第10章 精霊族


 何度声をかけただろうか?

 その女性は、やっと我に返ったように見えた。


「大丈夫ですか? 助かったのは四人だけのようです。残りお二方の事は残念でした……」


 レヴィンが話しかけるとようやく女性は立ち上がって言葉を返した。


「いや、ご助成感謝する。お陰で助かった。礼を言う」


「いや、礼には及びません。冒険者は持ちつ持たれつですから」


「来てくれなかったら全滅していただろう。私の名はアリーサ。向こうの短髪の騎士がフェヴだ」


 フェヴと呼ばれた女性は向こうで手を振っている。

 残りの二人はまだ気絶したままである。

 呼吸も脈も安定しているため、心配はないだろう。


 向こうが名乗ったので、それぞれ自己紹介をするレヴィン達。


「それにしても貴殿らは腕が立つな。かなり高位のランカーだとお見受けするが?」


「いえ、僕達、『無職ニートの団』はランクCのパーティです。まだまだ実力不足です」


 謙遜しすぎるのがレヴィンの悪い癖である。

 あっさり彼女達の危機を救ったのに、実力不足だと言うならば彼女達はいったい何だと言う話である。


「そう言われると立つ瀬がないな。我々はランクDのパーティで『深紅の閃光』と言う。私はCランクで残りの皆はDランクだ」


 アリーサの深紅の瞳に見据えられて、しまったと内心焦ってしまうレヴィンであった。


「そうですね。すみません。残りの二人が目を覚ますまで、僕達もそばにいますから安心してください」


「それは助かる。このままだと、また襲われかねんからな」


 レヴィンが他のメンバーの様子を窺うと、シーンとアリシアは気絶した二人に付き添っていた。

 ダライアス達はトロールの魔石と素材を回収している。


「こちらが倒した分だけ魔石と素材を頂きますね」


「ああ、もちろんそれで構わない」


「あなた方は皆、精霊エルフ族なのですか?」


「ん? そうだな。インペリア王国のガルアの森出身なんだ」


「ガルアの森?」


「ああ、王都インビックの東にある森でな……退屈だったので幼馴染でパーティを組んで冒険者になった訳だ」


「インペリア王国の国民なのですか?」


 精霊エルフ族と話すのは二回目だ。もちろん一回目は昨日の副ギルドマスターである。

 精霊エルフ族に関しては知らない事の方が多いので、これを機会に色々聞いてみたいレヴィンであった。


「一応な。不本意だが仕方がない。故郷の森を捨てる訳にもいかんしな。もっとも組み込まれたのは最近なんだが」


「へぇ……精霊エルフ族の国家とかないんですか?」


「あるぞ。ここから南西にある大陸にな。行った事はないから詳しくは知らないがな」


 レヴィンはまだアウステリア王国近辺の地理しか習っていないので知らなかった。

 図書館にも南西の大陸について書かれている書物はなかったと記憶している。


「そのガルアの森で独立国家を築こうとは思わなかったんです?」


「長老達がどう考えたのかは知らんが、インペリア王国は武力をチラつかせてきたらしい」


「なるほど。そんな事があったなんて……じゃあ人間は嫌いなんですね……」


「人間嫌いは多いようだな。私は別にそんな事はないが」


 そう言うと何か思い立ったのか仲間の亡骸の方へ向かうと、枝やら細い木やらを集め始めた。


「亡骸はどうされるんですか?」


「冒険者タグと、遺骨を少し残してここに埋葬する。だから火を起こそうと思ってな」


 火なら魔法なしで起こせるが、黙っておく。

 大地にしゃがみこんで黙々と作業をするアリーサの横でレヴィンも腰を下ろす。


「カルマには他にも精霊エルフ族がいらっしゃるんですか? 昨日、精霊エルフ族の副ギルドマスターに会いましたけど」


「それなりにいるぞ。我々は古精霊ハイエルフ族ほど頭は固くないからな」


「どういう意味ですか?」


 レヴィンはこんなに質問してウザがられないか心配だったが、興味の方が勝ってしまい、ズケズケと質問を続けるのであった。


「私もそこまで詳しくは知らないが、古精霊ハイエルフ族は森から離れる事は少なかったらしいぞ。一応人間とは交易などの親交はあったらしいが」


「そうなんですね。今はどこに古精霊ハイエルフ族の国家があるんでしょうか?」


「は?」


 アリーサは作業する手を止めてレヴィンの方を見つめる。

 深紅の瞳に疑念の色が見え隠れしている。

 レヴィンは、いったいどうしたんだと心配になる。

 しばらく見つめられた後、アリーサはようやく口を開いた。


「本気で言っているのか?」


「え?」


 今度はレヴィンが困惑する番であった。

 すると、その困惑を読み取ったのか、アリーサは信じられない言葉を言い放った。


古精霊ハイエルフ族は滅んだぞ。

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