第8話 初めての魔の森


 朝の九時に街を出発した一行である。

 今回の依頼目的はトロールの核の収集らしい。

 討伐数はニ十体である。かなり多い数に思えるが、薬の調合材料なので大量に必要なのだろう。


 出発したと言っても街の目と鼻の先に魔の森があるので、すぐに森に入る事ができる。一応、トロール以外の魔物を倒しても素材を回収する予定だ。

 もったいない精神である。


 レヴィンが探知魔法を使用しながら森へ分け入って行く。

 彼を含めて全員が魔の森初心者であるから、皆、緊張していた。

 早速、探知魔法に反応がある。五体分だ。

 流石にどんな魔物かまでは解らないので、敵に気づかれないように近づいてゆく。

 視界の利かない中で、魔物を最初に発見したのは、先頭を行くダライアスであった。


オーガだな。数は……五体だ」


 先制攻撃をかけるために、そろりそろりと近づく。

 アリシアは小声で味方強化の魔法をかけていく。


「じゃあ、先制の一撃は魔法でるね」


 充分に近づいた事を確認すると、レヴィンがそう言って魔法陣を展開する。

 木を射線に入れないようにしなければならない。


空破斬エアロカッター


 鬼の首が綺麗に飛んだ。

 それを合図に突撃をかける前衛の三人。

 アリシアも鬼に魔法を放つ。


霊体縛鎖アルトラルバインド


 瞬時に半透明の縛鎖によって絡め取られる一体のオーガ

 残り三体は三人と思い思いにやりあっている。

 オーガの得物は棍棒、大剣、斧とまちまちだ。

 しかし、装備を新調した一行に敵うほどの武器ではない。

 おそらく、冒険者などから分捕った武器だろう。

 一撃必殺とまではいかないが、じょじょに鬼を追いつめていく。

 シーンは仲間に特に怪我がなくても回復魔法や身体強化ステロの魔法をかけている。身体強化ステロはその名の通り、物理防御力アップだと思ってもらえばよい。


 ヴァイスはオーガの持つドでかい棍棒を斬り飛ばすと大振りの一撃をかわしながら、懐に入る。そして、腹を斬り裂く一撃を放つ。

 斬り裂かれたオーガははらわたをまき散らしながら暴れて、素手で殴りかかってくるが、そんな苦し紛れの攻撃などあたるものではない。

 ヴァイスは持前の思いきりの良さで、どんどん各所を斬り飛ばしていく。

 いじめられていた頃の面影はもうない。

 最後は、膝をついてうずくまったオーガの脳天をソードオブグローリーで叩き割った。


 ダライアスは『脱穀だっこく』で身体を強化すると新米剣技で大剣による大振りの一撃を訳もなく弾く。

 そして、『ライス巻き』、『ライス打ち』、『ライススマッシュ』と流れるような連続技で鬼を仕留めた。

 剣の斬れ味も素晴らしいものがある。やはり名剣だったようだ。

 譲った事を少し後悔するレヴィンであった。


 ベネディクトは、三人の中では一番前衛に慣れていないようで、斧による攻撃を度々受けていた。しかし、直撃ではないのと、装備の性能の良さとでダメージはほとんど受けていないように見える。

