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翌日、出発の前にまた殿に挨拶に行こうとしたが、その必要はないという伝言を武士から受け、我われはそのまま城を後にした。
山間の街道を、我われは東に向かった。次第に道の左右の山は遠のき、かなり広い平地の水田の中を道は進むようになった。それでも、どちらの方角でも遠かれ近かれ必ず平野は山か小高い森に遮られていた。
ちょうど夕刻近くに
そこカブラル師が顔に見覚えのあるものを選んで、泊めてもらうことになった。そして次から次へと
なにしろこの村には教会もないし司祭や修道士もいない。彼らの喜びようは理解できた。
翌朝はすぐそばの
たしかに割と早い時間に、
静まり返っている司祭館の入り口で案内を乞うと、出てきたのは日本人の同宿であった。我われの姿を見ると慌てて、
「バテレンさま!」
と叫んで中へ入って行った。
出てきたのはでっぷりと太った司祭で、我われの中のカブラル師を見ると、
「おお、おお、
と相好を崩してカブラル師と軽く
年の頃はカブラル師と同じくらいと思われる年配のその司祭の顔を見て、すぐにひらめくものがあった。その同じひらめきはヴァリニャーノ師にもあったようで、
「
と、イタリア語で言うと、司祭はさらに相好を崩した。そして同じくイタリア語で、
「あなたは? もしかして、
と、聞いてきた。
「はい」
と、ヴァリニャーノ師が答えると、司祭は恐縮していた。
「おお、この村に巡察師が来てくださるとは。
そして私とトスカネロ兄もイタリア語で挨拶をした。最後のメシア師だけがポルトガル語だった。
我われはすぐに中に招き入れられた。
入るとすぐに司祭は同宿に、
「リアンを呼んできてください」
と、日本語で言いつけると、ヴァリニャーノ師や我われに自己紹介して、
「ジョバンニ・バプテスタ・デ・モンテです」
と名乗った。そう珍しい名前ではないにしろ私と同じ名前なので、かなりの親近感がわいた。
我われ四人はカブラル師とメシア師をおいてイタリア語で話をしていたが、すぐにヴァリニャーノ師が気を使ってポルトガル語に切り替えた。
するとカブラル師は、
「こちらの
と、紹介した。
「去年まで
そこへ、同宿に呼ばれて日本人の老夫婦が入ってきた。そして我々の姿を見ると、まずはカブラル師に頭を下げ、
「カブラル様、お久しゅうごぜえます」
と挨拶をした。モンテ師はまずヴァリニャーノ師に、その二人を手で示した。
「こちらはこの村の
それからそのリアンに向かってモンテ師は、
「遠いローマからはるばる来られた偉いバテレン様だよ」
と、ヴァリニャーノ師のことを紹介していた。
「これはこれは、ようこそおいじょくれたで」
ニコニコ笑ってリアン老人は、ヴァリニャーノ師をはじめとする我われに深々と頭を下げた。ヴァリニャーノ師も同じようにしていた。
「リアンさんがこの村に福音の灯をともして、今では百五十人くらいの
そしてこの村でも
その夜は司祭館でモンテ師から今の府内の最新情報を聞いた。カブラル師が言っていたように、受洗を延期させられた府内の殿、すなわち
我われはそこまで話を聞くと、休むことにした。翌日はいよいよ、その
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