第十四話 女性向け恋愛ゲームに出てきそうなイケメンだと思った
携帯電話やスマホの話をしたり、パソコンやインターネットの話をしたり、俺が説明するたびにミノリさんはうへえと変な声をあげた。
マコトは時々俺の袖を引いて「今のって何」とか「どういうこと」とか聞いてくる。
その度に、俺はなんとか説明を試みるけどちっともうまく説明できず、マコトはそれを聞いては「全然わからない」と小さく呟き続けた。
それから、ミノリさんが知っている漫画やアニメや小説の名前を上げて、俺がそれに対して知っているとか知らないとか、読んだことあるとかまだ連載が続いているとかを答える。
俺が知っている作品については、マコトに粗筋を説明して、そういう物語があったということを伝える。これはマコトにも想像が付きやすいみたいで、話の内容によっては「続きは?」と先を促されることもあった。
長寿連載作品のその後の話はミノリさんにも受けていた。
ミノリさんの口から女性向け恋愛ゲームの名前が出てきて、何年か前にリメイクが出てたって話をしたらすごく食い付いてきた。身を乗り出して声優はどうなったイラストはどうなった新規スチル書き下ろしはあるのかと詰め寄られた。
前にネットのゲーム系ニュースで見かけただけで、そこまで興味があったものでもなく自分でプレイもしていないし、正直に詳しくは知らないと言ったら非常に残念がられた。とても好きなゲームだったのだそうだ。
オーエンさんが戻ってきたのはちょうどそんなタイミングで、俺は金髪碧眼イケメンの二十年前の姿を想像して、一人勝手に頷く。きっと女性向け恋愛ゲームに出てくるキャラクターのように、キラキラしい美青年だったに違いない。
オーエンさんは腕に籠を引っ掛けて、両手に鍋を持っていた。慌ててみんなでテーブルの上を片付ける。
籠からパンを出して、スープを取り分ける。スープには、燻製肉と豆が入っていた。
固いパンはスープに浸して食べるのが基本なのだそうだ。スープに浸したパンを噛むとジュワッと肉のにおいが口いっぱいに広がって美味しい。
オーエンさんは戻ってから、ずっとミノリさんに張り付くように隣にいる。ミノリさんが「大丈夫、日本に帰ったりしないから」と笑いかけたけど、左手がずっとミノリさんの腰に回されている。
「あ、それで、これはお父さんに話したいんだけど」
パンを千切りながら、マコトが声を上げる。
「多分なんだけどね、お母さんと同じような魔法が使えるんじゃないかと思う、シンイチも」
燻製肉をよく噛むことに集中していた俺は、急に視線が集まってきて、慌てて肉を飲み込んだ。
オーエンさんが、持ち上げていたスプーンをスープ皿に置いて顔を上げる。
「本当か?」
「いや、あの、魔法かどうかは知らないです。ただ、マコトに魔力欠乏だって言われて、なんとなくの心当たりがあるだけで」
「どんな魔法か、説明できるか?」
「説明って言うほどのことではないんですけど……ええと、鳥の唐揚げが出ます」
俺の端的な説明に、オーエンさんは眉を寄せ、マコトは首を傾け、ミノリさんは身を乗り出した。
「……『カラアゲ』?」
「『カラアゲ』って何?」
「鳥唐揚げってマジ!?」
困惑しているオーエンさんとマコトをよそに、ミノリさんの声ははしゃいでいる。
「マジで唐揚げ? すごい! 唐揚げ食べたい!」
「ミノリ、『カラアゲ』っていうのは、食べ物なのか?」
食べたい食べたいと連呼するミノリさんに、オーエンさんが聞く。
「そう、鶏肉に衣を付けて油で揚げた食べ物! うわぁ、懐かしい」
「油で?」
「鍋にたっぷり油を入れて、熱くして、その中に食材を入れて火を通すんだよ」
「それ、すごく油使うんじゃない? 大変な料理なんだね」
マコトは溜息のように息を吐いて、首を振った。
