第6話 寄り道


 レヴィンはこの世の中の事をもっと知らねばと考えていた。

 まだまだこの世界では図書館好きで少しばかり知識を持ったガキに過ぎないのだ。

 武器や防具などの相場さえ知らない。

 実家が薬屋なのにも係らずポーションなどの値段さえ把握していなかった。

 であるので、休日はグレンについて外に出られるチャンスなので、学校が終わった放課後に色々な調査をしようと決めたのである。


 その日もレヴィンは学校が終わると寄り道を開始した。

 もちろんアリシアも一緒だ。

 初めは一人で周ろうと思っていたのだが、彼女に駄々をこねられたのである。

 もうすぐ十二歳なんだから……と思ったが、そんなに嫌ではない自分もいる事に少し驚く。


 とりあえず街のどこに何の店があるか把握していないのでまずは東のロストフ地区からぶらついてみる事にした。

 ちなみに住んでいる場所は南門に近いシガント地区である。

 やはり王城の周囲が地価が高いらしく、貴族街や冒険者や商人ギルドなどの比較的重要な建物が建っているようだ。

 まず目に入ったのは薬屋であった。王都に薬屋は何軒位あるのだろうと思いつつ入ってみる事にする。

 その店はうちと同じ位の規模であった。


「こんにちは……」

 

「おう。いらっしゃい……って子供か。どうした薬屋なんかに来て」

 

 相手が子供と解って、店主らしき男の声は少しガッカリしたようなものになった。

 そこでレヴィンは考えていた言い訳をする。


「実は先日、冒険者になりまして、ポーションなどを見てみたくて来ました」


「おお。冒険者かい! それなら薬は必須だわな。ゆっくり見ていってくれ」


 レヴィンは陳列されている商品を見てゆく。

 

(解熱剤か。うちより少し高いな。ポーションは、と。ふむ。大銅貨八枚!?)


 家のポーションは大銅貨五枚である。

 品揃えは家とあまり変わらないようであるが。

 ポーション、ハイポーション、マジックポーション、不死鳥の羽。その他、風薬類。

 ただ家で扱っているエクスポーションがない。品切れなんだろうか?


「すみません。エクスポーションってありませんか?」


「エクスポーション? また高級なもんを……欲しいのかい? というかあっても買えないだろう? ウチも中々入荷できなくてね」


 確かにエクスポーションは高い。

 そして数量も少ない。貴重なのがよく解る。

 もう特に見るものはなかった。冷やかしだと思われるのもなんなので、レヴィンは貯めていたお金を使う事にした。

 ありがとう十二歳までの俺!とレヴィンは自分を褒めてあげた。


「ポーション一個ください」


 大銅貨を手渡す。子供の小遣いなんて銅貨や大銅貨でもらえるものだ。銀貨なんてものはそうそう持っていない。

 家で買えば大銅貨五枚なのだが、余計な詮索をされたくなかったのだ。

 レヴィンは一人で少し森をうろついてみようと思っていた。こんな事をグレンに言ったら止められるだろう。


「あいよッ! ありがとな! マジックアイテムを買うくらいなんだ。坊主、パーティ組んでるなら仲間を大事にしろよ?」


 言われた意味はよく解らなかったが適当に返事しておいた。

 ポーションは陶器らしき器に入っており、コルクのようなもので栓がしてある。

 お礼を言って薬屋を出て散策を再開する。


「アリシアも何か気になる店があったら言ってよ。色々見てみたいし」


 彼女は「うん解った」と頷くと歩きながら辺りをキョロキョロと見渡し始めた。

 しばらく歩くと、剣が二本交わった感じのアイコンが描かれた看板を見つけた。

 おそらく武器の店だろう。特に買えるものもないだろうが、入ってみる事にする。


「……」


 挨拶はない。今度の店主は物静かなようだ。

 二人はそれぞれ品物を見て歩く。

 剣、大剣、槍、つち、斧、弓等、品揃えは豊富である。

 レヴィンはその中の鉄の剣を手に取ってみた。

 そしてちょっと素振りしてみようと力を込めたのだが体がうまく動かせない。


(え。なんで!? 体が少ししか動かないんだけど)


 若干パニクるレヴィン。慌ててヘルプ君を起動する。


(鉄の剣、装備)


 知識が頭の中に流れ込んでくる。

 装備可能職業の中に黒魔導士の名前はない。


(ええ……、装備できないだと……。装備できない武器は扱う事すらできないのか!? いや少しは使う事ができるみたいだな)


 またまたゲームのような仕様に思わず頭を抱えてうずくまる。

 しかし、事前に解って良かったと思う。

 これだと、戦闘になって誰かが落とした武器をとっさに使用するなどそういう事はできない事になる。

 誕生日にもらったダガーがあるが、もしもの事を考えると予備があった方が良い。

 しかし、現状流石に武器を買うほどの蓄えはなかった。

 まぁ値段だけでも見てみるかと気を取り直して店内を再びうろつく。


「アリシア。魔導士の装備品がないね。どこに売ってるんだろ?」


「あたしも武器屋なんて初めてだから解んないよ~」


 店主に尋ねるべく店の奥に入っていく二人。

 そこには貫禄のない若者が座っていた。

 

(そこは髭面の親父店長だろ!)


