第11話


「馬鹿なやつらだ。」


とグリンは独りごちた。


 グリンは精神感応系の魔術を最も得意としており、自身が発する瘴気を嗅がせることで相手の感情をコントロールすることが出来た。

 魔術をもって第3王子の自警団に潜入し、一定の地位を確立することなどグリンにとっては造作も無いことであった。グリンによる魔術は瘴気を嗅がせる期間が長ければ長いほど、相手を意のままに操ることが出来る。自警団に潜入する中、”彼女”が必死となって探していたシロの消息をつかむことが出来た。


「まさか異世界転移者にやられたとはね……」


 この国の一般的な騎士には遅れを取るような魔族ではなかったのだ。相手が悪かった。


「償いは命でしてもらうよ……。”彼女”の為にも。」


 今回は第3王子率いる自警団を精神感応魔術で狂わせ、異世界転移者討伐へと向かわせた。

 異世界転移者と彼らの実力が釣り合うはずもないことはグリンもわかってはいる。ただ、同族同士殺し合うのに必ず躊躇するはずであり、そこに隙が生まれるとも理解している。


「待っていてね……愛しき君よ……すぐに奴らの首を持って行くからね……!」

 グリンの瞳には愛情とも狂気ともつかぬ感情が宿っていた。



 ウェイア率いる騎士団は城下町にいた。ウェイア達は頭の中に靄がかかったようであった。唯々思考は異世界転移者への怒りで満ちていた。そして怒りの感情を全くコントロール出来ずにいた。グリンが瘴気を放つことで発動した精神感応の魔術により感情を操られていることには、ウェイアを始め誰も気がついていなかった。

 自警団全員が武装する物々しい雰囲気の中、城下町から城へと向かうウェイア達自警団を町人達は見守るしかなかった。


「放蕩王子がよぉ……。ヒック!国の金使って何してんだー!?」


 異様な静けさの中、一人酔客が王子を嘲罵する。


「あぁ……?てめぇ今なんて言った……?」


 ウェイアが音もなく剣を抜き放ち構える。町人達が息を飲む中、酔客は意に介さず続ける。


「おまえみたいのがいるからぁ……。俺の仕事がねーんだっ! 少しは国民に楽させろぁー! ヒッック!」


 悪乗りした他の酔客達もそうだそうだとはやし立てる。


「……そうか。すまねぇことをしたな……。おまえ等仕事を探してるんだってな。この国の王子としてそこに気がつかなかったのには不徳の致すところだ。じゃあ早速なんだがよ。俺等のために仕事をしてくれよ。」


 王子はプサイル等自警団に目配せし、酔客達を縛り上げた。


「なぁにするんだぁ!ヒック!」

「そうだ!そうだ!」


 暴れる酔客達に対してプサイルは満面の笑みで答える。


「いや、なぁに。簡単な仕事だよ。『異世界転移者様―!助けて下さいー!』って必死になって叫ぶ仕事だ。すこし俺等も手伝ってやるからよ……」

「え?手伝うって……あがぁ!」


 酔客達の足に自警団等の剣が突き立てられる。


「あぁぁぁ! 助けてくれぇ!! あぁぁぁ!」

「おいおい! 誰に助けてほしいかが抜けてるぜ……っと」

「あぁぁ!? あぢが! 異世界転移者様!? たずけでくだざい!!!!」


 城下町の広場には、叫び声と自警団達の叫び声が鳴り響いていた。



 今日も今日とて庭掃除。仕事が充実しているぜ……

 ルジャンさんの庭掃除の手伝いを初めてもう2週間が立つ。ルジャンさんが庭の手入れを終えるまで手持ち無沙汰になってるので、最近はミーシャちゃん達メイドの手伝いも始めた。色々運ぶ物が多いみたいで、ゴミ捨てとか寝具を運んだりするのを運送スキルを使って手伝ったりしている。


「ありがとうございます! 寅蔵様!」


 メイドから笑顔で感謝をもらうだけで、世界さえ救えるような気がしてくるんだ。

 俺、ミーシャちゃんのために魔王倒しちゃうわ。チェケラ。


「いえいえ、お礼なんてとんでもないです。自分のスキル上昇のためでもありますから。」

「本当に寅蔵様のおかげでメイド一同助かってます! ……実はメイド達で今度お茶会を開こうと思っているので、是非寅蔵様もいらして下さい!」

「!? 理想郷シャングリラへ寅蔵行きまーす!」

「へ? シャングリラ??」

「いえ、何でもありませんよははは……」

 危うく、ミーシャちゃんに変質者扱いされるところだったわ……。理想郷シャングリラから奈落アビスへと落とされるところだったわ……

 話もそこそこゴミ捨て場についたため、いつも通り異空間コンテナからゴミを出して、ゴミ捨て場にスローインする。ふぅ……。お仕事完了と。一息つくと、息を切らしながら一人のメイドが走ってきた。


「ミーシャ!!」

「フレン? どうしたのそんなに急いで?」

「ウェイア様と自警団が城下町で暴れてるって! 異世界転移者をだせって、人質までとって叫ばせてる!」

「本当に!? なんでそんなことが……」


 自警団が暴れてるってどゆこと!?この前も騎士団に絡まれたばっかだし……。この国の警備体制どないなっとんねーん。ガリウスさん仕事して?


「他の騎士団の方達は!?」

「ガリウス様達騎士団の人たちが、魔物の発生をうけて出払ってるの!あのままじゃだれも抑えられないよ!」


 ガリウスさん仕事してたわ。


「それでは、私が行きましょう。」

「寅蔵さん!? 危険です!」

「私が行かないと被害が広がりそうですからね。」


 強いまなざしで、ミーシャちゃんとフレンちゃんに答える。新しいメイドちゃんにも理想郷シャングリラの布石を打っておく。策士寅蔵です。

「寅蔵さん……。本当に気をつけて下さいね! ウェイア様は放蕩王子ですが、剣の腕だけは確かなんです……」

「ご心配ありがとうございます。戦いにならないことを祈ります。」



……早めにスキルで全裸にするに限るなこりゃ。

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おっさん運転手の日常 涯岸 @Hatekishi

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