夏の空は音色

速水すい

響かせる音色

夏の空、晴天で雲ひとつない。

蝉の音は、実に騒がしく鳴きつづける。

俺は、クーラー効いた部屋でただただ聴く。



夜空七瀬よぞらななせさん」

「はい」

「体は大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です」


看護師の診察受けていた。夜空七瀬、高校一年生だけど―――持病悪化して入院生活。

さて蝉は、生きる為にせいっぱい鳴き続けて、一週間でその命を終える。

俺は、儚く思う。必死に生きる為に鳴くその声は素晴らしい生命の歌と名ずけたくなる。


うん、あまり変わらないパターンを繰り返して聞いてる。別な音色を聞かせて欲しい所だな。



少年はそう実感した。音色と言えば―――。



病室の扉が開く、お見舞いに来た1人の少女。

まだ幼い、名前は夜空音色。俺の妹。

まだ小学校に入学して半年である。


「音色、今日も来たのか?」

「うん!お兄ちゃんが心配で来ちゃった」


そう笑みをこぼす音色の頭を優しく撫でる。

そして、満面の笑みを浮かべてる音色。

実に愛らしくて可愛い、まるで天使だ。


遅れて、母親が病室に来る。


「七瀬、寝てなくても大丈夫なの?」


母はいつも心配そうに、そう声をかけてくる

俺はいつも決まって返す言葉ある。


「大丈夫だよ」


その言葉がせいっぱいであった。

余命は半年と言われていた、調子が良くて余命を軽く超えていた。

ラッキーなんだろうけど、それなりに複雑な気分―――。



「ゲホッゲホッ…!」



驚く家族と、自分が蒸せて吐いた手の色は赤かった。



「お兄ちゃん!!」

「大丈夫、ゲホゲホ」

「ナースコール呼んだ方がいいな」



窓を見ると外の日差しは異様に眩しく、青いキャンパスに白い線を引くように縦に伸びていく飛行機雲を俺は眺めた。



「この空に響かせる音色、蝉かもしれない。けど、それがいいなぁって感じる日が来るとな」

「お兄ちゃん? 大丈夫?」

「ゲホゲホ―――!!」

「お兄ちゃん!? お母さん、お兄ちゃんが口から血を出したよ!!」



そう呼び声が、聞こえたんだ。

音色の心配そうな顔―――母親が看護師を連れてくるその瞬間まで、俺の目に焼き付けた。


「三浦先生呼んで早く!!」

「はいっ!!」



慌しい光景と声に、意識は薄れて遠くなる―――。

もう何も見えない、聞こえない―――まるで常闇の様だ。


俺は理解した。あぁ、俺は死んだんだ。








――――――――










なにか聞こえないか?っと耳を傾けた。

楽器音が鳴り響く、だが、天使ならこんなハードな曲は引かない。視界は暗いままだ。

天使の迎えなら、ラッパを吹いて白い羽根と金色の輪っかで小さい子が羽ばたきながら舞い降りて連れて逝くイメージしかない。



ドンドン!!



もしかしたら天使はハードな曲が好きなのかもしれない。



ギュァァァァ!!


いや、まてよ。目覚めさせる方法だと思うが激しすぎるだろ!? 耳に響くだろ。



眩い光が放たれる、気が付くと視界は学校の教室。手を動かすして、顔をむにる。



あれ? 生き返った系? 異世界転生、とは違うな。柔らかいし痛い。

しかし髪の毛が長いな。ん? 意味わからんぞ。死んでいたばかりと思っていたから、アレで死んでないとか。いや、死んだはずだ。




いつから学校に居たんだ? 俺、寝ぼけて死に方間違えた? いや、時戻り? 分からん。



俺は背伸びした感じで、背中から後ろに転けた。痛さも感じる、生きてる体だ。



俺は立ち上がり、椅子を起こして再び座る。



いてぇ。いやいやまて、え? 俺なんかやらかしたのか?!



