雨に唄えば

 僕らは展望台にたどり着いた。


「ここへ来るまであまり濡れませんでしたね。」


 こちらとしては細心の注意を払ったのだ。


「あとはエレベーターに乗れば空が見えますよ。」


 彼女の手を引きエレベーターへ乗った。


「誤解しているのかもしれないけれど、私は雨は嫌いではないんですよ。」


 僕らは外を眺める。


「知っています。ほら、街が一望できますよ。」

 

 ザーザーと窓ガラスを雨が打ちつける。


「この街はずっと濡れ続けているのですね。」


 生まれる前からそう決まっている。


「仕方ないですよ。排気ガスを雨で流さないといけませんから。」


 天井に設置されたスプリンクラーが見えた。


「お嬢様、もうすぐ地上に出ます。」


 雨音と街の風景が消え去った。




 

 地上へ続くトンネルを抜けると、雨が降っていた。


「地上の天候までは調べていませんでした。申し訳ありません。」


 天井を覆うアクリル板には大粒の雨があたっている。


「I'm singing in the rain

 Just singing in the rain

 What a glorious feelin'

 …」


 彼女は突然唄いだした。


「はぁ?」


 思わず素になった。


「連れて来て頂きありがとうございます。この雨なら私も濡れる事が出来るのでしょうか?」


「この雨ならば、きっと大丈夫ですよ。地下の雨と違って汚染されてはいないでしょうから。」


「きっと、とても気持ちが良いのでしょうね。」


 それからしばらく、僕たちは雨空を見つめ続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨が降る日は天気が悪い あきかん @Gomibako

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る