第4話 台湾BL書店へ。そして台湾の住所はややこしい。 初日その3 2009年7月初台湾
目指すは台北駅。そこの駅前に、行ってみたいBL専門書店があるのだ。
忠孝西路一段72號にある雑居ビル「台北廣場大廈(台北広場ビル)」内には、この頃台湾のBL出版社で最大手だった
で、この出版社はこの前の年、2008年に開催された東京国際ブックフェアの台湾ブース(中華民國圖書出版事業協會のブース)に書籍のサンプルを並べていた。そして、中国語初級クラスに春から進んで「我是日本人」とか「今天很熱」とかの文法を学び始めていた私は、文法の勉強用に漫画とかないかな~と覗きに行ったそのブースで、台湾BLと運命の出会いを果たしていたのだった。
ブックフェアそのものには、出版社に勤めていたという経緯から、出店者側としても一般参加者としてもさんざん参加していたのだが(たぶん2002年くらいからは毎年行っていたはず)、外国語書籍を買うぞという目的で行ったのはそれが初めてだった。
そして、香港ブースに行ったらその年はなぜか紙袋のサンプルしかなく、中国ブースには幼児向けの学習教材とチベット美術の専門書……。台湾ブースでようやく求めていたようなラノベ系の本と――しかもBLと――出会えたのだった。
背表紙下に書いてあった『威向』という社名を『成向』と誤読したこともあって(そんな内容なら絶対ラストまで意地と根性で読むだろうと思って)、計3冊購入。
さすがにこの時、そんな過激な本は持ってこられていなく、かなりソフトな描写のものがメインだった。
ただし、あくまでもサンプルだったので、そこにあったのはどれも第一巻、前編、上巻、というラインナップ。つまり全巻揃っているものは一冊もなかった。
だから今回の旅で続きを買いたかったのである。
というわけで、記念すべき台湾の初書店は誠品でも金石堂でもなく、BL書店。事前に人に頼んで店舗に連絡し、先月出た新作を取り置きしてもらっている(発売と同時にばんばん売れてて売り切れそうだったので)。ついでにサイトの道順案内ページもばっちりプリントアウトして持ってきている。
淡水線で台北駅に到着し(二駅でトークンは20元)、駅構内でトイレに寄ってから、改札を出た。
この時の台北駅トイレ(ここも紙は流してOK)で、『女子トイレなのに個室に入ると便座が上がっている』という光景を初めてリアルに見て、わくわくする。
主としておばさん以上の世代(当時でたぶん50代以上くらい)が、洋式トイレで便座に腰掛けず、便座を上げて陶器の縁の上にしゃがんで用を足す、というのは映画で見たことはあったが、その痕跡を実際にこの目で見るのはこの時が初めてだった!
後々わかったこととしては、公衆トイレの便座の衛生度合に信頼がおけないのでこうなる、ということらしい。便座シートとか便座クリーニングがあればこうはならず、ある程度衛生状態に信頼のおけるトイレであればこれはやらないらしい。
あと、若い人は基本的にやらない。和式タイプに馴染んだ人が公衆トイレの便座を信用しないのか、若い世代もいずれ便座を上げるようになるのか……。
10年経過したところ、どうやら当時のおばさん世代より若い人は、おばさん世代になってもこれはやらないようだ。たぶんあと30年くらいしたら、女子トイレの便座が上がっている光景は見られなくなるのではないか。
あおやんはこの時、ラッキーだった。個室から出てきた子が女子高生で、しかも便器をちょっと掃除してくれていたそうだ。
トイレを出、改札を潜って台北駅の地下街へ。站前地下街(「
Z8の出口から階段を上って地上へ出る。
するともう、サイトの写真にあったビルはこれだ、というのが見えた。もはやプリントアウトに目をやることすらせず、絶対ここだ、とエレベーターホールへ。大当たりだった(エレベーターの上にフロア案内があって店名が載っている)。
訪れた店の入口には、日本の漫画を原作としたオンリーイベントのチラシなども貼ってあり、ものすごく馴染みのある雰囲気。そして店内には二重本棚がずらり。
この二重本棚は、DVD店なども含め、マニア向けに在庫数を増やしラインナップを全網羅しておく必要があって、なおかつ店の面積はそんなに広くしたくない店でよく見られるアイテム。特にここは直売店ということもあり、在庫置き場も兼ねている感じで、売れ筋本はどの巻も数冊ずつ並べてある。不思議なのは、本の並びがなぜか下からなのだ。下の段の左から一巻が始まり、右上へ向かって数字が大きくなっていく。なぜ??