ソワソワし始めてじっとしてられなくなり、椅子から立ち上がり窓辺へと歩く。放課後らしく、部活動で汗を流す学生達。空は黄昏時夕方だ。



学生の頃、見覚えがある光景だな。



そして、教室にあるカレンダーが目に止まる。西暦を見ると、俺は驚いた。



「……へ?」



もう一度見直して口にしてみた。



「二千五十六年?」



自分が生きていた、十年後の世界だった。

さすがに驚く、天使は時を戻したんじゃなくて進ませやがった!!



となるとここは、中学の教室の中となる。

なぜわかるかというと、卒業生だからだ。

苦笑いする俺をよそに、一人の少女が教室に入ってくる。



「あ、起きたんだね?」



胸がでかい子来た。爆乳。ピンク色の髪の毛と水色の瞳の子だ。あれ? どっかで見たことあるような顔である。誰だっけ?

面影が似てる人いるが思い出せない。



まるで顔が白く塗りつぶされてか擦れてる文字の様に――。



俺はとりあえず頷いて言う。


「えーと、俺は誰で君は?」


――――って何聞いてるんだ俺!?

明らかに記憶消失みたいな感じじゃないか!!


当然、目の前の少女はポカンと口開けていた。


俺は必死に次の話を考えた。

だけどこうゆう時、何も思いつかない。

頭を抱えた、ダメだなんも考えられねぇ!

すると少女はクスクスと笑う。


「やだなぁ、まるで男みたいな言い方してるよ?」



ん? だと?

そんな馬鹿な有り得るはずがない!?

性転換でもしたのかと言うのか!?



「な、七瀬ちゃん !?」



俺は慌てて走り、教室を飛び出す。階段にあるでかい鏡の前に立つ。全身を見渡す。



顔は柔らかい、胸は小ぶりだけどある。無愛想な顔で短めの短髪、股にあるものは…?!

股にぶら下がる物はなくて、ツルツルしてた。(感想)



のぉぉぉぉ――――!!!

お、男の勲章ぉぉぉぉがぁぁぁぁ――― !!



列記とした、だった。



「う、うそだぁぁぁぁぁぁ―――!!」


思わず俺は絶叫をあげてしまった。









―――――――









それから数日は経過した、女の子の身体を堪能はしていた。色々と満足だった。


お風呂とかも、色々と見放題。

いや、考えたらただの変態ではないか俺!?


とか思いつつ、意思で動けたのはお風呂やトイレ以外と言う悲しい。それ以外は所有者のこの子の邪魔をしないようにしてるわけだ。



「音色」

「七瀬ちゃん」

「昨日は寝過ごしてごめん」

「へ?」

「寝てたでしょ私?」

「え?う、うん」

「ん? どうしたの?」

「なんでもないよ」



そんな感じで、放課後になり再び俺と入れ替わる。どうやら眠ると持ち主と入れ替わる、俺が寝たらこの子が出てくる。

けど、向こうが意識が強いと強制終了だからな。欲望まみれな男ですみません。



さて、何をしようかなと思ったけど。ぐへへっ――――ん?



何故か机の上には、ベースが一本と手紙が添えられていた。

それを手に取り読む。



「私の体であれこれやるのやめてください。恥ずかしいので。これを見てるって事は、犯人さん誰ですか? あと今日、放課後は軽音部ですから弾けますよね?」



うーん、バレていたようだ。残念。

仕方がない返信書いてやるか、変態な人じゃなくて病気で死んだ人って書いたら引いちゃうかな? ――――。



メモ帳に書いた文をペンをひっかけて閉じた。そして、制服のポケットに入れた。



ベースを見て手に取って見る、全然弾いた事ないのだ。仕方がない、何となくベースを―――。




ギャン―――!!