 心の中でそう突っ込むと彼に疑問をぶつけた。


「ああ、魔導士の装備品なら魔導屋マジックショップに行かないとないよ。ここにはダガーとかナイフならあるけどね」


 レヴィンはお礼を言うと、店から出ようとしたが、ふとある事を思いだし止める。

 誕生日にもらったダガーはいくら位なのだろうという疑問からだ。

 もらった物の値段の確認なんてなんかやらしいとは思ったが、これも価格調査だと自分に言い聞かせ、ダガーを見に行く。

 値段は銀貨三枚だった。高いな三千円位か?レヴィンはこんな高価なものをくれた両親に感謝した。

 確認は終わったので、外に出る。


 次は防具屋か、魔導屋マジックショップだなと再び周囲を見渡す作業に戻る。


(しかし腹が減ったし、喉も乾いたな。飲食店はこの辺りにはないのかなっと)


 しばらく通りを歩いても見つからなかったので、一本隣りの通りに移動してみた。

 そこにカフェらしき建物があったのでアリシアに言って入る事にした。

 ジュースと軽食を頼もうと思ったが軽食と言っても値が張ったので、ジュースだけにしておく。レヴィンの小遣いは十二才になって銀貨一枚になったが、無駄遣いはなるべく避けたいところだ。

 レヴィンはホルモのジュース、アリシアはオランギのジュースを頼んだ。

 ホルモはモモのような味がした。流石に彼女に一口頂戴とは恥ずかしくて言えなかったのでオランギが何なのかは解らなかった。


 カフェでのしばしの休憩を挟んで二人はまた歩き出す。

 この通りは八百屋や肉屋などの食品を取り扱った店ばかりであった。

 なのでさらにもう一本隣りの通りに移動した。

 するとすぐそばに杖のアイコンをした看板を見つけた。

 おそらくこれが魔導屋マジックショップではないだろうかとアタリをつけ、その店に入っていく。


 思った通り、その店は魔導屋マジックショップであった。

 

(全然怪しくないな。ガッカリだよッ!!)


 魔法関係の店はトンガリ帽子をかぶった老婆がネルネルネルネを作っているような環境じゃないと(偏見)

 その店は怪しくはなかったがお香を焚いているようでなんだかクラクラする。甘い花のような香りだ。まさかこのお香もマジックアイテムなのか!?と疑ってみるレヴィンであったが、まぁそんな事はどうでもいい。

 状態異常だってステータスなんか確認できないしー。

 気を取り直して店内の物色に移る。

 ワンドやロッドが並べられている。入口近くにはSALEの札がかかっている叩き売りのワンドなんかもある。

 さらに奥の方に入っていくと、銃が置いてあった。

 銃……だと……ッ!?


「なんで魔導屋マジックショップに銃がああああるんですかぁ!?」

 

 テンパってどもってしまった。

 

「あん? 魔導銃だからに決まっているじゃないか」


 店の最奥に居た老婆(やっぱり老婆なんだ)が事もなげに言う。

 おお。装備できるのか魔導士もとヘルプ君を呼び出しつつ、感動に打ち震える。


「どんな原理なんですかッ!?」


「ここに魔石をはめ込んでそのエネルギーで撃つんだよ」


「装備している者の魔力を使って撃つとかそういう原理のものもありますか!?」


 前のめりで質問するレヴィンに老婆は引き気味に答える。


「ここにはないよ。詳しい事は街の機工士きこうしにでも聞きな」


(OH! 機工士きこうしなんて職業もあるのか。ふむ。銃は機工士きこうしも装備できると)


 機工士きこうしという職業クラスは天界ではどうやら見落としていたようだ。迂闊である。

 気を取り直しつつ値札を見ると、金貨三枚であった。


(うーむ。国の軍隊は銃を使っているのかな? 普及度が解らないから相場も解らん!魔石を取り換える必要があるとすると維持費もかかるしな)


「遠くから攻撃できるのはいいね」


 軽くトリップしているといつの間にか隣りに来ていたアリシアが普通の感想を述べる。

 レヴィンはそうだね。と返事をし、いずれ使う事もあるかも知れないなと心に留め置いておく。

 

「ああそうだ。あんたら、今巷じゃ子供が行方不明になる事件が起こっているそうだよ。もう日も暮れるからさっさと帰りなッ!」


 物騒な話である。それにしても心配してくれるなんて口は悪いがいい老婆だなとレヴィンは思った。


 外に出ると空は夕日に照らされて橙色に染まっていた。

 もうこんな時間かと思い、レヴィンとアリシアは帰路についた。

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