第三話 魔族召喚

魔王は、魔王軍侵略対策砦シュタルクを交易という前段階を踏みながら仮拠点とした。まだこれといって交換はしていないが、魔王はどうすれば人間の望む物をあげられるか考えていた。


人間に最も必要な物……それは武器等ではなく、食料である。魔族は最低限の魔力で生命を維持出来るが、人間は食料が無ければ何れ餓死してしまう。では、どうすれば人間の望む食料を多量に手に入れるか?魔王は、それらを作る事を考えた。


してそれをやる為に、魔王城に帰る為に、シュタルクから最低限の馬車を借り、魔王は徒歩よりも遥かに速く、物の一時間程で魔王城に帰る事が出来た。


「いやー馬車ってすげー便利! と言っても使われていない馬車をくれただけだからなぁ……何れ補強もしないと……いつ壊れてもおかしくない」


そして、魔王は魔王城に帰って来ると徐に床にしゃがみ、チョークで魔法陣を描き始める。魔法陣の大きさは円形の直径5mのそこそこ大きな魔法陣。これから魔王がやる事は【魔族召喚】である。


魔族召喚とは、何らかの方法で書いた魔法陣を土台に自身の魔力を媒体に魔族の身体を形成し、新たな生命を生み出す物。


魔王はこれを働き手として、食料の生産効率を上げるという考えだった。当然ながら一人で作るなんて事は無理だと分かっていたからだ。


魔王は床に魔法陣を描き終えると、魔法陣の正面に立ち、両手を魔法陣に添え、詠唱を始める。魔王の手から妖しい紫色の光の粒が魔法陣へ向かって吸収されていく。


「魔族の魂を我が声を聞け。我、汝の主なり、王の再臨の時は来た。汝の志、長年の時を経ても主に忠誠を誓うなら、今目を覚まし我の元に来たれ……!」


魔王の詠唱が終わると魔法陣は妖しく光り、中央から魔力によって体が生成されていく。そして現れたのは、全身に黒い鎧を纏う人型の騎士だった。騎士は魔王の姿を見ると、直ぐに片膝を床に付き、魔王に忠誠を誓う。


「我、王の声を聞きて目覚めたり。我の名は、ダークナイトなり。王よ……良くぞ復活しました……今度こそ我々魔族は不滅の存在であると人間達に思い知らせましょう……」


個体名:ダークナイト

魔族階級の中で最下層に分類される魔物。全身黒い鎧を身に纏った人型の魔物で、人間の形を模倣する事で、人間が魔族に対して抵抗が減るだろうと考えられていた。


魔王より生み出された魔族は身体的には完全なる新たな命として生まれるが、元よりある魔族の魂は、今までの全ての出来事と歴史を記憶に記録される。なので、魔族は何度復活しようとも、人間に蹂躙された記憶は消える事は無く、新たに生まれてもそれを忘れる事は無い。


魔王はダークナイトの発言に首を横に振って否定する。


「あぁ、お前らの気持ちは十二分に分かる。しかし元はと言えば、この戦争は人間の手から始まった物だ。そこに我々がどうにか止めるよう一度人間達を征服したが、それによって人間が抵抗してこようとも、我々が二度も同じ事をやって良いとは言えない。それこそ、どちらかが止まなければ終わらないのだから……」

「まさか、人間と友好関係を結ぼうと言うのですか!? それは無駄という物です。人間達は、我々の考え等絶対理解出来ないのだから……!」


魔王はまた首を横に振って、次は説明する。


「それは違う。確かに人間達にとって屈辱の敵でもある魔族が、人間と和平を結ぶなど有り得ない話だと思うが、俺だってそう簡単に行かないとは思っているさ。だからこそ、順に、我々に攻撃を仕掛けた人間の誤解でもある『魔族は恐ろしい怪物である』という認識を改めさせるのだ」


ダークナイトは魔王の説明に渋々納得しながらも、頭を悩ませる。


「でも……そんな事が可能なのでしょうか……? 人間は我々魔族を見ただけで攻撃してくる分からず屋の集まり……その順という物が人間に通用するか……」


魔王はダークナイトの言う心配に頷きながら、どうすれば人間に信用して貰えるか、その方針を話す。


「あぁ、それもそうだ。今の時代は人間側に『勇者』と名乗る者は溢れんばかりに魔族討伐という目的で世界を徘徊している。もし、我々の計画の途中で勇者なんかに出会えば、彼らは確実に問答無用で攻撃してくるであろう。だから俺は一つ策を考えてある。順に乗ってとは言ったが、我々はその勇者に計画を阻止されないように隠れる必要がある。だが、ただ身を隠すのでは無い。世間に我々の情報が少しでも広がらない様に、慎重且つ、ゆっくりと人間と関係を結んで行くのだ。だから……今回俺がお前を召喚したのも、人間を攻撃するなんて気は更々無い。戦士として戦う事を目的に作られたお前にとっては遺憾かもしれないが、俺の元で働くんだ……」


ダークナイトは魔王の計画に漸く理解するも、働くという言葉に頭の兜で表情は見えないが首を傾げて固まる。


「働く……のですか? 一体何を……」

「畑だ。麦畑を兎に角作れ。我々が人間にしてやれるのは現状これしか思いつかん……」


現在、魔王城周辺は草や木が生茂るただ広い草原のみ。魔王は、人間に食料以外にも必要な物が有れば送りたいと思っているが、現在の状態からでは強いても畑を作るのは最適としか言えず、森も山も周りにない為、伐採や採掘も出来ない。魔王は今はこれしか出来ないというもどかしさに密かに頭を悩ませていた。


「なるほど……了解しました。人間を我々が支援するなど完全には納得出来ませんが、先ずは魔王様の言う通りにやってみます……」


魔王は悩みから頭を上げると、広大な畑を作るのに必要な魔族を更に召喚する。


「さて……どれくらい必要だろうか……。ざっと100匹くらいか……?」


一度召喚した同個体の魔族なら2回目以降は、詠唱無しに召喚が可能。魔王は魔法陣に手をかざし、ダークナイト百匹程の魔力を一気に流し込む。すると、魔法陣は一回目の召喚と同様に光り出すと、魔王が流し込んだ魔力に応じて、次々とダークナイトが召喚される。


魔族の記憶は魂に記録されるので、計画の方針を二度も伝える必要は無い。


召喚されたダークナイトは、直後にやるべき事を最初から理解していたかの様に、魔王城の外へ出て、早速畑作りを開始する。


魔王は、せっせと仕事をするダークナイトを遠くから見て、百匹もいれば、十分な食料が作れるだろうと考えていた。

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