第6話 そして

 必死に言葉を紡いでいく玲は、感情が高ぶったためか、目には涙が浮かんでいる。


「っ、ごめん……そんなつもり、じゃ」

「わかってる」


 ようやく死んだあとレイがどうなったのか理解したらしく、力なくへたり込むロイに、玲は険しくなってしまっていた顔を和らげた。


「ごめんね。責めるつもりじゃなかったんだけど」


 するりとネクタイから手を離し、立ち上がって制服の土を払った。


「うん、でも」

「だから、ロイ、今世でも一緒にいて。もう二度と、勝手にいなくならないで」


 なるべく冷静に、静かに微笑んで玲は言う。


「……わかった」


 ロイは一瞬悲しげな顔を浮かべたけれど、決意を込めて頷いてくれた。


「大丈夫、もう勝手にいなくならない。離れないから」


 暖かく微笑むロイに、思わず玲の瞳が涙に揺らめいた。


 立ち上がったロイはポンと玲の頭に手を乗せて、ゆっくりと撫でてくれた。レイだったころに、ロイがレイをたしなめたり褒めたりしたときによくした仕草。当時はロイに子供扱いされているようで嫌だったけれど、ロイが死んでからはずっとしてほしかったその仕草。玲は洋役、ずっと引きずっていた絶望が溶けて消え去るのを感じた。


「そうだ、レイ。レイの今世でのこと教えてよ。僕のことも教えるから」

「……うん」


 玲はグスッと鼻をすする。


「じゃあ、まずは名前を教えてよ。

 僕はすすき理央りお。レイは?」

梶谷かじたにれい。高校一年だよ。

 ロイ……理央って名前違う」

「レイは玲のままなんだね?」


 てっきりロイも名前は同じだと思っていたが、どうやら違ったらしい。


 地面に名前を書いてもらい、漢字も教えてもらった。


「理央って何年なの?新入生?それとも先輩?というよりも、その制服同じだよね?誰かに借りたとかじゃないよね?」

「ふふっ、もちろん違うよ。前世と変わらず、玲の一つ上で高2だから、僕、玲の先輩だね?」


 前世でも確かにひとつ上だったけれど、学校とかはなかったため、理央が先輩だということに少し違和感を覚える。


「……理央先輩?それとも薄先輩?」

「……」

「……なんか変な感じ」

「そうだね……」


 実際に先輩と呼んでみても、どこかしっくりこない。理央はロイ、ロイは理央、そして理央は理央なのだ。


「理央でいいよ」

「うん、私も玲でいいよ」


 じっと見つめ合って目で会議した結果、そこに落ち着いた。


「あ、そうだった。玲、返事聞かせてよ」

「返事……?」


 唐突に何を言っているのか。玲は困惑した。


(返事することなんてあったかな……?)


「ほら、遺書に書いたでしょ?レイが好きだって」

「あ……!!えっと…それは……その……」


 そういえば書いてあった。今の今まで忘れていたが。


「あ、あれ、今世にも続くの!?」

「もちろん」

「いや、でも……ほ、ほら、いくら私たち生まれ変わりでも、今世と前世は違うでしょ!?見た目だって違うし、性格とかだってきっと……!!」

「見た目とかはともかく、性格は変わってない自信あるけど?今世で玲と話したのはまだ今日が初めてだし、特別何かを知れたということはないけど、話した限りだと玲だってそうだよね?」

「あ、う、いや、そんなわけ……」


 ある。変わってない自信は玲にもある。口調とかだって少し変わってしまったが、ロイに対する想いは変わってないし、理央に対してもまた、この短時間で新しく好きが溢れている。


 チラッと理央を見ると、理央はん?とニコリと首を傾げて微笑んだ。


(あ、バレてる)


「はい……ロイ含め理央が好きです。何なら理央に対しては一目惚れしたんだから、さっさともらってください」


 理央にバレてることに気付いた玲は、あっさりと理央に堕落したのだった。


「うん!!もちろん、そのつもりだよ?

 でも玲、あっさり吐いたね?僕としてはもうちょっとかかっても良かったけど」


 理央は玲があっさり手に入って嬉しそうだ。


「だって時間の無駄でしょう?それに誤魔化してキョドって誤魔化してってしても、どうせ理央を好きなのは変わらないもん。いつかは吐かされるでしょう。

 だから私としては、さっさと好きだと吐いて、その空いた時間に理央とのんびり過ごすのが理想」


 好きなものは好き。理央が玲を好きだと言っているのだから、あとはもう玲が吐くだけ。実際、これから一緒にいるのならば、何処かで付き合ってしまうのがベストだ。それならば、それは今でもいいじゃないか。


「それもそうだけれど」


 玲の思考回路に少し苦笑しながらも、理央は微笑んで手を差し出した。


「一緒に帰ろう?送るから」

「……うん!!」


 理央の前ではレイの口調が少しだけ顔を出して、少し子供っぽくなってしまう。


 帰り道、玲と理央は色々なことを話した。今世でのことはもちろん、親や家族のことに、他愛のない世間話。理央に聞かせたかったたくさんのことを、玲は話した。




 ここでは、理央との関係を秘密にしなくてもいいのだ。堂々と一緒に外にいれるし、一緒に帰れる。前世ではしたくてもできなかったこと。


 けれど、今隣には、理央がいる。前世では勝手に自殺して、一生会えなくなって絶望したけど。でも今世では、勝手にいなくならないと約束してくれた。絶対に玲から離れないと。


 それだけで、玲は幸せな気持ちに包まれるのだった。




「今世ではずっと一緒だよ、理央

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