Episodio 3 ローマの復活祭(Takatsuki)
1
翌日―聖水曜日の朝、まだ明けきらぬ前に私は教会の鐘の音で目覚めた。私の部屋は障子を開けると往来がよく見える二階であった。
すると、しばらくしてから石垣の中へ続く門から三人ばかりの人が姿を現し、教会の方へ歩いてくる。よく見ると中央はジュストで、あとの二人はお付きの
私も慌てて御聖堂へと向かった。日の出とともに
「おはようございます。昨日はよくお休みになれましたか?」
ジュストは我われにまずはそう言ってさわやかに挨拶をした。
そしてその日は、翌日から始まる聖週間の一連の典礼の準備で大忙しだった。教会の御聖堂を式典にふさわしく飾りつけ、聖具もすべて燭台から香炉に至るまで本格的なものばかりであった。
そして何よりも目玉となったのは、
これには手伝いに来ていたジュストも目を見開いて驚いていたし、オルガンティーノ師でさえ、
「日本で
と、驚嘆の声を上げていた。その組み立て作業を見ながら、集まっていた我われにオルガンティーノ師は、
「
と言い、そしてそのあとだけ日本語で、
「なぜなら、オルガーノを使いこなす拙者の名前はオルガンティーノ」
と高らかに笑った。人びとの間でも和やかな雰囲気が流れた。
この司祭と接していると、魂が明るくなる気がする。安土の
こういうことを言うと不遜のように思えて申し訳ないが、今は豊後にいる、とあるあのお方とは対照的だとふと感じていた。
その日の午後、二十五名ほどの少年たちが修道士に引率されて到着した。私は都から来たと思い込んでいたが、あれは安土の
「聖歌隊が来ましたね」
と、オルガンティーノ師もうれしそうだった。そこに我われが豊後から連れてきた少年、伊東ジェロニモが彼らに紹介された。これまでジェロニモは我われと行動を共にしていたが、ここではじめて我らの庇護下を離れて安土の神学生たちと合流することになった。
そして翌日の朝、聖木曜日のミサが執り行われた。本来、この日のミサはその教会に属する
聞けば高槻にはほかにも二十ヶ所ほど教会があるという。教会とはいっても常駐司祭がおらずにミサが行われないのだから集会所か礼拝堂とでも呼ぶべきかもしれないが、それぞれの教会を中心に生活する
たしかに次々に城門をくぐってミサに参列する
そのような中、厳粛に典礼は始まった。司式司祭は当然のことヴァリニャーノ師で、きらびやかな白い祭服は人びとの目を引いた。ミサが始まると、
集まった会衆は初めて聞く
ミサは進み、
「
我われにとっても久々に聞く「栄光の賛歌」だ。四旬節の間はミサの中で、この「栄光の賛歌」は歌われないことになっているので、この歌声によっていよいよ四旬節も終わったということが示されている。
そして、参列した多くの人びとが聖体拝領をし、祭壇の前に横一列に跪いて並んだ
このミサは、キリストの最後の晩餐における聖体の聖別を記念するものであるとともに、罪びとと『
このミサの後で、
会衆の多くは商人や農民である。そういった階級の人びとの前で貴人が苦行を行うという光景は、教会以外ではこの国のどこであっても見られないであろう。まさしく『
ミサの後でさらに
引き続き御聖体を墓の幕屋に安置する聖体安置式が行われ、聖歌「パンジェ・リンガ」の合唱が伴奏なしで流れる中、御聖体を入れた聖櫃を胸に持つヴァリニャーノ師が御み堂の祭壇とは別の部屋に設けられた墓の幕屋までゆっくりと行進する。我われ司祭団もその前後を手にろうそくを持って行列に加わるのだが、ヴァリニャーノ師の頭上に傘のような形態の天蓋をもさしかけているのは、普通はその地方の領主が務めることになっている通り、ドン・ジュストであった。
そして祭壇上の蝋燭も一切の聖具もかたづけられ、黒い幕で覆われた。その日は夕方の荘厳なる晩の祈りで締めくくられた。
翌日、ヴァリニャーノ師の祭服は色が替わって真紅の祭服となった。午前中に十字架礼拝の行列が行われ、聖歌隊がやはり伴奏なしで「クルクス・フィデーリス」を歌う中、教会の前の階段の上の十字架に人びとは列をなして拝礼した。
午後はみ言葉の祭儀で、慣例通りにヨハネの福音書が朗読されたが、日本の教会の特例としてフロイス師がその内容を会衆に日本語で伝え、共にキリストの受難を分かち合った。
それから共同祈願となり、「ユダヤ人のための代願」も慣例通り捧げられた。この日の聖体拝領は司式司祭のヴァリニャーノ師のみが拝領し、会衆の聖体拝領はない。
そして土曜日、この日の日没からがいよいよ
ヴァリニャーノ師の祭服は赤から再び白に戻り、まずは十字架を先頭に会衆全員が手に小さなろうそくを持っての光の行列があった。続いてヴァリニャーノ師が「
この日、二日ぶりに聖堂内に
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