白川津 中々

 早朝、腰の曲がった老婆が皺の入った手で櫃米をさらい研ぐ。


 すぅ。


 しゃっ。しゃっ。


 ざぁ……


 薄暗い厨は水と米穀の音で満ちる。他には何もない。老婆の呼吸や四肢の軋みや衣擦れも呑まれたように無であり、ひたすらに笊の中で生じる響きばかりが弾ける。まるで老婆の存在などないかのように、一定で等しい奏が続く。


 すぅ。


 しゃっ。しゃっ。


 ざぁ……


 米が研がれていく。

 一合程しかない米からするすると糠が落ちていき、一粒一粒が白くなっていく。一粒一粒が、髑髏しゃれこうべのように、白くなっていく。


 老婆はぴたりと手を止め、自分の頬を触った。肉の少ない窶れた肌に研ぎ汁が滴り、ぽたと床に落ちた。


 は、は、は。


 老婆の呼吸が聞こえる。まるで生を誇示するかのように息を吸い、吐く。


 ぽた。


 研ぎ汁が落ちる。米は笊の中で鎮まり、しんと身を寄せている。


 すぅ。


 しゃっ。しゃっ。


 ざぁ……


 老婆は再び米を研ぎ始めた。

 薄暗い厨に、また音が満ちていく


 すぅ。


 しゃっ。しゃっ。


 ざぁ……


 心なしか老婆は怯えているように、その怯えを忘れるように米を研いでいた。影の濃い厨で、ひたすらに。


 すぅ。


 しゃっ。しゃっ。


 ざぁ……


 厨に音が満ちる。

 まるで、老婆の存在などないかのように。

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白川津 中々 @taka1212384

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