他に店内にはポスターや同人誌も大量に並んでいて、アニメイトの書籍フロア的な空気が漂っている。
まずはレジに行って、日本から予約して取り置いてもらっていた新刊、全五巻をゲット。
迷子にならずによく来たね、と驚かれる。初めてくる人は基本迷うらしい。でもサイトの道順案内はかなりわかりやすかったし、エレベーターホールに入れば、フロア案内にも店名が書いてある。そしてエレベーターから降りれば店はもう真ん前だ。
「卡,可以用嗎?(カード、使えますか?)」と訊いてみると、1000元以上からならOKとのこと。一冊が大体160~180元くらいだ。で、今日は今の5冊を含めて30冊以上買う予定なので、余裕のよっちゃんでカード使用可だ。
本棚から、去年のブックフェアで買った本の続きを全部ピックアップ。この段階で既に30冊超え。
そして、その山をあおやんに持っていてもらって、更なる出会いを求めて棚の背表紙に目を走らせた時に、「虚無仮説」との運命の出会いがあった。
会計を済ませると、ざっと4000元ほど。
台湾では再販制度がないため、書籍にも割引がある! さらにここは直営店なので、ほぼ仕入れ価格な感じに割引サービスがあるのだ!!
といってもいいことづくめではなく、発行部数は少なめで、更に割引して出版から数ヶ月で売り切ってしまう(売り切れなければ返品)ので、品切れ率と絶版率が恐ろしく高く、特にラノベBL漫画は、同人誌かというくらい回転が速くて、去年出た本なんてどこの書店にもないという事態がザラだ。最近は少しましになってきているが、それでも台湾の本は基本的に一期一会。気になったらその場でゲットが鉄則だ。
かなり重たい荷物になるため、紙バッグ(コミケで配っている感じのキャラクターが印刷されたPP加工の大型袋)を二枚重ねて本をずらりと入れ、更に大量に買った人用のおまけプレゼントも色々入れてくれる。
おまけはポストカードなどのイラストグッズが主流。
この夏の東京国際ブックフェアにも出展する、というのも確認して5時過ぎに外へ。
肩に食い込む紐が痛いが、愛の重さだ。
ここでちょっと不思議なことがあった。ここは台北駅前なのに、台湾映画の中で台北駅が映る時に必ずセットで映っていた歩道橋が見当たらない。
飯田橋駅前みたいな大きな歩道橋があって、その上で撮られた映画だってあるのに、あの歩道橋はどこ行っちゃったんだ?
台湾ニューシネマブームが大体私が高校生の頃で、「悲情城市」とか「牯嶺街少年殺人事件」が入ってきていた。そしてその後も、年一本くらいは新作が日本でも封切られていた(メインはあくまで香港で、次に中国、次に台湾な感じ)。
高校の時に香港映画ファンになり、大学時代から映画祭とかでちょこちょこ台湾映画も見るようになり(「推手」とか「多桑」とか)、会社に入った後も1999年頃から映画を見まくっていると、年に一、二本は台湾映画が入ってくる。
だからせっかく台湾、それも台北駅前に行くなら、2002年に見た「ふたつの時、ふたりの時間」の主要な舞台の一つだったこの歩道橋には絶対行きたかった。
しかし、駅前のどこを見ても歩道橋はない。駅の裏側には高速道路が走っているし、絶対こっち側のはずなのに、歩道橋はどこへ??
