第9話 黄金瀑布の後、海岸線をひた走って鄭南榕のお墓へ 二日目その4 2009年7月初台湾

 そして、車はいよいよ「黄金瀑布(おうごんばくふ)」(瀑布=滝)に到着。その名の通り、本当に岩が金色だ。基本曇っていたこの日の空の下でも、見事に金色だった。

 ここの岩は全て金、なわけではなく、酸化鉄で金色に染まっているだけだそうだ。更に流れる水は、鉱山の鉱石の間を通り成分を吸収しているため、重金属の含まれた危険な水。

 足尾銅山の排水とかと同じようなものなので、滝の周囲には「身の安全のため水遊び禁止、この水は有毒だ」という注意書きが立っている。

 言われなければ本当に水遊びしたくなるスポットだ。周りは緑の草が茂り、その中に金色の岩の滝。水だって見た目は綺麗に透き通っているので、ごくごく飲むまではしなくても顔くらい洗いたくなる。

 実際、危険性が知られてなかった頃には子供が普通に遊んでいたりしたのではないだろうか。


 滝をバックに、王さん、施さんも一緒に写真を撮ってから、更に山を下る。そして、下りながら車内でランチタイム。


 鉱夫弁当(これはあくまでもイメージで、実際の鉱夫はこんなゴージャスなお弁当食べるなんて無理だったらしい)は、黄金博物館をプリントしたお弁当風呂敷で包んだアルミのお弁当箱(これにもイラストがついている)の中に、炊き立てご飯、その上に高菜と肉の炒め物、更にその上に大きな豚ロース肉が一枚、どんと載っているボリューム弁当。

 お弁当箱、お弁当風呂敷、箸はそのままお土産になる。

 黄金博物館に行ったら、お昼は絶対にこれを食べたい弁当だった。


 山を下りきった車は、今度は海沿いを北へ向かって走り出す。北部濱海公路という道が、海沿いをずっと走っている。

 残念ながら曇り空の下、台湾のこの辺りの海は全然南の海に見えない。どちらかというと日本海のように見えるのはなぜなんだ。

 海沿いだし、漁港の傍の小さな店のガラスの中にはカラフルな浮き輪やビーチボールを売っているのも見えるのに、まったくトロピカルな雰囲気のない灰色っぽい海。7月の、しかも台湾なのに。


 王さんは助手席でスヤスヤ。

 なにせマニアックな目的地がいったいどこにあるのかを、昨日の夜にJTBから連絡受けてガイド引き受けて以来、かなり夜遅くまで調べてくれた後、今朝は8時にホテルへ迎えに来てくれているのだ。是非寝てください。


 道は基隆を通過し、2時頃に萬里に入る。

 周りの家は、屋上があって壁はタイル張りの、どこか西洋風なスタイルの四角い一戸建てが多く、日本とは全然違う雰囲気の街並みだ。

 道から少し離れた山の中に、そういう家がぽつんと建っていたりする。そしてとにかく道沿いの緑と花が多い。

 どこかレトロな西洋風の家が、一階部分だけセブンイレブンになっているのもちょくちょく見かけた。日本だと下駄ばきマンションとか以外では、プレハブの単独店舗になっている場合が多いので、タイル張りの一戸建てとセブンイレブンの組み合わせはとても新鮮に見える。


 道端に「台北縣議員 周雅玲ヂョウ・ヤーリン」という巨大な看板が立っていて度肝を抜かれたのも、この萬里でだった(2009年なのでまだ新北市でなく台北縣)。

 おばあさんが編み物をしているイラストだったので、てっきりおばあさん議員かと思っていたら、1968年生まれだというから、この時まだ41歳じゃないか。今も現役の議員さんらしい。


 更には女豹のポーズのセクシー看板が道端に立ち、その下では電話ボックスのようなブースの中にミニスカートの販売員が立って、檳榔(びんろう)を売っている。

 檳榔。

 眠気覚ましにいいと聞いていたので、てっきりペパーミントガムみたいな、受験生からサラリーマンまで幅広く愛用しているアイテムなのかと思いきや、どうもどちらかというとバイアグラな感じでブルーカラーの愛用者が多いと、ガイドの王さんから教えてもらい、目から鱗だった。

 道理でセクシーな販売スタイルが多いわけだ。

 檳榔西施と呼ばれるミニスカコスチュームの販売員がいるのはだいたい郊外の道路沿いで、街中になると別にセクシーコスチュームではなくなるし売り手も別に若いお姉さんに限らなくなる。

