第31話 ドラゴンゾンビ


 城壁の周囲には、堀が張り巡らされているため、大手門前の橋からしか侵入経路はない。レヴィン、フェリクス、オレールは城壁の上から魔法攻撃を行うことにした。

 デボラ、ダライアス、ライル、シャルロットは大手門から出て肉弾戦を挑むこととなった。


 大手門はまだ開かない。

 壊されてしまう前に、城壁から魔法を撃って引きつけようとする。


火炎球ファイヤーボール


轟火撃ファラ


 オレールとレヴィンの魔法が放たれると、ドラゴンゾンビの体に直撃する。

 火炎球程度では、さしたる痛痒を与えることはできなかったようだが、轟火撃ファラの一撃は堪えかねたようだ。ただれ落ちかけている皮膚が大きく焼け落ちる。

 ドラゴンゾンビはチラリとこちらを睥睨したように見えたが、何故か無視するように首を振ると、大手門へ歩みを続ける。

 その時、大手門が開かれ、デボラ達が姿を現した。

 やっと攻撃対象が来たとばかりに尻尾をしならせ攻撃を加える。

 デボラが『聖域』を発動し、ダメージを完全に遮断するオーラを展開した。

 尻尾は弾かれ、ダライアスが飛び出して前足に斬りつける。


 城壁でも、標的にされないのを良い事に、次々と魔法をぶち込んでいく。


「フェリクスは魔法が使えないのか!?」


「ああ、俺は生産職なんだ。戦闘にはあまり役に立たんよ」


 なら何故、戦場に来た?と小一時間問い詰めたかったが、本人が来たがったのだからと諦める。


「ホ-リーブレード」


 デボラが剣を振ると、付加されていた魔法が飛んでいき、ドラゴンゾンビに直撃する。全身から湯気のような瘴気のような煙を上げて苦しんでいるように見えた。

 高い声を発している。効いているようだ。


神光輝撃シャイニング


 シャルロットも神聖魔法を発動した。

 半円状の光が段々大きくなっていき、ドラゴンゾンビの前身を包むと破裂する。

 たまらず、ブレスをデボラ達に吐きかけ、前足で踏みつぶしにかかる。


 デボラが再び『聖域』を発動し、ブレスを無力化する。


「あれは腐食のブレスだッ! 巻き込まれると、肉が腐り始めるよッ! 攻撃されそうになったら、私の方に集まりなッ!」


 ブレスをやり過ごすと、ダライアスが、斬りつけに走る。

 しかし、今度ばかりは相手が悪い。ドラゴンゾンビがでかすぎるのだ。

 さしたる痛痒を与えていないように見える。

 レヴィンはちくちく削るしかないと、先程と同じ魔法を放つ。


轟火撃ファラ


「「神光輝撃シャイニング」」


 ライルとシャルロットの魔法が重なる。

 とうとうドラゴンゾンビが悲鳴のような声を上げた。

 彼等に憎々しげな目を向けたかと思うと、尻尾の攻撃が飛んでくる。

 あまりにも早い攻撃に直撃を受けて吹っ飛ぶライル。大手門の方に吹き飛ばされ、ピクリとも動かない。シャルロットが駆け寄り、回復魔法をかけ始める。

 しかし、それを見逃すはずもない。ドラゴンゾンビが追撃を出そうとした瞬間、上空に援軍が現れる。


 飛竜騎兵ドラゴンライダーだ。

 その編隊飛行は美しく、そして雄々しく見えた。

 彼等は、次々と上空から炎のブレスを吐きかける。

 かなり鬱陶しいようだ。首をしきりに振って飛竜騎兵ドラゴンライダーを落とそうとしている。


 再び、デボラの『ホーリーブレード』がドラゴンゾンビの脇腹に深々と突き立てられる。


轟火撃ファラ


 レヴィンも懲りずに魔法を連発している。

 首をよじっているデボラを引きはがそうとしているドラゴンゾンビ。

 しかし、彼女もそう簡単には、離れない。死角に回り込み何度も剣を突き立てている。


 破れかぶれに、首を大きくしならせながら腐食のブレスを吐きかける。

 そのブレスに何騎かの飛竜ワイバーンが落とされる。


 城壁への攻撃はない。レヴィンとオレールはその幸運を逃すまいと、立て続けに魔法を放っていく。そのしなった首は、弓につがえられた矢のように解き放たれると大手門に直撃した。ガラガラと崩れ落ちる門と周囲の石壁。

