第5話 それは__

 どうやら向こうはようやく準備を終えたらしい。全員が現時点では最高峰と思える武器を構えているし防具も俺が着ている超簡素で質素な布の服とは大違いである。多分アレが聖奈たちが言っていたβテスト特典だろう。3つのスキルと武器2つに全身防具と所持金。それらが余すことなく注ぎ込まれているのが分かる。恐らくインベントリにはポーションなどの回復薬も大量にあることだろう。

 そんな事を頭の片隅で考えながらもゆっくりと分析をしていく。練度は大した事無いだろうがスキルにどんなものがあるかは不明である。何せ聖奈たちの話ではβから継承した3つのスキルは確実的に二次スキルと呼ばれる最初期スキルの進化スキルという。一部のトップ層はスペシャルスキルと呼ばれるものがあるらしい。ただ最終決戦時ですら自身のスキルを隠していた者も居たらしく誰がどんなスキルを所持しているかは分からないと。


 それが一般的であろう。


「…お前が優れているのは分かった」

「…」

「ただゲームにおける此処ではお前のリアルスキルがどれほど優れていようともゲーム内に固有するスキルは絶対的なものだ」

「…」

「故にシステムに慣れ親しんだ俺らの方が強い!」

「…」

「アッアア!何か言い返せよ!」

 ただ冷淡に終始無言で見ていると何故か因縁を付けられた。

「よく吠えるね三下」

 絶妙な笑みを浮かべながら言い放ったセリフに流石にキレたのかその手にある十字槍を中段で構えられた。

『えっ…そろそろ始めても宜しいでしょうか?』

 ふとイリヤの声が聞こえると俺と連中の声が被る。

「「「「「問答無用!」」」」」

『では開始のカウントダウンを始めます』


 5


 4


 3


 2


 1


『決闘開始!』


 視覚的に現れたカウントダウンが0になると一番手前に居た槍使いが物凄い速度で迫って来る。彼は全身鎧を見に纏うがその重量感からは想像もできないほどに早い。


 まあそれより遥かに重装備で亜音速機動が可能な騎士を知っているから驚かないけど。

「《ソニック・ピアス》」

 彼がソレを叫ぶと穂先は薄緑色の光を纏い更に加速する。


 そして3mまで接近した瞬間にダラリと剣持つ体を素早く動かして十字に剣を引っ掛け遥か後方に吹き飛ばす。体感的には30mほどは飛ばしたはず。なので一旦彼の事を考えずに次に大剣使いが迫ってきたので擬似的に納刀して5mの範囲に接近してきた瞬間に抜剣しつつ最大速度で振り下ろされる大剣を切り上げる。手首の絶妙なコントロールで大剣を後方に吹き飛ばしてそのまま体内に魔力を循環させる事でと“魔纏”と呼ばれる技術を使う。


 魔纏 剛之型


 一時的に魔力が循環している場所の強度を数倍に引き上げる。


「剛斬」


 そのまま切り上げの過程で振り上げた剣で鎧の上からも剛之型でアダマンダイドですら破壊する武技で切り裂く。続けて左足にも特定の魔力を纏わせて蹴りを繰り出した後にそれを放つ。


 魔纏 砲之型


 純粋な魔力の塊が剣士に着弾して弾け飛ぶ。ただしやはりこちらの攻撃力不足は否めないようでまだ少しはHPが残っている。現状では遠距離攻撃手段がないので詰め寄るしかない。砲之型では射程距離に問題がある。


 ただ癖のように左手を向け唱えた。

「《魔弾よ》」

 ただ不思議な事にいつもの起動式が拳銃のように握られた左手人差し指に形成され【魔術】が発動される。それにより先ほどの魔力の塊とは比べ物にならない高密度な魔弾が放たれて剣士のHPを削り取る。その事には驚きながらも急速で後衛2人に接近する。すると弓使いの方は寸座に短剣に持ち替え魔法使いは頑丈そうな杖を盾のようの構えた。


 だが遅い。


「誑かせ【月光眼】」

 仄かに右眼が熱くなると周囲は蒼い月明かりに包まれる。その異様な光景に驚いたのか気の抜けた瞬間に両者の喉元に剣を突き放つ。


 魔纏 刺之型


 喉仏を壊すような手応えがしたのを確認した上で左手で殴り飛ばす事で完全に飛び切る前にHPが尽きる事で消える。これも魔纏の一種の応用である。


 魔纏 波之型


 特殊な方法で肉体のみにダメージを与え内部から人体崩壊を起こす事で内臓機関がグチャグチャになる事で死んだ筈だ。少なくとも俺はそういう技として習った。


「《疾風迅雷》」

 背後から聞こえた声に反応して全魔力を魔纏に利用して地面に剣を叩きつける反動で大きく跳躍する。その僅かコンマ数秒後にバチバチと電気を発する槍使いが通り過ぎてゆく。ただこの回避に全魔力を注ぎ込んだせいで魔弾や魔纏すら使えない。

「《箒星》」

 疾風迅雷の勢いを同じく地面に叩きつける事で浮かび上がった槍使いは全身の重量差で俺よりも高く上がったにも関わらずかなりの速度で落ち再び攻撃を仕掛けて来た。今度は槍が鞭のようにしなり俺自身へと直接叩きつけるように。この一撃は奴自身の重量すら攻撃力に回る事だろうから多分一撃受けるだけでも死ぬ。それはこの体に置いてはそれほど間違いでは無いだろう。

 ただしこんな場面は幾度となく向こうで知っている。俺自身も使いはしたしこれがなければ今時俺らを召喚した世界は最悪の結末を迎えたであろう。だから対処法も編み出してある。

 左手に大盾を呼び出し構える。これにより箒星の全勢いを左腕に集中させる。当然のことながらごっそりとHPは持って逝かれたがちょっとグチャとしただけである。ただその瞬間に奴の首元を掴み俺の下に回す。丁度盾で見えないように落とした槍の位置に来るように。そして大盾で踏みつけて落下の勢いを加速させる。


 数秒の後にキチャナイ音と男性の悲鳴と嗚咽混じりの声が残った。

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