いや待て、イメージと違う音が放たれたぞ!?頭を軽く描いた、しばし考える。



うーん、わかんないのはわかんないな。



考えが破棄状態でいると、またあの少女が現れていきなり手を掴んだ。



「捕まえた! 行くよ」

「え?!」

「時間なのよ、ほら行くよ七瀬ちゃん!!」

「えっ、ちょっ!? マジかぁぁ―――!!」



俺はベースを右手に持ちながら走った。


と、ゆうわけでいきなり舞台に立ちました。

弾いたことがない、気持ちで弾けばいいのか? っと何度思った事やら。

ちょっと半信半疑、やれるだけやって見る。


「では、始めるよ―――「夏音色」!!」


リズムがいい曲が弾かれ始めた。

そしてボーカルのあの少女が歌い始めた。



女神かよ、可愛いなこいつ。



歌かなり上手くて、見とれそうになる。

とか思っていたらビシッと指をこちらに向けて一言。



「七瀬ちゃん!!弾いて!弾いて!」


やけくそに弾いてみた。



ギュイィィィ!!



何やらロックな音が出た、みんなビクッ! っと反応した。ピックがイマイチ使い方分からない!! まぁいい、周りの楽曲と合わせる感じで弾いてみた。楽曲が数分、見事に崩れた。



「七瀬ちゃん―――音がズレてるより、弾き方間違ってる!!」



その少女が涙目だった、むしろ泣きたいのはこっちだよ。すると、周りにいたメンバーがこう言った。



「音色は、お兄ちゃんの為に考えた曲なんだよな」

「ちょっと!?」

「ブランコだよ、ブランコ」

「ちょっと!! 私はお兄ちゃん好きとかそんなんじゃにゃい」

「舌噛んだ」

「可愛い」

「もー!! みんな今日は意地悪だね!!」


からかい始めるメンバー、これ好きだな俺。

青春ぽくて。



「あとこの曲は、お兄ちゃんが私にくれた曲!! 決していやらしくもなんともないよ。お兄ちゃんは私が幼い内に、亡くなっちゃったから曲を届けるの。空だけど音色なら届くはずだから」



うん?お兄ちゃん? 音色?

しばらく俺は考えた、そして気づいた。

そう、音色は幼い時に見たあの音色だった。



そりゃ、十年後の世界だ。まさかこんな大きくなるなんて。

あ、いや、胸は別の話だからうん。可愛いより美女になったな。とか思い俺は思わず撫でてしまった。



「七瀬ちゃん?」

「え?あ、あはは。ちょっと悲しそうだから」

「な、七瀬ちゃぁぁぁぁん―――!!」

「わ!? いきなり飛びつくな!!?」



音色は、泣きながら飛びついて来た。

周りのメンバーはやれやれという顔である。

まぁ、俺は実に成長したなっと色んな意味で感じている。

その日の放課後は音色が泣いて終わった。



うーん、今日はそれなりに災難だった。







―――――――







次の日の朝、私は制服の中に入ってるメモ帳を開いてみる。


「え?私と同じ名前? しかも十年前に死んだって。どゆことよ」



私はある事がふと思い、音色にスマホかランドアプリを開いてメッセージを書いて飛ばした。



そして、私は身支度して朝食を取る。

今日は味噌汁とご飯と言うシンプルな朝食。

味噌汁をすすりながら、ご飯をかき込む。

洗面所に行き寝癖を取り歯磨きをして口を濯ぎペッと口の含んだ水分を吐いた。


口元を軽く吹いて、カバンを持ち靴を履き鉄ドアのノブを押して言う。


「行ってきます」


まぁ、一人生活してるから「行ってらっしゃい」はないんだけどね。

朝の通学路は、学生で活気づく―――。


この時期としたら、少しばかり人が多いと嫌だけどね。


七瀬は、歩いて学校まで向かい教室で音色と会う。


「七瀬ちゃんランドのこと本当?」

「うん、これ見て」


私は音色にメモ帳を手渡した、それを見るなり音色は目から頬を伝わり落ちる。


「音色?」

「お兄ちゃんが書いた字に似てる」

「そっか」



それが手に持つメモ帳に落ちじんわりと広がり字がぼやけた。

私はそれを見て確信した、間違いなく音色のお兄ちゃんなんだってね。


だけど、なんで私なんだろう?運命のイタズラ?それとも運命的な出会い?っと考えたがどれにも当てはまらない。悪戯にしたらかなり意地悪。どちらしろ、私はただ理不尽な思いしかしてなかったけど。