「ここだと油を用意するのは大変だもんね。日本だとそうでもなかったんだよ。ね、唐揚げ出せるんでしょ? 食べても良い?」
「ミノリ、落ち着いて。君のアレと同じだとすると、彼の魔力から生み出された物だ。君には食べさせられない」
「ええー、なんでー? 唐揚げ食べたいのに……」
「俺以外の男の魔力を口にするなんて、そんなの認められる訳がないだろう」
ミノリさんは口を尖らせて俯いた。
「それって、ただの嫉妬ですよね」
小さな声でぶちぶちと言う言葉をオーエンさんが拾う。オーエンさんは、ミノリさんの頰に軽く触れると、顔を寄せて囁くように言葉を紡ぐ。
「そうだね。君が他の男の魔力を口にするなんて……俺が食べ物を生み出せるなら君の食べ物は全部俺が生み出すのに、と思うくらいには嫉妬してしまうな。さ、今はスープを食べて」
目を細めて、甘い眼差しでミノリさんを見詰める。ミノリさんは慌てて視線を逸らすとスプーンを持ち上げてスープを口にする。それを見てうっとりと微笑んで、それから改めて俺の方を向いた時には、もうあの氷の瞳に戻っていた。
「その『カラアゲ』というのが出てくるときのことだが、それは何もないところから生み出されるものか? それが出てきた時のことを詳しく……いや、見た方が早いか。今ここで、それを出すことはできるか?」
「多分……やってみないとわからないですけど。それより、俺は魔力っていうのがわからないので、その魔力欠乏っていうのが怖いんですが……」
唐揚げを出したら死ぬという気持ちでいたので、急に出してくれと言われて戸惑う。マコトを見ると、マコトも真面目な顔で何かを考えていた。
「シンイチは倒れるまでに、その『カラアゲ』というのをいくつ出したの? 一個だけ?」
「いや、ええっと、いくつ出したっけ……最初の一個は落ちて、二個目を食べて……その後三個目を出して、水を飲んで、それから四、五……六個。あ、もしかしたら七個かも」
「結構出してたんだね……」
マコトの呆れたような声に恥ずかしくなって、言い訳にもならない言い訳をしてしまう。
「めちゃくちゃ腹が減ってたから」
「まあ、それなら、一個くらいなら大丈夫だとは思うけど……でも、無理はしないでね」
俺はマコトに頷きを返してから、オーエンさんに向き直った。
「あの、できれば小さくて良いのでお皿を貸してください……やってみます」
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「ドラマCDとか買わなくても、ゲームに声が付いてくるのが当たり前なんだね」
「声なしゲームもありますけどね。まあでも大抵はゲーム発売前に、声優の誰が参加するとかヒロインの声優は誰とか、女性向け恋愛ゲームも人気声優の誰が担当とかいっぱい出てますよ」
「わたしが遊んでたときはさ、ゲームカセットにCDが付いてくるやつがあってね」
「ドラマCDがおまけに付いてくるとかは今もありますけど」
「そうじゃなくて、CDに声優さんが喋ったゲームのセリフが入ってるんだよ。でもって、ゲーム遊んでると画面にこれを再生しろとか出てくるから、その指示にしたがって再生するとゲームが音声付きになるっていう」
「なんですかその、とてつもなく大変そうな仕組みは」
「なんか、外付けのリモコンみたいなのが入ってて、リモコン対応のCDプレイヤーがあれば自分で操作しなくても良かったと思うんだけど……何が駄目だったんだっけ、なんか自分で操作してた覚えあるなあ」
「ゲームに集中できなくないですか、それ」
「それでも! 声が! セリフが! 聞こえるのは偉大! だって喋るんだよ、しゅごせ
「お母さん、シンイチ、さっきから二人の話が全然わからない」
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