第2話 ある日の夢
…此処はまさかな…。
眠りに就くと不思議な場所に居た。
紫色の空。黒い雲。そして青い太陽に赤い月。
全てが異彩な光彩をしている異界…【魔界】。そしてそれの核として存在する迷宮【ダンジョン】。その主は【魔王】でありそのダンジョンの名前は【魔王城】。世にも珍しい“城”型のダンジョンでありこれから攻め落とすべき【魔族】の拠点である。
既に戦争は始まっているのかアチコチで戦闘による大規模破壊の音が聞こえる。そしてあの頃の俺は黒い短刀を城に入り口に押し当てると唱える。
「《ブレイク》」
その言葉に反応するように城の入り口を覆う結界を破り扉を破壊する。そしてそのまま手を掲げるとその腕にある腕輪が輝くと10体の忠臣が現る。【迷宮主】の効果により常に持ち運べる己の眷族を全て解放した形である。それ以外にも【魔王】により持ち運べる眷族もいるが其方は必要ないだろう。
なにせ
「〈クリエイト・ゴーレム〉」
ゴーレムの秘石と様々な金属インゴットを影から出すとそれらは全て人型の使い魔【ゴーレム】となる。そして全ての秘石には地球で開発されていた最高峰のAIとこの世界における経験や技術の結晶をプログラムしている。その上で魔晶石と呼ばれるパスを利用して運用効率を高めている。
「相変わらずの軍勢だね亮也」
進軍命令を下すと背後から声が掛かる。そこには1人の青年が剣2本を携えている。
「これも手札の1つだからな。-圧縮炉全開」
手元のに龍を模した杖を取り出すと触媒の水晶を通して命令を下すと核融合炉・太陽光炉を圧縮したものを解放すると超熱量が解放されていく。
「科学兵器でもないのにな。俺もその恩恵受けているとはいえども」
すぐ側でスコープを覗いている青年がぼやく。銃身70cmを優に超える狙撃銃を構えている。彼の名前は黒岩匠。そして剣を携える青年が浜崎一哉。俺と共に異世界に召喚された勇者だ。
「レーザーに神の杖って地球に喧嘩売っているよね」
片目を閉じた魔法使いの少女霧宮さくらが周囲に魔本を幾つもの浮かべて周囲の光景を映し出す。
「良いじゃないですか。彼なりの強さなんですから」
おっとりとした雰囲気を纏いながらも悠然と長弓で狙撃を繰り返し周囲の哨戒担当のモンスターを撃ち落としていくのは前園春由美。
「行くぞお前ら」
「《聖女の祈り》《魔王の覇気》《練金神の加護》」
一哉の宣告に合わせて俺は一気にバフを重ねる。聖女や魔王など本来なら相反するはずだが俺の特性が全てを正当化させ力を増幅させる。
「相変わらずの無茶苦茶だな…。でも助かる」
側に居る狙撃手が一度の発砲音で無数の弾丸とレーザーを放つ。
「《氷帝よ・白銀を統べ・振り払え》」
最上級の黒魔術〈フリーズ・ヘイム〉が発動し氷雹と冷気が城門を包み込み光を屈折させ焼き払う。
そこから魔王城の殲滅が始まる。
ただ1名の被害も出さずに俺らは最奥の玉座の間に居た。そこには4人の“魔王”四天王とそれらを統べたる魔帝がいる。
「よくぞ来たな異界の勇者に同輩」
「初めまして先輩。そして死ね」
玉座から立ち上がり歓迎をしようとした魔帝を銃で撃ち抜くと共に全員が駆け行く。ただ必中の効果がエンチャントされた魔弾ですらも魔帝の守護結界に阻まれる。
「《集》」
六門のレーザー砲を収束したものを匠が放ち入った罅にすかさず彼女らが反応する。
「弓技〈波山〉」
「《虚無よ・我が深淵の前に・果て尽きろ》」
威力重視の弓技と魔術が結界を破壊する。
「チッ!《我が-》」
「遅えよ」
魔帝や魔王が結界を張ろうとした瞬間に俺の異能が発動する。その名は【万無の境界】。それに俺の持ちうる全てを使い一切の術を禁止する。
「ふっ!流石は万物。ただいつまでもつのか?」
「…殺れ!」
よく覚えている。今でもこの術はとてつもなく発動時間が短い。多分1時間持てば良い方だろう。ただこの時は完全に奥の手を使っていた。
「接続〔私の迷宮〕」
頭痛が酷いが俺が魔王になった際に継承した両目の魔眼すらも全開し後ろの扉を所有する迷宮の本階層の待機場所へと繋ぐ。
「〈リンク・ユニオン〉」
それは俺の“魔王”としての側近である
「タスラム」
手榴弾を模して作られた投擲魔弾タスラムを放出するとそれに封じられた効果が発動する。貫通と炸裂の2種。本来なら加重も加えたかったが無いもの強請りはは出来ない。
「なっ!まさか発動待機で収納だと」
「解放!」
それは俺が万無の境界を使いタスラムに封じた太陽光炉を解放し極光を放ち焼き尽くす。そのタイミングを機にして一気に攻め立てる俺ら。
その戦いはかなりの時間が掛かった。
そして俺と一哉に魔帝以外は全員戦闘不能だ。仲間は生きているがもし戦闘の余波で死にかねないので回収用スライムを使い迷宮を通じて治療院に送っている。そしてそれ以外の全ての残骸は全て喰らった…俺の短刀が。伝説の聖剣のみならず神すらも喰らっているので予想はしていたのだがな。ただ無数のゴーレムやドローンは未だに尽きることのない弾丸を放出を続ける。
「足止め頼む!」
「了解。錬成」
右腕に巻き付かせたミスルリが凄まじい勢いで射出され魔帝の足に絡み湯水の如く魔力を消費しながらも絶えず変化を続ける。
「閃ッ」
こんな時でありながらもまるで美しい舞を見ているような美しさを秘めた剣戟を魔帝は一本の杖と五本の剣で防ぐ。
「《持ってけ》」
たった一節の【呪言】で一哉を最大限に強化する。それでも分かる。まだ足りない。だからこそ思い出す。数年前の今日に亡くなった彼女の事を。失意の内に覚えたそれを引き出す為に。
大罪スキル〔憤怒〕
大罪スキル〔強欲〕
そして全てを誑し込む美
大罪スキル〔色欲〕
何もかもを喰らいつくす
大罪スキル〔暴食〕
大罪スキル〔怠惰〕
人であるがための
大罪スキル〔嫉妬〕
そしてこの世の最強を名乗るがために
大罪スキル〔傲慢〕
そして相対する美徳。それが故に神にすら絶望しどんな困難も彼女を生き返らせるという願いだから。
「届け」
全ての力を完全に引き出すために。ありえたかもしれない系統樹の先を過去を選ぶために。
「神威解放」
そして記憶が閉じる。
「ハァッ!」
夢が醒め跳ね起きる。時計を見るとまだ2時半。
予想はしていたがやはり見たかこの夢。いやあっちの方かと思ったがな…。どちらにしろ今の俺があるのはあの日の出来事が原因だろう。ただ全身の倦怠感が凄まじい。
すぅーと力が戻り体調が良くなる。
ただまだ寝ている時間なので寝ることにした。
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