第9話 救出


 スナイパーのアリーサは焦っていた。

 草木が生い茂っている場所から、戦いやすい開けている場所へ魔物を誘導した。

 それまでは良かった。

 しかし、メンバー五人でミノタウロス二匹と戦っているその背後から、別の魔物が襲ってきたのである。正直、ミノタウロス二匹ですら六人のパーティ『深紅の閃光』の手に余る魔物であった。前衛の剣士ヴァルヴァラが倒れ、斥候のジナイーダがレイピア片手にミノタウロスを牽制している。

 精霊術士二人は、後ろから襲ってきたトロールに棍棒で殴り倒され気絶している。

 後衛のフォローに入った仲間の騎士はトロール五匹を相手に絶望的な戦いをしている。


 ミノタウロスの一匹は、たった今、能力の『一撃必殺』で殺す事ができた。

 せめて精霊術士の二人が気絶さえしていなければ、逃走を図ることもできただろうに。


「フェヴ、一旦退いてッ!」


 アリーサはそう言うと能力を発動した。


 『アローレイン』


 天空に放った一本の魔力の矢が十数本の矢となり、トロールに降り注ぐ。

 降り注いだ矢はトロールの体に風穴を開けていく。

 五匹のトロールは雨のようなその一撃を全身に浴び倒れていく。


 しかし、相手が悪かった。

 生半可な攻撃ではトロールは傷つけられない。

 というよりその再生能力であっという間に回復してしまうのだ。

 アリーサは、その深紅の瞳で次々と起き上がってくるトロールを睨みつけている。

 チッと内心で舌打ちしつつ、タメは長いがやはり『一撃必殺』にかけるしかないかと考えていた。


 起き上がろうとしているトロールの一匹にフェヴが斬りつける。

 その剣撃は受け止めようとした、その手を斬り裂く。

 さらに追撃をかけようとするフェヴだったが、別のトロールに遮られてしまった。

 『一撃必殺』を発動しようとタメに入ろうとしたその時、後ろから悲鳴が上がる。

 振り返ったそこには巨大な戦斧によって上半身と下半身に分けられたジナイーダの姿があった。


そこでアリーサは決断する。


「フェヴッ! 一旦逃げるよッ!」


「皆を置いていくのかッ!?」


 非難の声を上げるフェヴ。


「全滅するよりマシよッ!」


「気絶している二人が喰われてしまうぞッ!」


 そんなやり取りをしている間に、トロールが周囲を完全に包囲してしまう。

 逃げ場がなくなって動揺するアリーサ。

 トロールはその醜い顔を楽しそうに歪めている。

 

(くそッ! 開けた場所に出たのが間違いだった……森の中から狙撃で倒していけば……)


 後悔先に立たずである。

 アリーサは唇を噛んだ。



◆◆◆



 レヴィン達が駆け付けると、そこにはへたり込んだ金髪の女性とトロールを牽制している、金髪で短い髪をした精霊族の戦士がいた。

 そばには、地面に倒れ伏している者が何人か見える。


空破斬エアロカッター


 レヴィンがミノタウロスに魔法を放つ。

 それは完全な不意打ちとなり、手に持っている戦斧ごとその首を両断した。

 ミノタウロスが首を失ってゆっくりと倒れていく光景を目にして、何が起こったのか解らず周囲を見渡す金髪の女性。


 すると、ダライアスとヴァイス、ベネディクトが茂みから一斉に飛び出し、トロール達に襲いかかる。

 短髪の戦士も息を吹き返したようにトロールに剣を振り下ろしている。


 シーンは倒れている、剣士らしき女性の脈を確認している。

 アリシアはへたり込んでいた金髪の女性に近づくと声をかけた。


「大丈夫ですかッ!?」


 その女性がアリシアの方に振り返った。

 その深紅の瞳が彼女を射抜く。

 

「ああ……私は大丈夫だ……」

 

 その返事にアリシアは戦いになっている方に目をやる。

 トロールの一匹が四人の後ろに回り込もうとしているのを見た彼女は魔法を放つ。


霊体縛鎖アストラルバインド


 たちまち、そのトロールは絡め取られてしまう。

 動く事も出来ない様子である。


 シーンは魔導士のような恰好をした倒れている二人の元へ駆け寄って脈をとると、頬を叩き始める。

 先程の剣士はもう助からない。体を上下に両断されていた者も既に死んでいた。

 倒れていた、残りの二人は気絶しているだけのようだ。

 シーンは、ホッとした表情を見せる。


聖亜治癒ハイヒール


 シーンは念のため、気絶している二人に回復魔法をかけておく。


 レヴィンは少し間合いをとって四人の戦いを見ていた。

 一応、いつでもフォローできるような距離を保っている。


 短髪の女性が押されている。

 ヴァイス達は、中途半端な傷ならすぐに回復するトロールに戸惑いながらもジリジリと追い込んでいく。


 短髪戦士がトロールの重圧にどんどん押されていくが、間合いが近く魔法を撃てば巻き込んでしまいそうなため、レヴィンは魔法を発動できない。

 すると、レヴィンがおもむろに走り出すと、短髪戦士に声をかける。


「下がれッ!」


 その言葉に短髪戦士はとっさに後ろに飛ぶと、レヴィンはトロールの懐に入り込み、その胸に手を当てると魔法を発動する。


強振破撃パル・ダング


 ゴバァ!!


 大きな破砕音と共にトロールの胸がえぐれ、肉が弾け飛ぶ。

 それはドウっと倒れてただの肉塊に姿を変えた。

 それをポカンとした表情で見つめる短髪女性。

 レヴィンは彼女に離れるように促すと、再び戦いの場から間合いを取って三人の戦いを観察し始める。


 ダライアスは、トロールの持つ戦斧ごと右腕を斬り飛ばし、返す剣で脇腹を大きく切り捨てる。トロールは残った左手で傷を押さえたまま、前のめりに倒れると、彼は後ろから首を刺し貫いた。


 ヴァイスは斬り結んでいたトロールの背後をとると、心臓の辺りを剣の根元まで刺し貫き、更に突進する。トロールは地面に突っ伏すと動かなくなった。


 ベネディクトは少しずつ斬り刻んでいたが、たちまち回復するトロールに苛立ちを覚えたのか間合いを取ると、魔法を放つ。


凍結球弾フリーズショット


 左半身を氷漬けにされ、身動きの取れなくなったトロールの右足を斬り飛ばし、グラリと倒れたところに首元に剣を突いてトドメを刺した。


 アリシアの縛鎖で動けなくなっていた残り一体はレヴィンの魔法で首をはねた。

 こうして戦闘は大して長引く事もなく終了した。

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