第32話 ギルド壊滅


 ダライアスは無事、意識を取り戻した。

 瓦礫の下敷きになっていた、ライルとシャルロットも、大きな岩をレヴィンが強振破撃バル・ダングで破壊して、助け出していた。


 二人共に回復魔法をかけたので問題はなさそうだ。

 ただ、まだ意識は戻っていない。

 アンデッド対策室とは別の部屋に寝かされている。


 また、他の大広間では、ドラゴンゾンビによる被害で大勢の死者が出ていた。

 鑑定できるのは二人だったのだが、城塞付の鑑定士は先程の戦闘に巻き込まれ大怪我を負い、意識不明の重体になってしまった。


 レヴィンは、今回の戦闘で何か引っかかりのような、気持ちの悪い感情を抱いていた。胸につっかえがあり、違和感を覚える、そんな状態だ。


 そんな事を考えていたレヴィンにデボラが話しかける。


「神殿の者は置いてギルドに戻ろうか。もう一体のSランクアンデッドのカヴァルイーツが心配だ」


「こっちは大丈夫なんですか?」


「騎士団長のサジュマン殿もいるし、大丈夫だろう」


 冒険者ギルドに戻るのは、デボラとレヴィン、ダライアス、フェリクス、オレール、ダダックだ。オットマーは鑑定作業があるため残ってもらう。


 ギルドへの帰り道もアンデッドでいっぱいだ。

 どこからこんなにも多くのアンデッドが出てくるのか、不思議でならないレヴィンであった。


(無から生み出すことができるのか。まぁ迷宮創士ダンジョンクリエイターもそうだったからな)


 行く手を阻む敵を葬りながらギルドへの道を進む。

 やがて、ギルドの建物が見えてきた。

 しかし様子がおかしい。

 建物から煙が上がっているのだ。

 嫌な予感に襲われてレヴィンは走り出した。

 遅れて状況に気づいたデボラ達も後に続いて駆けだした。


 ギルドに辿り着いたレヴィンが見たものは、バリケードごと扉が破られて、冒険者が折り重なるように地に倒れ伏す状況であった。

 死屍累々とはこの事である。

 被害者は冒険者だけにはとどまらなかった。

 避難してきていた住民や、ギルド職員も多く倒れている。


 こちらに気づいたのか、死体の頭部を大きな右手で持ちながら振り返るカヴァルイーツ。その死体をレヴィンの方へ放り投げると、こちらに向かって突っ込んでくる。

 しかし、デボラが到着するのを見るや、窓の方へ方向転換して、突き破ると一目散に逃走していった。デボラが舌打ちをして言った。


「生存者を探すよッ!」


 カウンターの裏、食堂の奥、倉庫、二階、三階と隅々までさがしていく。

 次々と見つかる生存者。

 僅かではあるが助かった者がいることに安堵の声が漏れる。


 レヴィンはギルド職員のデスクの下を探していると、隠れて震えている少女を発見した。優しく声をかけると、こちらが誰か解ったのか、抱きついてくる少女。

 その少女は、クロエだった。


「皆、怪物に捕まって殺されちゃった! 一生懸命逃げたのに……。隣りのおじちゃんがここに隠れてろって言ったの!」


 レヴィンに抱きつきながら、泣きじゃくるその少女を彼は強く抱きしめた。


 放っておくと死体がアンデッド化するため、やむを得ず死体を大通りに運び出すと魔法で火葬した。

 アンデッドの専門家である、コランタンも殺されていた。

 誰も言葉を発しない。皆、静かな怒りに包まれていた。

 扉や窓をに板を打ち付け、バリケードを作る。

 発見してからずっとクロエはレヴィンの手を離さない。

 その日は彼女の手を握りしめたまま過ごし、眠った。


 夜が明ける。

 もう戦力がない状態である。

 住民を護りながら生存者を捜索し、アンデッドを討伐する。

 これがもう無理な事は皆解っていた。


「何故、増援が来ないんだッ!」


 ダライアスが壁を殴っているが、誰もその問いに答えられる者はいない。

 デボラも今後の事を考えている様子だ。

 難しい顔をしている。


 その時、座っていたデボラがはじかれたように立ち上がると大音声で言った。


「よしッ! 皆、荷車に食糧を積みなッ! 全員で城塞へ避難するよッ!」


 デボラの号令に、動ける者は次々と準備に取り掛かった。

 そして、わずか20名ほどで城塞へと出発したのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る