 覚えたての騎士剣技を使って鬼を追いつめていく。

 少しずつ削っていき、最後は飛び上がりざまの『真空斬しんくうざん』で鬼の首をはねたのであった。


 最後の一体は結局、アリシアの縛鎖から逃れられずに戦闘に参加することはできなかった。三人で袋にして戦闘は終了した。


 魔石だけを回収しておく。

 ランクCの魔物である鬼との戦闘でこれである。

 『無職ニートの団』の戦闘レベルは間違いなく上がっていた。

 もう自分以外のメンバーもランクCで良いんじゃないかと思うレヴィンであった。

 対南斗旅団戦の経験がしっかり生きているようだ。


「やったなッ!」


 ヴァイスが嬉しそうに声を上げた。

 魔の森での初陣を見事に飾り、興奮しているようだ。


「やっぱりこの剣はいいものだ」


 ダライアスも満足の戦闘内容だと目を輝かせている。


「僕はやっと接近戦に慣れてきたよ……」


 プラチナヘルムで顔は見えないが、声は弾んでいる。

 少しずつ慣れて行けばいいとレヴィンは彼に言った。


 再び歩き始める一行、初めての魔の森なのでコンパスで確認して北上していく。

 迷わないように気をつけないといけない。

 しばらく進むと、動かない何かの反応がある。

 反応があったところまで行くが何もいない。

 辺りをキョロキョロと見回していると、頭上から粘糸が飛んできた。

 気づくのが遅れて避けきれず、ベネディクトの左腕に絡みつく。

 全員が慌てて糸が飛んできた方向を見ると、そこにはデススパイダーが巣をはっていた。

 結構な大きさである。3mくらいはあるだろうか。

 ベネディクトが剣で糸を斬ろうとしているが、中々斬れないようだ。

 その間にもデススパイダーはその糸を手繰り寄せていく。

 ベネディクトが引き寄せられていく。

 その時、ダライアスが蒼天の剣で糸を断ち切る。

 やはり切れ味が良い。

 糸の呪縛から逃れたベネディクトが騎士剣技を発動する。


真空斬しんくうざん


 剣撃がカッターのように飛んでいき、デススパイダーの足を何本か斬り落とした。

 敵は怒り狂ったように足をわしゃわしゃ動かしながら糸を何本も木や大地に縫い止めると、その糸を足場に移動してくる。

 何度も何度もレヴィン達に粘糸を飛ばしてくるデススパイダー。

 中々降りてこないので、業を煮やしたベネディクトが魔法を放つ。


氷錐槍アイシクルランス


 その魔法を難なくかわし、糸を伝ってベネディクトに近づいて来る。

 魔法で木々が傷つけられている。悲鳴を上げているかのような音が響く。

 直接攻撃をしかけるようである。確か牙には毒があると習った。

 レヴィンが全員に注意を促す。


 ベネディクトに近づくデススパイダーに、降りてくればこっちのものとばかりにヴァイスとダライアスが斬りかかる。

 しかし敵も動きが俊敏である。攻撃をすり抜けつつベネディクトに迫る。

 最初からずっと彼を狙っている。何がヘイトを誘ったのだろうか。

 その時、レヴィンの電撃ライトニングが直撃するが動きは変わらない。

 ベネディクトは覚悟を決めて迎え撃つようだ。

 剣と盾を構えつつ、側面に回り込もうとするがそうはさせてくれない。

 仕方なく正面から斬りかかると、顔の近くをかすったようだ。体液が噴出している。ランクC程度であれば、レヴィンは極力手を出さないようにしている。前衛に経験を積ませたいという思いからだ。


 ベネディクトの剣が牙で防がれる。するとデススパイダーの後ろからヴァイスが飛びかかり腹部に剣を突き立てる。

 外皮自体はそれほど堅い訳ではない。やすやすと貫くと体液をまき散らして暴れはじめる。そこへダライアスが頭胸部に剣を突き刺してトドメを刺した。


 やはり戦い慣れていない魔物相手だと、こうも手こずるのかという思いが強くなる。油断は決してしてはいけないだろう。魔石を回収して、三人は一息つく。

 敵が出た時に放り投げたままのリュックの中から水筒を取り出しゴクゴクと飲むベネディクト。

 そんな彼の様子を見つめながら、レヴィンは考えていた。

 各魔物のおおよその出現場所の情報とかあるのかなと。

 トロールの生態は魔物学の授業で教わっている。

 通常五体ほどの群れを成しており、森や山地にいるという。

 血の臭いを敏感に嗅ぎ付け近寄ってくるのだ。

 先程の鬼の死骸の近くにいれば寄ってくるだろうかとも思ったが、できるだけ多くの魔物を狩って経験としたい。

 探知で反応のあった魔物を片っ端から狩って行こうと話し合う一行であった。


 その時、悲鳴のような声が聞こえた。

 慌てて辺りを見渡すが、反響して場所が特定できない。

 探知魔法を使用するが、広範囲を索敵できる訳ではないので探知できない。

 

 再び悲鳴が聞こえる。

 続けて何か怒鳴っているような声がした。

 その声色には焦りのようなものが感じられる。

 冒険者が魔物に襲われているのかも知れない。

 助けるとすれば、一刻の猶予もないだろう。

 勘に頼って、森の中をひたすら進む一行。


 今度は魔物の唸り声らしきものが聞こえてきた。

 先程より、かなり大きな声だ。

 方角はこちらであっているようだ。

 茂みをかけわけていくと、不意に視界が開けた。


 そこには予想通り、魔物に襲われる、冒険者の姿があった。

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