第11章 あなた疲れてるのよ


 結局、遺骨を焼くのと、アリーサの仲間達が目を覚ますのを待っていたらかなりの時間が経ってしまった。

 遺骨は指の骨だけだ。冒険者タグと一緒に持ち帰るらしい。


 アリーサ達と別れると、トロール討伐を再開した『無職ニートの団』であった。

 アリーサには、今度、故郷に招待するよと言われたので、ありがたく申し出を受けておいた。


 今のところトロール討伐数は五体だ。

 探知魔法を使いながら森の中を歩く。

 

 それにしても古精霊ハイエルフ族が今現在、滅亡して存在していないとは思わなかった。

 今思えば、古精霊ハイエルフ族研究者のバーナビーが言葉を濁していたのもそれが原因だったのだろう。

 レヴィンは何があったのだろうと考えながら道なき道を進んでいた。

 足下が滑って転びそうになる。アリシアがとっさに腕を掴んで支えてくれた。


「ありがと」


「どうしたの? 何か考え事?」


 胸の内をアリシアにのぞかれたようでドキっとしたレヴィンであった。

 彼女に「何でもない」と言って歩みを再開する。


 それからしばらくトロールを見つける事ができなかった。

 戦いになったのはクマベアー、ツインリザード、マンイーターなどであった。

 特に苦戦する事もなく倒していく。

 

 気が付くと、地面がぬかるんできている。そう言えば少し泥臭いような気もする。どうやら沼地が近いようだ。ちょっと森の奥に来すぎたかも知れない。少し戻ろうと皆に言って南に足を向ける。

 来た道とは違う道を通って南へ向かう。

 すると、一体の魔物の反応を見つけた。

 このまま行けば、まもなく会敵するだろう。

 皆にそれを知らせると、茂みの中から様子を窺う。

 木々ではっきりとは見えないが、上半身裸のような人間が立っているように見える。もっとよく確認しようとこっそり近づくと驚きの光景がそこにはあった。


 なんと、そこには頭が蜘蛛で体が人間の蜘蛛人間が突っ立っていたのである。

 

 裸に腰に布きれを巻いただけと言う格好だ。

 思わず、「腹筋グレネード!」とか「胸がケツみたい!」とかいう、かけ声を浴びせたくなる体をしている。

 すると、こっそり窺うこちらに気づいたのか何やら叫び出した。


「クモォ!」


「クモクモ! クモォ!」


 こんな魔物は見た事も聞いた事もない。

 どうやらこちらを威嚇しているようだ。


 こちらへ向かって歩きだ出す蜘蛛人間。


空破斬エアロカッター


 先手必勝で魔法を放つと見事なマトリックス避けを見せる蜘蛛人間。

 そのまま上半身を起こすと、手から蜘蛛の糸のようなものを飛ばして攻撃してきた。それどんなクモ男?と思いつつ、それぞれが散開する。


「クモクモクモォ!!」


 前衛の三人が一斉に斬りかかる。

 右手で木に糸を飛ばして三人の剣撃を華麗にかわす蜘蛛人間。

 空へ飛びあがった瞬間を狙ってレヴィンは魔法を放つ。


光弓レイボウ


 するともう片方の手からも糸を飛ばして空中を駆けるように、再び魔法をかわす。


霊体縛鎖アストラルバインド


「クーモォー!」

 

 アリシアも魔法を放つ。

 その縛鎖に絡め取られる前に大きく飛んで間合いを取ると、一目散にレヴィン達と反対方向へ逃げて行った。

 次々と起こる目を疑うような出来事に茫然と見送る事しかできない一行。

 結局、その蜘蛛人間には逃げられてしまった。


 その日は、何だか疲れているようだったので狩りを中断してカルマまで戻った。

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