「ううっお兄ちゃんっ! いきなり血を吐いて死ぬんだもん。ぐずっ」

「音色大丈夫?」

「大丈夫だけど、なんで七瀬ちゃんなんだろう?」


それは私が知りたい、今すぐ離してほしい。


そう思う私は、学校休日にお寺の神主さんに聞いてみた。


「は?私の体に霊がいる?」

「はい、どうにかなりませんか?」

「むり」

「え?」

「君、色々綺麗だもん」

「セクハラですか?」

「あ、いや。煩悩ではなく!?」


その後、私から右ストレートを貰う神主は言うまででもなかった。

色々と探してみたけど、ダメでした。

もう無理です私。脱力系になります。

布団で枕に顔を填めていると、スマホがなった。


「ん? なんだろう?」


私はスマホ画面を開くと音色からだった。

メッセージは"すぐに来て欲しい"って事だった。なんだろう? 音色にしては珍しい。



私は、音色の自宅まで向かった。

路地を一直線に進み、信号機を挟んで左に歩き大きな白いマンションが見える。



そこが音色の家、あと少しだね。

マンションの入口に入り、自動ドアが開きちょっとしたエントランス。一応確認だけど高層タワーマンションだよ。



「確か、五階だよね」


エレベーターの上のマークのボタンを押す。

エレベーターはチンっと音がなり両サイドのドアが開き私は中に乗り込む。



えっと、五階ボタンを押して閉じるボタンをポチっとな。



エレベーターは扉が閉まり、浮遊感を感じさせて十数秒。"五階です"っと機械的な音声が流れて扉が開いて外に出る。


「確か、五百九号室だっけ?」


私は部屋番号を見ながら、順番に進むと音色が住む部屋に目が止まる。

インターホンを鳴らすと、ガチャ!っと音を鳴らして玄関の扉を開けて音色が姿を現す。


「いらっしゃい、さぁ中に入って」

「うん」


「お邪魔します」っと言って中に入る。

少し進んで台所、一枚扉の先にはダイニングあってその隅っこに小さな仏壇があった。

白い髪の毛の男性で、優しい笑みをしている写真が飾られていた。



音色の両親はお兄ちゃんが亡くなって五年後、音色は祖父母に預けられて、両親は観光してる時に交通事故で他界した。辛そうに話す所を笑みを浮かべながら話す音色。

私、知ってそうで知らなかった一面。あぁしてなきゃ、泣いてしまうからかな。




「七瀬ちゃん、これがお兄ちゃんなんだ。優しいそうでしょ?」

「うん」



本心的にはちょっとかっこいいと思った。

そして、音色はある小さな本を手渡された。

「夏色音色」っとタイトル名が書いてあった。



「お兄ちゃんが書いていたんだ、これを弾いてくれる人居ないかなって言ってたから何時も。だから、私は軽音部に入ったんだ」

「お兄ちゃんの為の歌詞じゃないの?」

「うん、私に作ってくれた曲なんだ。今軽音部でいつか弾けたらいいかなって」

「そっか、音色は強いね」

「へ?」

「辛くて私ならできないよ。お兄ちゃんが書いてくれた歌詞を、弾くなんてね」

「まだまだだよ私。強くないもん、お兄ちゃんが死んだあの日からずっと―――」



その時知った、音色の本音―――。

私は知らなかった音色がそんな事を思って軽音部をやって居たなんて―――。









――――――――――








その次の日の夕方、いつものように机にうつ伏せて眠る七瀬。男の方の七瀬が目覚める。

机の上には手紙がまたあった。なんだろう?

