米
白川津 中々
■
早朝、腰の曲がった老婆が皺の入った手で櫃米をさらい研ぐ。
すぅ。
しゃっ。しゃっ。
ざぁ……
薄暗い厨は水と米穀の音で満ちる。他には何もない。老婆の呼吸や四肢の軋みや衣擦れも呑まれたように無であり、ひたすらに笊の中で生じる響きばかりが弾ける。まるで老婆の存在などないかのように、一定で等しい奏が続く。
すぅ。
しゃっ。しゃっ。
ざぁ……
米が研がれていく。
一合程しかない米からするすると糠が落ちていき、一粒一粒が白くなっていく。一粒一粒が、
老婆はぴたりと手を止め、自分の頬を触った。肉の少ない窶れた肌に研ぎ汁が滴り、ぽたと床に落ちた。
は、は、は。
老婆の呼吸が聞こえる。まるで生を誇示するかのように息を吸い、吐く。
ぽた。
研ぎ汁が落ちる。米は笊の中で鎮まり、しんと身を寄せている。
すぅ。
しゃっ。しゃっ。
ざぁ……
老婆は再び米を研ぎ始めた。
薄暗い厨に、また音が満ちていく
すぅ。
しゃっ。しゃっ。
ざぁ……
心なしか老婆は怯えているように、その怯えを忘れるように米を研いでいた。影の濃い厨で、ひたすらに。
すぅ。
しゃっ。しゃっ。
ざぁ……
厨に音が満ちる。
まるで、老婆の存在などないかのように。
米 白川津 中々 @taka1212384
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます