第3話 冒険者デビュー
「「行ってきまーす!」」
大きな声でグレンと共にリリナに挨拶すると二人は外に出た。
レヴィンにとって初めての外出である。心が躍ってしょうがなかった。
さぁ、冒険者ギルドだ、と意気込んでいると、突然声をかけられた。
「レヴィン!」
声がした方に振り向くと、そこには明るい栗色の髪をした笑顔の少女が手を振りながら近づいて来るのが見えた。
記憶にある。隣りの家に住む、アリシアだ。レヴィンの幼馴染である。
アリシアが手をブンブン振っているのでレヴィンも手を大きく振り返す。
「レヴィン! 遊ぼうよ!」
「ごめん。今日は誕生日だから念願の冒険者ギルドに登録しに行くんだ。そのあと薬草採取に行ってくる」
「誕生日なのは知ってるよ! おめでとう! 今夜、あたし達も家族でお祝いに行くからね」
どうやらお隣りのアリシアの家とは家族ぐるみの付き合いのようだ。
「いいなぁ冒険者登録できて……あたしは誕生日が十二月だからまだできないんだぁ……。ね、着いて行ってもいい?」
アリシアがそう言うのでグレンにチラッと視線を向けるとコクリと頷いた。
どうやら許可がおりたようだ。
「ギルドの雰囲気とかを見ておいて損はないからな。アリシアも一緒に行こうか。家族に伝えてきなさい」
グレンはアリシアにそう促すと、彼女は嬉しそうに隣りの家に入って行った。
三人揃って冒険者ギルドに向う。
先頭はグレン。
その後ろをカルガモの親子のようにレヴィンとアリシアがついてゆく。
しばらく歩くと比較的大きな建物に到着した。時間にして十五分位だろうか。
扉は大きく開け放たれており、来る者拒まずと言った雰囲気でそびえたっている。
グレンは迷いなくその扉をくぐると、空いている受付へ向かう。
グレンはその受付に居たお姉さんと知り合いなのか手を上げて挨拶する。
お姉さんは金髪で蒼い目をしたロングヘアーの綺麗な人だ。
「冒険者登録を頼む」
「おはようございます。グレンさん。息子さんの登録でよろしいですか?」
「うん。今日十二歳になったところでね。頼むよ」
グレンは懐から巾着袋を取り出し、銀貨三枚と何かの金属でできた、カードを受付嬢の手渡した。
「登録料と戸籍カードですね。確かに承りました。説明はどう致しますか?」
カードは戸籍のようだ。この国にも日本のように戸籍があるのかと若干驚いた。
受付嬢は、グレンが冒険者だから説明はいるのかと聞いているのだろう。
グレンは彼女の方から説明してやってほしいと伝えた。
彼女は戸籍カードを奥にいた女性従業員に手渡した後、説明を開始した。
「解りました。まず冒険者にはランクがあります。ランクは上からS、A、B、C、D、E、FとなっておりFランクからのスタートとなります」
(でも前から疑問だったんだけどどうして最上位ランクがSなのかな? Aじゃないの? スペリオルのSか?)
「冒険者はまたの名を探索者、ハンターなどと言い、様々な呼び方をされております。未踏の地を探索したり、新たな街を開拓したり、犯罪者を取り締まったり、魔物を駆除したりと様々な活躍の場があるのです」
受付嬢はえっへんと胸を張って言を続ける。
「冒険者ギルドはルニソリス歴一四一四年、当時、元探検家でインペリア王国の貴族となったファリス・ド・ゴドフロワ男爵によって設立されました。男爵という地位にも係らず、その影響力は種族や国家を超えた機関として創設され、破格の偉業として語り伝えられております。たいていの国家やその都市にギルド支部が設けられており、資金も潤沢で発言権もそれなりに有しております。なので冒険者は現代におけるれっきとした職業の一つに数えられております」
(職業ね。本当に紛らわしいな)
「なお、本部はインペリア王国の王都インビックにございます。依頼は、個人から法人、貴族、王族など様々な立場の方々から受けつけており、入口から見て右側、あちらですね、あの掲示板に依頼書が貼付されます。常時依頼、臨時依頼などがあり、依頼書を受付に持ってきて頂ければ手続きを致します。またそれとは別に指名依頼というものもございます。ランクが上がればそう言った依頼も増えるかも知れませんね。入口から左側には軽食兼酒場になっており、冒険者同士の交流が盛んです。さらに二階には資料室と会議室が三部屋あります。ギルド員になられましたので資料室での閲覧は自由です。また、三階はギルドマスターの部屋と応接室になっております。他にも部署があるので確認してみてください。後もう一つ、ギルド隣りの建物は素材の買い取りや一次加工を行う場所になっており、討伐した魔物などはそちらへ持っていってください。」
ここで先程の女性従業員が一つのタグを受付嬢に手渡した。
「さて、タグが出来上がりましたね。このタグが冒険者証となっております。紛失にはお気を付け下さい。」
そう言って、一つのタグが手渡される。
