第14話 カルマへ②
出発は朝の七時であった。
交代での見張り番であったが特に何事も起こらなかった。
ハモンド達、商人一味は荷馬車の空いたスペースで毛布をかぶって寝ていたようだ。しかし、臭くなかったのだろうか?あの香水は。
レヴィン達、冒険者は火を二か所で起こし、その周囲に集まって雑魚寝していた。
見張りは三交代で回した。『
六時に朝食を取り始める。
朝食と言っても長期保存がきく食糧である。
味気ないが仕方がない。
イザークとイーリスは鍋に
比較的暖かい、アウステリア王国の王都周辺だがまだ三月である。
イザーク達はレヴィン達にもスープを分けてくれた。温かいそれはとてもありがたく、身に染みた。
やがて朝食も終わり、出発の時間になった。
フォーメーションは昨日と同じである。
今日も天気は晴れ。朝はまだ冷えるがこれから暖かくなっていくだろうと思われた。
レヴィンは昨日と同じ中央で警戒にあたっていた。
周囲に気を配りながらも昨夜の事を思い出していた。
「よろしくお願いします」
レヴィンは見張り番が同じになったイザークとイーリスに開口一番、挨拶をかました。
何しろランクBの先輩である。
そしておそらく、アウステリア王国の近隣国家の出身ではない。
それは
いや、例えこの辺の出身だとしても旅で遠方に行っていたのは間違いない。
レヴィンの挨拶に、イザークは手を上げて軽そうに答えた。
「そんな畏まらなくていいんだぜ?」
「そんな……先輩ですからね。ランクもBじゃないですか」
「あまりランクにこだわったり、信頼しすぎても危ないんだぞ?」
イザークは経験からくるのであろうアドバイスをくれた。
「それにしてもここら辺の住み心地はどうだい? キミは王都出身なんだろ?」
「はい。住み心地は悪くないですよ。治安もいいですし。でも
「ほう……
イザークは目を見開いて反応している。イーリスの表情は全く変わらない。
「そうですね。でもこの国は戸籍で
レヴィンなら本当は
「そうだな。俺達は西方の出身だからな。そんな縛りはなかった」
「どうして
「そりゃ、下々の連中に余分な力をつけさせたくないんだろうよ」
イザークはレヴィンの予想通りの回答を返してきた。
「やはり、貴族連中なんかはしてますよね?
イザークの表情がコロコロ変わる。こんな子供が思ったより色々考えているのが解って驚いているのだろう。
「
東方か。しかし自分の国は勧めないんだなと少し疑問に思った。
その後は他愛の無い会話が続いた。
レヴィンとしては先輩に色々な話を聞けてよかったと思っている。
「
その声で昨夜の記憶に
声の主はイザークだろう。前方を見ると、武装した
いや四人か。
荷馬車をストップさせ警戒態勢を取っていると、
おそらくこの先に見える、南側の林が広がっている方からやって来たのだろう。
形勢の不利を理解したのだろうか? 猪突猛進なイメージがあっただけに、その理知的な一面に少しばかり驚いた。
自分の中での
護衛一同は警戒を少し緩めると、合図して荷馬車を発進させた。
それから何時間たったろうか? ハモンドがお昼休憩だというので、一同簡単な保存食を取り出してめいめいの場所で食事を摂っている。
レヴィンも背中のリュックから干し肉とパンを一かけら取り出し、食べ始めた。そして同じく取り出した水筒の水で喉を潤す。
三十分ほど休憩しただろうか? 荷馬車は再びその歩みを開始した。
荷馬車は変わらぬペースで街道を進んで行く。
現在進んでいる場所は、左右両方がまばらな林になっており少し視界は悪い。
それからの旅路も相変わらず平和なものであった。
そして、辺りが暗くなり夜の帳が下りる。
今日の野営地はここに決定のようである。
「皆さん、お疲れ様です。明日の昼にはメルディナに到着できるでしょう。それでは今晩も警備の方よろしくお願いします」
ハモンドが相変わらず腰が低い感じの挨拶をして野営開始の合図となった。
昨夜同様に火を起こして、スープを作り始めるイザーク。今晩もおこぼれに与れそうである。
自分のリュックから取り出した堅いパンと、イザークにもらった肉入りスープをもらい食事を摂る。
そして各自休憩に入った。もう寝始めている下男もいる。
冒険者は一応、緊張を緩めながらも警戒は解いていない。
そんなこんなで時間がたち、今や皆が完全に眠りについている。
今夜の見張り番の一番手はイザーク、イーリス、レヴィンであった。
また昨夜のように話を聞かせてもらおうかと口を開きかけたその時。
林がざわめく。
火を囲んでいた三人は同時に立ち上がった。
右手の林から
レヴィンは手をパンッと合わせるとじょじょに手を開いてゆく。
そして、豚人との距離が20m位に迫った時、『力ある言葉』が紡がれた。
「
ドゴォォオオオオ!!
