第13話 カルマへ①
レヴィンは一旦家に戻ると、隣家の扉をノックした。
すると、寝ぼけ眼のアリシアが出てきた。
「あれ? レヴィンじゃない。こんなに早くにどうしたの?」
寝ぼけてんなコイツと呆れた目で彼女を眺める。
「もう十一時近いぞ」
「昨日はお泊り会だったんだよ~。友達のシーンが来てるんだ~。ところでどうしたの? 遊ぶ?」
「いや、今から護衛依頼でカルマの町まで行ってくるから挨拶しとこうと思ってさ」
「」
アリシアは絶句した。その後、猛烈な抗議の声を上げる。
「なんで誘ってくれなかったのッ!? あたしも行きたい行きたい!」
「いやだって危険なんだぞ? それに四日間ほどかかるし……。野宿とかも嫌だろ?」
「そんなの関係ないッ!」
いやそんなお笑い芸人みたいに言われても……と思いつつ、レヴィンは彼女をなだめる。
「次は一緒にパーティ組んでどっか行こうな? それに親父さんたちも説得しなきゃいかんでしょ?」
「むー」
明らかに不満そうな声を上げるアリシア。
「解った。じゃあ、今から任務を与えるッ! 付与術士アリシアよッ! お前は白魔導士を探し出して仲間に加えよッ!」
「それならもういるじゃん」
「」
今度はこちらが絶句する番であった。
何言ってんだこいつ。
「だって、シーンは白魔導士だよ?」
マジかー。うわー。マジかー。
レヴィンはこんなにも身近に白魔導士がいるなんて思ってもみなかった。
「受かれば中学校も一緒だし、ちょうどいいよね!」
「じゃあ仲間への勧誘を頼む。彼女は冒険者志望なのか?」
「問題ないと思うよ~」
「そっか、じゃあ、俺が戻ってくるまでにシーンとアリシアの親御さんの説得を頼む」
「あい!」
アリシアは敬礼のポーズをとるとニッコリ微笑んだのであった。
その後、レヴィンは家で早めの昼食を食べて再び冒険者ギルドへ向かったのである。
冒険者ギルドの前には荷馬車が何台も並んでいた。
建物の中からは昼食中の冒険者たちのものであろう喧騒が聞こえてくる。
レヴィンは荷馬車群の中からハモンドを見つけると駆け寄る。
すでに『
ハモンドの周囲に固まっている。
慌てて駆け寄ったはよいのだが、近づいた荷馬車から猛烈な匂いがする。
レヴィンはこの匂いの正体に思い当たる。
前世で紫色に髪を染めたおばちゃんが強烈に発していた匂い。おそらく香水である。
(これは少しだといい匂いなんだろうけど、臭すぎだろ……これに耐え続けて旅するのか……)
レヴィンは少々ゲンナリしてしまう。
少し待っていると、ギルドの入り口から赤髪の青年がやってくるのが見えた。
「いやー悪いね。遅れちゃった?」
軽いノリで謝るイザークに問題ないと答えるテオドール。
「いえ、時間通りです。それじゃあハモンドさん、出発しましょうか?」
「うむ。よろしくお願いします」
ハモンドはそう言うと、一行は王都ヴィエナを出発した……のだが……。
暇である。体感時間ではあるが、出発してまだ二時間位しかたっていないが暇である。
王都から東へ向かうと次の町、メルディナだ。だいたい二日ほどかかるらしい。
暇なのだが誰も無駄口を叩く者はいない。
いや、先頭を行くイザークとイーリスは何やら話ながら歩いているようだ。
警戒しながらならいいかと、レヴィンは荷馬車を操っている下男の一人に話しかける。
「あの、定期的に王都から荷物を運んでいるんですか?」
突然話しかけられた下男だったが、慌てたようすもなく答える。しかし顔色の悪い男である。
「そうですね。元々の拠点がカルマなのですが、王都の特産品や香水を定期的に運んでいます。カルマからは魔物の素材などを王都に運んでいますよ……」
王都の特産品ってなんだ?と思い、聞いてみる事にした。
「王都の特産品って何ですか?」
「フフ……とても新鮮なものですよ。中身はそうですね……よろしければハモンド商会の店に来てみてください。良い品を取り揃えておりますよ」
王都の特産品がまったく思い浮かばないレヴィンであった。
もしかしたら果物かも知れない。いやしかしこの匂いである。果物に香水の匂い移らないか?と少し心配になる。
「……」
あかん。話題がない。レヴィンは思わず黙ってしまう。
下男の方も特に話し続ける気もないようで、何も話す様子はない。
ひょっとして王都周辺の護衛任務って案外楽なのか?
ランクもDだったしな。
そして何事もなく、麗らかな午後のひと時が過ぎてゆく。
今何時位であろうか? もう当たりは闇夜に包まれているが、荷馬車は進む。
この街道沿いには魔導具でできた街灯が立ち並んでいるのだ。
現在、王都―メルディナ間の街灯整備が進められているらしい。
レヴィンはいつだったか朝刊で読んだ内容を思い出していた。
なので辺りは、ほのかな灯りに照らされてぼんやりとであるが明るい。
しばらく申し訳程度に辺りを警戒していると、荷馬車のスピードが落ち始めた。
どうしたのかと前の方を見ると街灯が点いていない。
どうやら街灯の整備はここら辺までしか終わっていないようだ。
先頭の荷馬車からハモンドが降りてきて全員に声をかける。
「では今日はここまでということで、夜間の警備も交代でよろしくお願いします」
護衛の十人は見張り番の順番と時間を決めて野営の準備に入った。
ハモンドが言うには、今二十一時らしい。
機械仕掛けの時計をしているそうだ。
そう言えば、
少し遅めの夕食を取ると、見張り番意外の者は皆眠りについたのであった。
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