それを開き中を見ると、少しばかり驚く。


『私、音色だよお兄ちゃん。まさか七瀬ちゃんに取り付くとかちょっと酷かったかな。ら一応見たり触ったりしたんでしょ?もう、許せない!ぷんぷん!』


苦笑いしかない、とゆうか知っていたのか居たのか妹よ!? 手紙には続きがまだある。


『お兄ちゃんが血を吐いてから色々慌ただしかった。十年後の世界はどうかな? 十年前より進んでないでしょ? ただ、変わったのは私の身長とかだけであまり変わってない。沢山書きたいけど、文字にするのは難しいね。ねぇ、お兄ちゃんも変わってないよね?』


ただただだ、黙ってその文を眺めて見つめる俺。言葉もなく、ただ眺めるだけだ。

一枚目と二枚目の手紙を入れ替える。


『ねぇ、覚えてる?お兄ちゃんが作った曲。"夏色音色"ってタイトル名だけ書いて、盤面は気持ち程度だっだよ。お兄ちゃんが十年前に遺した中途半端な状態だったから、私なりにアレンジして作ってみたよ。えへへ。確か夏の蝉の声以外の音色って、近くにあった学校から聞こえた吹奏楽部の演奏だよね。私、その頃のお兄ちゃんよく覚えてる。なんか楽しそうだったもん。だから、私が歌って見たんだよあの時。凄い喜んでくれたのは今でも鮮明に覚えているよ。だからね、今度は私がお兄ちゃんに音色を奏でてみたいんだって思ったんだよ』