あとでわかった。この歩道橋は、実は「ふたつの時、ふたりの時間」が2001年に台湾でクランクアップした後、撤去されてしまっていた。
そしてなんと「天橋不見了(歩道橋が消えちゃった)」という続編的な短編映画までできていたのだった。なんてこった。
「ふたつの時、ふたりの時間」の中でパリに行ったヒロインが久しぶりに台北に戻ってくると、主人公が腕時計の露店を出していた歩道橋がなくなっている。ヒロインは困惑するが、手掛かりは何もなく、主人公を見つけることはできない。
この短編は、その後、親父にこの監督の映画を見せたさに購入したDVDボックスの中に、特典として収録されていて、ようやく見ることができた。
2009年の私は初めて訪れた台北でリアルに「天橋不見了」していたわけで、それ以来、私はかなり頑張ってあちこち好きな映画の聖地を巡礼するようになる。
諦めて次に向かったのは、「華泰茶荘 台北店」。博愛路69號、にあるこの店を目指す。
その途中で、なんだか美味しそうな牛肉麺店を見かけたが、夕飯の時間にはまだ早い。更に人気店らしく行列ができているので諦める。
博愛路の入口にあるのは、東京駅前郵便局ととてもよく似ている北門郵便局。そしてその向かいには、清の時代に台北の街を囲っていた城壁の城門の一つ「北門」。
北門は、この時とてもかわいそうな状態だった。
すぐ後ろに高架道路が通っているので全然映えないのだ。ついでにデザイン自体もシンプル&古風な(清朝の頃からまったく変わっていない)、悪く言うと地味な門なのだ。
日本橋かよという感じで屋根のすぐ上に高架道路。地味デザインと相まって、まるで公衆トイレのように見えた。
しかし、それから数年、後ろの高架道路がなんと撤去され、北門の周りの道路も整理され、更に足元を公園風に整備してもらって、今や北門はとても映えるスポットになっている。
まさにバージニア・リー・バートンの「ちいさいおうち」の世界だ。
ライトアップされた北門の背景には、今、台湾博物館の新エリアとして元の鉄道部の建物が整備中。更に郵便局も、日本統治時代にあったという車寄せの再現工事が行われていて、北門はまるでこの歴史エリアのゆるキャラのように、かわいく見えるようになった。
郵便局の掲示板では面白いものを発見。
『防空演習』と書いたチラシがあったのだ。『防災』じゃなくて『防空』?
日付は6月30日。二日前だ。しかもラストには日本語で『サイレンが鳴ったら通行中の人は警官の指示に従って屋内に避難すること』と書いてある。二日前にそんなイベントがあったとは!
これは非常に印象深く頭に刻み込まれた。
郵便局前にはポストもあって、赤いポストと、緑のポストが二つ並んで立っている。
緑が国内、赤が国際という使い分けで、台湾国内では郵便局カラーは緑だ。だから箱の色も緑がメインだし、配達車や配達バイクもみんな緑だ。ついでに電信柱はなくて配電箱が地面に設置されている。
さて、しかし私たちが目指すべきはこの通りの69號なのだ。69號はどこだ? そして郵便局の向かい側、そろそろ灯りの点いている看板は、どれもこれもカメラ店だ。あれ?
とにかくこの辺りの店の番地プレートを見ると、まだ番号が若いので、私たちはこの通りを南下していくべきなのだというのはわかる。
しかし、その先が試練だった。番号が、普通に順番通りに並んでない。なんでこんなにバンバン飛ぶの?
あとからわかったこと。
通りの片側に奇数、反対側に偶数とまとめられていたのだ。
ついでに、元々は小さな建物が三軒建っていたような場所だと、その三軒が取り壊されて大きなビルになった場合でも、なんと番地は消えない! ワンフロアに三部屋が並んでいれば、かつての番地がそのまま割り振られるので、一棟の建物が数軒分の番地を持っていたりする。……素人にわかるわけがない。
更に言えば、交差点部分の建物は、また別な通りの何番地だったりする。番地プレートの上に通り名が書いてあるので、数字だけでなくそっちもチェックしなければならないのだ。……初心者にわかるもんか。
かくして博愛路はダンジョンと化して我々二人の前に立ち塞がった。歩いても歩いても、突然すっ飛ぶ数字に翻弄され、69號は見つからない。
ついに道行くおばさんにショップカードと住所を見せて「請問。我們想去這裡。在哪裡?(すみません、私たちここ行きたい、どこですか?)」と訊ね、おばさんが指差してくれた先に大きな看板が見えた時のありがたさと言ったら!!
住所で探していると、意外と看板は目に入らないものらしい。
ようやく辿り着いた華泰茶荘、台北本店。渋谷のお店も茶器とか色々並んでいるが、こっちも色々売っている。
渋谷店から持ってきたショップカードを見せ、片言で遣り取りして、お茶を購入。凍頂烏龍茶、100グラム400元。
そしてさすがに荷物の重さに負け、ここからはタクシーでホテルへ戻る。これは正解で、途中、雨が降ってきた。大量の本を抱えて雨の中を歩く羽目にならなくてよかった。
そして戻ったホテルで、この旅行における最大の試練にしてトラブルが我々を待ち受けていた。
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