その
そして、その炸裂音に寝ていた全員が目を覚ます。
「
レヴィンが吠える。
炎がおさまるとイザークとイリーナが
身を起こした残りの冒険者も馬車の中央を囲むように位置を取っている。
中央には三人の護衛対象が集められている。
ちなみに初撃に
決して適当さと派手さで選んだ訳ではない。ほ、本当だぞ!
前衛のテオドール、ギース、ファバルも前に突っ込んで行く。
テオドールとギースは
しかし、思ったよりも数が多い。
イザークとイーリスが獅子奮迅の活躍を見せているが、
三人ほどが囲みを突破してくる。
距離が近づいて来て残り10mほどになった時、レヴィンとラッドの魔法がほぼ同時に放たれた。
「
「
風の刃は
「
レヴィンは間をおかず再び魔法を放つ。
腹を斬り裂かれ悶絶する
接近してくる敵もいなくなり、前方に視線を移す。
ギースは手を前に振りぬくと、直接当たっている訳でもないのに
おそらくこれが波動拳か?レヴィンは目に見える波動が飛んでいくものと思っていたのだが、どうやら目に見えない衝撃波が飛んでいく技のようだ。
ギースは追撃して顔を殴りつけている。
イザークに目を向けると彼は一際大きな体を持つ
流石に彼が手にしている武器で巨体から繰り出される一撃を受け止めるのは難儀なようで、素早い身の動きで攻撃をかわしつつ、隙をついて相手にダメージを与えていく。
巨体の
やがて腕を斬り飛ばされ、腹を斬り裂かれる。そして、最後にへたり込んだ
大勢は決した。見える範囲に居た豚人達は皆、一目散に逃げていく。
レヴィンも追撃に魔法を放っていた。
そして戦闘は終わった。
何人かは仲間から回復してもらっているようだ。
イザークは戻ってくるとレヴィンに話しかける。顔や体は血まみれだ。まぁ返り血だろう。
「しっかし、いきなり派手なのぶっ放したなぁ」
「いや皆の目を覚まそうと思いまして……」
レヴィンは正直に答える。
そして街道から少し離れた辺りに
「
同じ魔法を何度か使って地面に大きな穴を作成した。
「んじゃ、魔石を取ったら
皆はレヴィンに言われた通りに魔石を切り取ると、穴に落としてゆく。
しばらく時間がかかったが、殺した
土で埋めれればいいんですけど……とレヴィンは提案するが、スコップなど誰も持っていない。
魔石は拳より小さな物が十九個、拳大の物が一個集まった。
「ありゃ、
イザークはそう判断した。配分は倒した分は自分の取り分という事に決まった。
レヴィンはDランクの魔石四個ゲットしたのであった。
また、死体の処理をしたのはレヴィンだったので、手間賃としてイザークからもう一個もらった。
断ったが、遠慮するなと言われ素直にもらっておいた。
襲撃があったので、朝は少し遅くまで寝ていた。
ハモンドが気を使ってくれたようである。
そして軽く食事を摂って、出発した。
しかし、
「冒険者ギルドで報告かな。そうすればギルドから依頼が出るだろうよ」
ふむ。はぐれ小鬼討伐依頼のようなギルドからの直接依頼かと納得する。
その後、一行は特に何事にも巻き込まれないまま進んだ。
第一の目的地である、メルディナが見えてくる。
街の周囲は一面、畑のように見える。広大な面積が耕作地として使われているようだ。
美しい農村のような風景が街の周囲には広がっていた。
街へは少し予定より遅い、十五時くらいの到着であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます