第5話 学校
前世の記憶が戻ってから初めての学校の日を迎えた。
「行ってきまーす!」
元気よく挨拶をして家の前に出ると、アリシアが待っていた。
彼女と一緒にレヴィンは学校へと向かう。
二人が通う学校は王城の城壁に近いところに建てられている。
時間にして三十分くらいの道のりだ。
特に何事もなく、校舎に入ると、教室に入る。アリシアとは違うクラスだ。
一時限、四十五分で十分休憩を挟む。
小学校は読み書き、計算など一般的な事を学ぶ学校だ。一応魔法の授業もあるにはある。
王都ヴィエナの人口は二十万人ほどであるそうだ。なので流石に義務教育の小学校が一つでは足りるはずもなく地区ごとに何軒も建てられている。
あと、貴族が治めている地方都市にも小学校の分校が存在する。
しかし教師の質は断然、王都が良いのでその点、レヴィンは王都に住んでいて良かったと考えていた。
また、小学校に通う事を義務としている国はアウステリア王国だけのようで、他国はお金に余裕のある者しか通う事はないようだ。
アウステリア王国が如何に人材育成に力を入れているか解るというものである。
(でも人材を育てたいなら
まぁそこは身分制度のある国々の事情があるんだろうと納得しておいた。
授業は特にこれと言って特別な事をする訳でもなく、時間は過ぎて行った。
お昼は弁当を食べて引き続き午後の授業に入る。
午後一番の授業は魔法のそれであった。
レヴィンの顔が輝いていたのは言うまでもない。
「えーであるからして、この魔法陣は火だけでなく風の要素も盛り込んであり、完全に火属性の魔法とは言えない。魔法陣のここの部分が火を形作る部分を意味し……云々」
魔法陣は
いつか魔法陣を解析して新魔法を創ってみたいものだとレヴィンは心を躍らせる。
本日の授業は全て終わった。
さぁ帰ろうとアリシアの教室に向っていると彼女の教室から大きな声が聞こえてきた。
俺はこいつを知っている。ヴァイスの声だ。レヴィンは心の中で舌打ちをした。
ヴァイスはトラブルメイカーだ。
また、冒険者ランクもEに上がっているらしい。
教室に入ると案の定、ヴァイスがアリシアに絡んでいた。
正直言って彼女は結構可愛い。
ヴァイスが彼女に懸想するのは仕方のない事であろう。
「いいじゃん。ちょっと付き合ってくれればいいんだよ」
「嫌よ。レヴィンと一緒に帰るんだから離してッ!」
まぁそこまで邪険にしなくてもと思わない事もないが、アリシアは嫌がっている。
ここで止めに入らなければ男じゃあるまい。
「まぁまぁ、その辺にしときなよ。アリシア帰ろう」
「あーん。お前の出る幕じゃねぇよ! 魔導士野郎!」
うーん。ひどい言われようである。
魔導士差別だッ! バカ! アホ! このオタンコ!
レヴィンは心の中で罵倒しておいた。
「てめぇヴァイスさんに舐めた口聞いてんじゃねぇぞ! ヴァイスさんはなぁ、将来、騎士団長になる、お人なんだぞ!」
さらに突っかかってきたのはヴァイスの金魚のフンのマルコであった。
横でヴァイスがうんうんうなずいている。
(マルコは確か見習い戦士だったか。あんまり威張れた
思いっきりガンくれているマルコを華麗にスルーし、ヴァイスに向き合う。
「アリシアが好きならもっと優しくするとかさぁ……」
「なッ!? 好きとかじゃねぇから! 何勘違いしてんだてめぇ!!」
多感なお年頃である。
(ふはは。可愛い奴め)
実年齢二十四歳のレヴィンである。
生暖かい目で見守ってやりたいところであったが、実際問題、力比べになったら圧倒的弱者である黒魔導士は騎士に成す術なくやられるだろう。
とは言え、学校で攻撃魔法をぶっ放す訳にもいかない。
「仕方ない。間を取って俺がお前に付き合うよ。で? どこ行くの?」
「ぶぁかかてめぇは。デートなんだよこれはッ!」
(どっちなんだよ……)
「おい、ヴァイスッ! いい加減にしないと……」
「ああん。いい加減にしないとどうなるか教えてくれよ」
「先生に言うぞッ!」
その言葉を聞いて何人か関係ない野次馬がずっこける。
よし今だ!レヴィンはアリシアの手を取ってその場を走り去る。
意表をつかれたヴァイスとマルコは慌ててレヴィン達の後を追う。
(しゃーない)
「
廊下に激しい風が吹きすさぶ。
幸い、ヴァイスの傍には関係者以外いなかった。
ヴァイスとマルコは突如吹き寄せた強風に身動きが取れない。
その隙にレヴィンとアリシアは学校から飛び出した。
しかし、ヴァイスは風が吹き終わると、レヴィン達を追ってくる。
(えーい。しつこい)
俊敏性でも負けているようである。たちまち両者の距離は縮まってゆく。
「しつこーーい!!」
あ。アリシアがキレた。
「
突然、ヴァイスの足下から茨が生えてきてその体を絡め取る。
(おおッ! 魔法覚えとったんかワレ!? あ、マルコも巻き込まれてる)
「あばよ。ヴァイスっつぁ~ん!」
レヴィンとアリシアはそう言い残すと、ヴァイスとマルコを置いてまんまと逃げおおせた。
五分ほど走り続けると、後ろを振り向き誰も追いかけて来ない事を確認してホッと一息つく二人。
「喉かわいちゃったね。何か飲んでいこうよ」
えへへ。とアリシアは言いながら、ちょうど近くにあったドリンク屋の方を指差した。
「そうだな。小遣いもあるし寄って行こうか」
そういうと二人はドリンク屋に入ってメニューから好きなものを選ぶと大銅貨二枚を払う。
大銅貨は一枚百円程度だ。安いもんである。
まぁ親のお金なのだが……。
さらに二人は肉屋さんによってコロッケを買った。
こちらは大銅貨一枚である。
揚げたてのコロッケはほくほくで、はふはふ言いながら食べ歩いた。
すると、前の方から歩いてくる者がいた。それはよく見知った顔である。レヴィンの記憶が蘇ってくる。親友のダライアスだ。
確か、彼は農民の長男であり、学校が終わるとすぐに帰宅して家の手伝いをしているはずだ。農民は基本的に学校になど通わないのだが、ダライアスの親御さんは苦労してお金をため、息子を学校に入学させたという。
しかし身分など関係なかった。彼はレヴィンととても気の合う大切な友人の一人であった。
「めずらしいね。ダライアス。いつもは学校が終わると直帰するのに」
「ちょっと親父に買い物を頼まれたんだ。もう済ませたから後は農業ギルドに寄ってから帰る」
人懐っこい笑みを浮かべ親指を立てるダライアス。
「農業ギルド? 何しに行くんだ?」
「ちょっと肥料の事でね。まぁたいした用事でもない」
「そうか。じゃあ、また明日」
そう言うとお互いに手を振りながら別れた。
その後も、歩きながらダライアスについての記憶を確かめる。
彼の
この世界の基本職業に見習い戦士が存在するため、レヴィンは新米剣士がどういう意味なのか計りかねた。
前世での意味のままの新米なのか、この世界では何か意味があるのか。
この世界にコメという作物はないらしい。まぁコメにあたるものが違う名前で存在している可能性はあるのだが。
コメがないのなら新米という表現があるのもおかしな話である。
ヘルプ君に聞いても新米の剣士以上の説明はなかった。
レヴィンはまぁいいかと思考を切り替える。
どうせ後で冒険者仲間に誘うつもりだ。世界を冒険していれば意味が解る日もくるだろう。
その後、二人はその他にも若干寄り道をして午後四時頃に帰宅したのであった。
こうして記憶が戻って初の登校は終わった。
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