 門の近くで回復魔法をかけていたシャルロットは、ライルもろとも瓦礫の下敷きとなってしまう。


「シャルロット!」


 ダライアスが悲鳴に近い叫び声を上げるが、その声は彼女に届いただろうか?

 瓦礫に駆け寄ろうとするダライアスであったが、近づく前に尻尾の餌食となった。

 弾き飛ばされた彼は、水堀へと落ちていく。


轟火撃ファラ」 

 

 水堀の水が大きくしぶきをあげ、水柱が上がる。

 それと同時にレヴィンの魔法がドラゴンゾンビの目を焼いたようだ。

 

 グォォォォォォオオオオオ!


 痛み――感じているのか解らないが――を受けて首を前後に振り苦しみだす。

 レヴィンはしてやったりと満足気な表情を見せるが、一つ気になる事があった。

 水堀に落ちたダライアスが浮上してこないのだ。

 気を失っているのかも知れない。

 レヴィンは急ぎ魔法陣を展開する。


高速飛翔ハイ・ソアー


 レヴィンの体が風の結界に包まれるとふわりと浮き上がる。

 そして、眼下で暴れるドラゴンゾンビのそばを高速で飛翔したかと思うと、水中に突っ込んだ。水中でダライアスを探すレヴィン。

 水は濁っていたが何とか彼を発見すると、彼を抱えて城壁の上まで飛んでいく。

 ダライアスを寝かし、呼吸をしているか確認する。

 とりあえず回復魔法をかけるが意識がもどらないので、バルコニーから部屋の中に戻ると、そこに彼を寝かしておいた。

 蒼天の剣を借りて、無職ニート職業変更クラスチェンジしてから再び飛翔するレヴィン。


 外に飛び出すと、城壁がかなり損壊し、城塞の一部にまで被害が広がっており、鑑定を行っているはずの大広間が露出している。

 多くの者が倒れており、瓦礫の下敷きになった者も多そうだ。城塞の破壊により、防衛機能の著しい低下が予想される。

 デボラの一撃に前足を斬り飛ばされて怒りの咆哮を上げるドラゴンゾンビ。

 散発的に空中から放たれるブレスも有効なようだ。

 

 レヴィンは高速飛翔しながら風の結界から刀身を出す。

 ダライアスが持っていた時の倍以上の刀身となっている。

 

(この蒼天の剣は魔力依存か!?)


 そして一旦、距離を取ると、超高速でドラゴンゾンビの首を薙いだのであった。

 ズルリと首が傾いたかと思うと橋の上に大きな音を立てて落下した。

 それに伴い体も横向きに倒れていく。

 巨体なので、すごくゆっくりとした動きに感じる。

 そしてズゥゥウウウウウウウンと大きな音を立てると転がるように水堀の中に落ちてしまった。


 大きな水柱が上がる。


 何とか決着を見た瞬間、辺りは衛兵達の大きな歓声に包まれた。

 崩れ落ちた大手門と城壁、さらに城塞の一部も大きく損壊している。

 水堀にはドラゴンゾンビの体が落ち、橋の上部も破損が激しいようだ。


 レヴィンが魔法をコントロールして、橋の上に降りる。

 すると、それを待っていたデボラが右の拳を目の前にかざしてくる。

 それを見たレヴィンも右手を上げると拳合わせグータッチを行って健闘を讃え合った。

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