名前、年齢、性別、職業、ランク、パーティ名とパーティランクそしてバーコードらしきものが刻まれている。
「これは専用の装置に読み取らせる事によって、過去の依頼の照会なども可能です」
「え、そんなすごい技術があるんですか?」
レヴィンは文明度に対して明らかな
「はい。専用の魔導器でして、神が作ったとされています」
(やはり冒険者ギルド設立は神の願いを叶えた事による報酬だな)
「さて、次は依頼失敗の場合ですが、依頼書に依頼失敗時の違約金が設定されている場合のみその金額の支払い義務を負うものとします」
「何かご質問はございますか?」
すぐに質問が思い浮かばない系男子のレヴィンは首を横に振った
無事に冒険者証も入手する事ができた一行は王都の城門のところまで来ていた。
ここで、アリシアとは一旦お別れである。
アリシアは残念そうにこちらを見ている。
しかし仲間にはしない。
また後でねと手を振ってグレンとレヴィンの二人は城門をくぐった。
「グレンさん、薬草を取りにいくのかい? 気を付けてな!」
城門の衛兵がグレンに気づいて声をかけてくれる。
グレンは結構顔が広いようである。
レヴィンはなんだか自分の事のように嬉しかった。
「今日は、ゴレナス草を取りに行く。知っているとは思うが、これは強力薬『鬼殺し』の材料になる」
「うん。これは栽培が難しい草なんだよね?」
「そうだ。だから自生しているものを採取するしかない。医者から聞いたんだが、ここから北に言ったところにある都市ラビスで、現在、伝染病流行の兆しが見られるそうだ」
なるほど抗ウィルス薬みたいものかと納得し、グレンの後に着いてゆく。
王都から南に一時間ばかり歩いた距離にうっそうとした森がある。
そこからさらに一時間あまり森に入ったところにその草は生えている。
道中特に魔物は見られなかった。
記憶が戻る前も魔物と戦っていた節はあったのだが、実際経験がないレヴィンとしては、戦闘の一つもしてみたいところだった。
「薬屋としてやっていくには、原料となる草などの自生場所をなるべく知られないように注意しなければならない。尾行にも注意しないとな」
ライバル業者の存在に気を使うのも自営業を営む者としては当然の話だろう。
(でも多くの伝染病患者が出たらより多くの原料が必要になるしなぁ。痛し痒しだな)
患者の苦しむ姿を見て悲しまない薬屋はいないだろう。
レヴィンにもその悩みは痛いほど解った。
前を歩いていたグレンが不意に足を止めた。
「
本当は出会わないに越したことはないのだが、冒険者デビューとなるレヴィンにとっては運命の出会いと言えた。
先手必勝だ。レヴィンはすぐさま頭の中で魔法陣を形成する。森の中で使うとしたらコレだろう。
「
『力ある言葉』を放つとその水の刃はまっすぐに小鬼に向って飛んでゆき、その首をあっさりと切断した。
「おし!」
レベルアップや、
これでは自分が強くなっているのか、
(うーむ。やっぱりゲーム的なシステムってのは便利なものなんだな)
数値化したらバトルものにありがちな戦闘力のインフレを起こすだろと一笑にふしていたのだが、手ごたえがなさすぎるのもなんだかなぁと思う。
誰か報酬でゲーム的なシステムを創ってくれないかな。レヴィンはわずかであったがそうも思った。
「よし、草取ってくる」
グレンは
彼が採取している間、レヴィンは辺りを警戒する。
そして、特に何者の接近もないまま、無事に採取を終えたグレンがレヴィンに近づきながら言った。
「こんなもんか、栽培研究のために種も多少取ってきた。さぁ帰ろう」
「うい」とレヴィンは返事を返すと二人揃って来た道を帰ってゆく。
帰り道は他愛のない話をした。
グレンはいずれ薬師に
アイテム士と薬師ではできる事に雲泥の差があるという。
それは確かにそうだろうとまだこの世界の事情に詳しくないレヴィンでさえそう思う。
そもそもアイテム士という存在自体、意味が解らない。
アイテムなんて誰でも使えるだろうに、そして薬師ならばおそらく調合や薬の知識が手に入ると、ゲームをやってきたレヴィンならばなんとなく解るのだ。
ゲーム的な面も見え隠れするが、反面、ゲーム的でない部分も多々あり、便利なのか不便なのかよく解らないレヴィンであった。
「父さんの能力ってどんななの?」
「なんだ。急に。そういう事はあまり人にベラベラ話すものではないぞ」
「解ってるよ。父さんだから聞くんだよ」
「そうだな。『アイテム使用』、『アイテム探査』、『メンテナンス』だな、一応、
「すごいね!
「別の国に行くしかないな。たいていの国は
帰り道は特に変わったこともなく、冒険者デビューは地味なものに終わった。
往復だいたい四時間、家路につく二人であった。
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