらん、かたをゆらして歌を歌うと、おかしの国の魔法がとけていきました。

水も、木も虹も風もしずかになっていきました。


つむじ風はふたりの周りをぐるぐるとまわりました。

ぐるぐるぐる、突風だったのが、やがてそよ風になり、さいごにはきえていきました。


「つむじ風、ありがとう」

「たのしかったよ」


クッキーとケーキは、みんなを幸せにする魔法のような料理をたくさんつくろうと、おかしのお城に帰っていきました。

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おもちゃのスター 日音善き奈 @kaeruko_inonaka

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