第2話
「ーーというわけでアタシからは以上。質問は?」
俺に与えられた異世界での役目。これを完遂するために天使から異世界を生き抜くための知識を叩き込まれた。十分程度の時間で教えられたことは単純だった。
一、死ぬな。
二、女には気をつけろ。
三、剣は手放すな。
あまりにも拍子抜けしてしまう三原則を前にため息をついた。
「質問って言われてもな……、一と二に関してはどの世界でも共通だよな。強いて言うなら、三かな。なんで手放しちゃいけないんだ?」
「ごめんごめん忘れてた。アンタにはまだ剣を渡してなかったね」
念入りに天使の姿を見ても剣などどこにも見当たらない。どこかの青いタヌキのようにポケットからでも出すのだろうか。
天使は指で俺を指し示すと、円を描くように指を回転させた。
「ちょっと痛いかも」
次の瞬間、下腹部に痛みが走った。何か軽くなるような感覚がある。直後痛みは治った。
「いきなりなんだよ、痛えな」
「謝ったでしょ」そう言うと天使は再び俺に指を向ける「腰を見てみ」
指の先を目で追う。
「もしかして、俺の剣か!」
漫画やアニメに登場する勇者が持つような剣が俺の腰にも下げられていた。痛みのせいか気づかなかった。グリップに手をかけて剣を引き抜く。不思議と初めて握る筈の剣なのに手に馴染んでいた。
喜びも束の間だった。
「それがアンタ専用の剣。というよりアンタの一部ね」
使い心地の確認を兼ねて剣を振っていたが、その一言に固まった。少しだけ軽くなった股間に手を伸ばした。触れる直前、天使の弾む声がする。
「ご名答。その剣はアンタのチーー」
ん? よく聞こえなかった。
「コなのよね」
もし俺がこの場面を文字として残すならチの後にダッシュを使用するだろう。しかし、それはきっと読み手にはモザイクのように見えてしまうのではないだろうか。
ふと頭を過ぎる疑問を頭を振り乱し外へと追いやる。本来使うべきことに頭を使用した。
「俺のアレがこの剣になったのか?」
わかりきったことを質問した。
「ええ、そうよ。女神様が選んだあなたが、万が一魔王やその眷属と性行為をしないようにね」
俺は勇者だ。だけど……
「全く信用されてねぇー!」
「当たり前じゃない。女神様はね、アタシたちの世界の男を嫌というほど見てるのよ。性欲に負けて自分の英雄としての素質を捨ててしまう勇者をね」天使は続ける「だからこそ、アンタは期待の星なのよ」
俺の世界では本当の星になってしまったがな、と言おうと思ったがやめた。天使の言葉に水を差すのはよそう。
「期待してるわよ、テクノブレイク勇者」
前言撤回だ。
期待という細やかな二文字を背負った俺は天使の案内により巨大な扉の前に立った。白濁の世界にそびえるそれは天使のスナッチに反応して現れた。
「そろそろお別れね。もし良ければなんだけどーー」
天使の声をかき消すように先に告げた。
「もし俺が世界を救えたら俺の最初の相手になってほしい!」
無茶苦茶だ。そう思う。でも天使の、彼女の赤らめた頬を見て満更でもないのではと思えてきた。すると自分自身も恥ずかしさが込み上げる。
「待って待って、やっぱり付き合うところから……」
「いいよアタシは別に……どっちからでも」
「俺、頑張る! 絶対にこの世界を救ってみせるよ!」
この約束が果たされることはないかもしれない。しかし、門出を迎える俺を鼓舞するにはもってこいの言葉だった。
「君、名前は?」
「ーーだよ」
聞き慣れない名前だった。日本人として産まれた俺には馴染みがない。でもとても綺麗な名前だ。
巨大な門が開かれていく。白く塗りつぶされて見えない扉の先にはどんな光景が広がっているのだろう。
「I'll be back!」
「必ずだぞ!」
ほんの短い時間。一方的な約束。けれど俺は彼女を帰る場所と決めた。
テクノブレイクさせられた童貞が異世界を救う物語(仮) 間宮涼平 @mamiyaryouhei
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