 台北の街を歩いていると、なんだか花火のような扇形のネオンが輝いている店があるなと思っていたが、この扇形ネオンが檳榔販売店の目印だった。昨日夕飯を食べた吉林路にも扇形ネオンの店はあったが、そんなセクシーコスチュームな人を見掛けた覚えがないのには、これで納得した。

 そして南の方へ行くとごく当たり前に、コンビニっぽい雑貨店の店先で売られている。別に扇形のネオンももうない。

 いまだに噛んでみたことはないのだが、臭豆腐の次はやはりこれに挑んでみるべきだろうか? 興味はあるんだ、とても。


 金寶山景觀墓苑に着いたのは2時ちょい過ぎだった。

 入ってすぐのところが、メモリアルパークのような広い芝生になっていて、そこの一番上に鄭南榕ヂャン・ナンロン(ていなんよう)の墓がある。

 今回の旅行前に台湾史をざっと勉強した中で、この人すげえ、と思った人の一人だ。

 お墓がここにある、という情報が当時見つからず、「テレサ・テンのお墓の傍」というアバウトな情報しか王さんに伝えられなかったのだが、傍も何も同じ墓苑の中にあった。

 お墓でもこういうメモリアルパーク的なものであれば写真は撮ってかまわないそうで、お参り(といっても手を合わせて拝んだくらいなのだが)の後、写真を撮る。


 このメモリアルパークには、オブジェのような碑が色々立っているのだが、その中に、胡弓を弾いているおじいさんとその前にティーセット、子供、という大きな石像があった。

 おじいさんの口には誰だかがちゃんと煙草を咥えさせている。

 誰だろうねーと思ったら、布袋戯の李天祿リー・ティエンルーさんだった。

 といっても当時はまだ布袋戯の存在を全然知らなかったので、侯孝賢映画に出てる人、な認識だったのだが。


 ここの墓苑はとにかく広く、このメモリアルパーク以外にも、一軒一軒のお墓からして、中で生きた人間が普通に暮らせそうに大きかったりする。

 苑内を移動し、テレサ・テンのお墓にもついでにお参り。

 こちらは一人用のメモリアルパークになっていて、歌も流れていた。そしてお参りしている人の日本人率が高い。

 ここにはテレサのお母さんと、更に去年亡くなった弟さんのお墓もある。花が多く供えられ、今もファンが多いのが窺えた。


 苑内にはロッカー式のお墓もあり、仏塔風、道教向け廟風、教会風、と分けられている。

 教会風建物でトイレを借りることに。ここのトイレは流せるトイレ。

 日本でもカトリック教会とかで、建物内部にお墓があるところがあるが、あんな感じの建物だ。

 死者へのメッセージを遺族が書いて下げておく場所があって、なんとなく見ていると「今度テストなんだけど、お姉ちゃん英語得意だったよね、助けて」なんて内容のが下げてある。死者と生者の距離は近い。


 とにかく広いからか、墓苑にはガードマンさんもいる。警備犬らしい犬もいるっちゃいるのだが、こちらは小屋の中ですやすや眠っていた。


 3時過ぎ、墓苑を出て台北への帰途につく。

 車内では主に王さんとおしゃべり。

 台北で映画のDVDを買うならどこがいいか訊いてみると、光華商場がいいよと教えてくれた。

 蔡明亮監督の「西瓜」は面白かったよねという話になり(「西瓜」は邦題で、原題は「天邊一朵雲」なのだが、「西瓜の映画」でばっちり通じるのが笑えた)、歩道橋についても訊いてみるが、王さんは「ふたつの時~」を見ていないので、どの歩道橋だかわからなかった。


 北部濱海公路を引き返して基隆に入り、フォルモサ高速道路に入る。

 この手前で、実は2020年に人気スポットになりそうな「外木山漁港」の火力発電所な煙突が見えていた。外木山漁港は「路~台湾エクスプレス~」で、ユキちゃんの故郷としてロケが行われた場所。画面に煙突が映っていたので「電線が都会に通じてるって台詞があったし発電所かな?」と調べ始めたら、あっという間に「外木山漁港」という回答が台湾好きな人々の間で出ていた。マニアの情報力はすごい。

 フォルモサ高速道路を一路台北へひた走って、予定通りに四時前、ホテルへ戻っての解散となった。

 ほんとにお世話になりました。

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