俺は目から涙を流し落とした。歌に続いて奏でてくれる優しい妹に感服。

確かにあの時間帯の夕方。吹奏楽の演奏、時折聞こえていた蝉以外の音色だ。懐しい。



寂しい想いもさせといて、お兄ちゃんの為にって全力で頑張る妹に言葉がつまる。

そして俺は理解する、なんでと同じ名前で女の子だったのかの理由。



妹の奏でる演奏と音色を聴く為に七瀬の身体に憑依する形で―――



兄妹の想いと心残りが導いた、天使の遊戯だったと言うわけである。音色の友達が七瀬で良かったっと思うほどだ。


右手が勝手に動き涙を拭った。


「泣いてる所、悪いね。音色のお兄ちゃん聞こえますか?」


俺に呼びかけているようだ、七瀬の口を借りてこう返す。


「聞こえる。悪かったな、体触って」


視界は左右に動く、七瀬は言った。


「音色のお兄ちゃんは悪くありませんよ、感謝するなら音色にしてあげてね。それと、私の体で遊ばないでください!!」

「あ、あはは。色々ごめんな。すまん色々、恋愛したことなかったからついつい悪知恵が働いた」


そう心の奥底で声が響いた。


「もぅ、どうしてくれるんですか。この気持ち、死んでなかったら違ってただろうに」


七瀬が小さくぼそっと呟いき、教室から出てそのまま音楽室へ歩いて行く。



想いに気づいた頃から俺は召されたように身体の浮遊感を感じていた。そして、七瀬の意識に入り込むことはもう出来ない。



音楽室、軽音部の人達が音色を奏でていた。



「一つ訊いてもいいですか?」

「どうぞ」

「好きな人が亡くなってて、その人が身体を操ってる。それで恋したらそれはどう思いますか?」

「え?」

「あ、いや。これは次の歌詞にしたいだけだから!? だから、参考にしたいです」

「そうだな、報われない恋だとしても。いつかまたその人に出会えるって信じ待つかな」

「へ?!そ、それは待たせ過ぎたら怒られますよね!!」

「まぁそうだろうな。でも、現に音色の未来をこうして見れたから―――不可能なんて文字は無いよ。想いがあれば、いつかそれを結ぶ日が来るはず―――って重すぎるかこれ」

「ううん、重くないかな。私的には、それぐらい想ってくれる方が嬉しいかな」

「なんか嬉しそうだな」

「別にぃ―。あと少しで音楽室ですよ」




楽器が奏でる音色が近くなるほどに、俺という意識が薄れ始めてくる。



「大丈夫ですか?」

「な、何とか」

「扉開けますね」


音楽室の扉を開いたと同時に音色がドンッ!と耳に飛んできた。弾け飛ぶ様な感覚になる。



その伴奏を聞く度に、俺自身がさらに消えそうになる。満足してきてる証拠なのか。



「兄さんまだ逝かないでくださいよ。勝手に消えたら許しませんからね」


「お、おう」っと心の奥で響いた。

七瀬が教室に入ると、衣装に着替えた音色達だ。二次元を感じるような服装を着ていて、音色がパタパタと走り七瀬の前に止まる。


「七瀬ちゃんお兄ちゃんの意識は?」

「あるわよ、気持ち悪い吐息しながらはぁはぁ音色可愛いって言ってるよ。変質者気味よ」

「…おーにーいーちゃーん??」


「おい!?いつから俺がそんなこと言った!!」っと叫びに対して

音色の目線がかなり痛々しいのを感じる。

「理不尽だぁぁぉぁ―――!!」っと叫びが聞こえたそうで、それを聞いていた七瀬はクスッと笑う。


「七瀬ちゃん笑ってる!?これは珍しい!」


はっ!? とする七瀬は、ぷいっと明後日を向いた。滅多に笑わないらしい。照れ隠しだ、しかし音色は隙を与えない。



「七瀬ちゃん―――!! お兄ちゃんを私に頂戴―――!!」

「え?!いや、もう無理っしょ?」

「そんなぁ―――!!しくしく、はっ!? 独り占めするつもりだね!!」

「え?! いや、そんなつもりじゃないわよ!!」

「またまた、顔が歪んでらっしゃるわ。ぷにぷに」

「音色!!」

「きゃぁ!! 七瀬ちゃん怒った、逃げろ!!」

「待ちなさい音色!!」



そんな感じで会話に花を咲かせて―――。


セッティングする、立ち位置はギターとボーカルは音色は中央。左後ろが、七瀬である。

そしてキーボード、ドラムそれぞれの立ち位置に立つ。そして、ドラムの人がバッチを鳴らしながら言う。


「3・2・1―――」


「夏音色」の伴奏が始まる、かなりリズムカルとゆったりした音程で音色が歌い始めた――。


俺が何度も思い描いた絵が、目の前で実現して"音色"が奏でて歌う。

音色、そうだ。俺は君が歌う姿が好きだったんだ。



空色に眺めていた飛んだ飛行機雲、いつも眺めていた世界。そんな時に音色、君が俺に歌ってくれたね。


眺めていた世界は白一色。色がない世界とも言える時にその歌声が生きる希望をくれたんだ。


歌ってる歌詞、俺に向けられた曲。

ありがとう女の子の七瀬、君がいなかったらこんな完成した曲は聞けなかっただろう。


―――音色元気でな。


伴奏が終了して、あたりはすっかり夜。七瀬は、屋上一人で見あげていた。



「お疲れ様っと――。もういないんだよね?」



妙に静か、もう消えたんだろう彼。

私は彼に対して微かに抱いていた思いである。けど、それを明かす訳には行かない。


だって、虚しいし悲しいくなる。

だから思い描かない、彼はこの世に生きてはいないから。儚い恋心を胸の奥にしまうことにする。




音色は軽音部を辞めなかった、想いを歌詞にするまで続けるらしい。

「お兄ちゃんは自分の心と思い出で生き続けるんだ!」っと友達の間でそんな話をしている。



「分からなくもないけど、私もそうしようかな。うん」


星空が散りばめた夏の夜空―――。


彼とまた会えるだろうか、いや、どっかで会えると信じて今日も軽音部は賑やかです。

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夏の空は音色 速水すい @zerosekai

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