第33話 今後


 神殿に続いて、冒険者ギルドも陥落してしまった。

 デボラは詳細をバルリエ将軍に説明したところ、民間人を城塞で保護する事を許可してくれた。しかし、何の問題もないと思っていたレヴィンは、意外な声に驚かされることとなる。城塞内の貴族位を持つ者のみならず、平民上がりの準貴族の武官や文官たちまで民間人の受け入れに難色を示したのだ。


「この神聖なレムレース城塞に民間人を入れるだとッ!?」


「そんな事は許されまいぞッ!」


「民間人などがいたら、邪魔で勝てる戦も勝てぬわッ!」


 その無慈悲な言葉に一様に困惑の色を隠せない冒険者一同。

 ダライアスなどは、怒りのあまり、文句を言った貴族の武官に斬りかかる寸前までいったくらいである。以下は、ダライアスと貴族の武官とのやりとりだ。


「貴族が偉いのか!? 貴族と平民の何が違うと言うんだッ!」


「平民なんて我等貴族に迷惑をかける存在でしかないッ!」


「意味が解らないッ! お前達と俺達の間に何の違いがあるってんだッ!」


「平民は生まれた瞬間から貴族のしもべなんだよッ! 偉そうに意見を垂れるんじゃねぇッ!」


「それは違うッ! 俺達だって人間だッ! 偉そうにしているお前らこそ何を持っているって言うんだッ!」


「何を持っているかだってッ! 全てを持っているのさッ! お前ら平民は俺達の持ち物なんだよッ!」


 延々と続く罵詈雑言に、何とか説得しようとするデボラもまた、平民でありながら士爵位を得た者である。そんな爵位を持ちつつ、冒険者ギルドのマスターである彼女ですら軽んじられるインペリア王国は最早末期であった。


 結局、バルリエ将軍の説得で何とか民間人の城塞への立ち入りが許可された訳だが、それでも平民の怒りは簡単には収まらなかった。

 特に、彼等の悪しざまな言葉は、農民出身であるコンプレックスを持つダライアスのプライドを大いに刺激した。


 対策会議室では、会議が行われていた。


 民間人が通された大部屋の一画には、ダライアスと冒険者や神殿の者が集まっていた。ダライアスは神官騎士のシャルロットと仲良くなったようだ。

 先程の怒りもどこへやら、和やかに談笑している。


 会議に出席しているのは、バルリエ将軍とサジュマン騎士団長、代官のマヌヴォー、武官三名、文官三名、冒険者ギルドマスターのデボラ、レヴィン、フェリクス、神殿関係者のライルであった。なんとかSランクのアンデッドである、ドラゴンゾンビを倒す事ができたものの城塞への被害は甚大であった。

 今後について早急に話し合っておく必要があったのだ。


「神殿と冒険者ギルドは落ちてしまった。襲ったのは共にSランクアンデッドのカヴァルイーツと大鎌の死神グリムリーパーだ。」


 デボラが口火を切る。


「Sランクだとッ!? ドラゴンゾンビと言い、一体何者の仕業なんだ?」


「それが解れば苦労していない。しかし、我等の疲弊を喜ぶ者がいるとすれば、それは帝國ではないのか」


 マヌヴォーがヴァール帝國のことを話題に上げる。


「となれば帝國が侵攻してくるのは時間の問題だ。王都に援軍を要請すべきだッ!」


「しかし、食糧は送ってきても冒険者の増員もないし、援軍など期待できないのではないか?」


「それこそ、有り得ん事だッ! レムレースが落ちればインペリア王国は蹂躙されるぞッ!」


 武官が興奮気味に叫んでいる。


「待ってくれッ! 取り残されている民間人も最早、食糧がなくて餓えている頃だろう。一刻も早く助け出さねばならない」


 ライルは民間人の事も忘れられては困るとばかりに、口角泡を飛ばす。


「今は王国の危機なのだぞッ! 平民の事など構っていられるかッ!」


「城塞も破壊され、街にはアンデッドが大量に徘徊している。Sランクのカヴァルイーツも健在だ。民間人があとどれだけ生きているかも解らない」


 デボラは今解っている事を淡々と述べる。


「何だそれは……最早、手の施しようがないではないか……」


「会議は踊る、されど進まず……か……」


 レヴィンが小さくつぶやいた。


 結局、ヴァール帝國侵攻の危険性があるため、王都に援軍を要請する事、城塞に立てこもりつつ、街のアンデッドを討伐していく事が決まった。

 ほとんど進展がないと言い換えても良い。


 城塞の機能を著しく落としたものに立てこもったところでどうなると言うのか?


 城塞都市レムレースのの未来は最早真っ暗であると言えた。

 そんな中、レヴィンはデボラに重要な話を告げる。


「デボラさん、後で重要な話があります。よろしいでしょうか?」


「ん? なんだい? 危急の用件かい?」


「はい。事件の黒幕に関する事です」


 レヴィンはデボラにそう切り出した。

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