エピローグ

 外門を出ると、開けた場所に出た。はしには花壇かだんがあり、舗装ほそうされた広場には、赤いバスがたくさんならんでいる。


 迷宮めいきゅうの外に出たんだ!


「ああ、もう、どうなるかと思った!」


「うん。帰れないかもしれないと思った」


「ね! こんなの、遊園地じゃないよね!」


 私はたけしの手をにぎり、出口の看板かんばんを振り返った。ホウキに乗ったザザが、こちらに手を振って、「また来てね!」というき出しがついている。


 お父さんとお母さんは、どこにいるんだろう。いったい、どれほど時間がったんだろう。なんとなく不安になって、私は携帯けいたいを出した。


 未読の不在着信が2件入っている。ちらと時計を見ると、16時55分となっている。日付はここに来た日の日付のままだった。


「うーん、やっぱり変な感じ」


 もっとずっと時間が経っていた気がするのに。


 毅の手をつないだままだと操作そうさしづらい。


「ごめん、ちょっとここにいてね」

「うん」


 私が携帯のロックを解除かいじょしたタイミングで、電話が鳴った。


「お母さん?」


「あんたたち、今、どこにいるの?」

「あ、えっとね、迷路出たとこ」


「電話が繋がらなかったけど」


「うん。なんか、迷宮内が携帯禁止になってたみたいで」

「ええ?」


 お母さん、やっぱり少し驚いたみたいだ。


「変な迷宮だったんだ。でも、大丈夫だいじょうぶ。今、どこ?」


「お父さんと、観覧車かんらんしゃの中」


 上からさがす作戦?


「じゃあ、そっちに行くね」

「わかった」


 電話が切れる。毅がこっちを見てくる。


「どこって?」


「観覧車。私たちを捜そうとしてたのかも。さ、手を繋いで」


 私は毅の手を取って、観覧車のほうへ向かいそうなバスを探してみる。運転手が乗ったバスが何台かあって、その1人が私たちに声をかけてきた。


「どちらへ?」

「観覧車です」


「それでは、移動しましょう」


 私たちはそのバスに乗った。


 バスがゆっくりと動き出す。少し動くと、もう観覧車がまどから見えた。大きな観覧車だから、見つけやすかった。


 お父さんとお母さんは、私たちが着いたとき、入口のところに立っていた。毅は私の手を振りはらい、走っていく。心細かったのは、私も同じだ。私も一緒いっしょに走っていく。


「だいぶ時間かかっちゃった」


「そうみたいね。おなかいたんじゃない? 飲みものは?」


「入口のところでボトルもらったから。でも、何か食べたい」


 まさか1日経っている、なんて言えなかった。そんなこと話したら、たぶんあわてちゃう。


「そこにカフェがあるみたいよ」


 お母さんが指したほうには、ピンクの屋根のかわいらしいお店があった。表には、ソフトドリンク、アイスクリーム、ケーキセット、ワッフル、フランクフルト、軽食、などと書かれた旗がいくつも立っている。白いテーブルとイスが並んでいる。外に出ているテーブルが3つ、中にもいくつかありそうだ。


 私はモナカのアイスを買ってもらう。バニラクリームがあまくておいしい。毅は氷にしたらしい。イチゴのシロップの定番のかき氷だ。


「また来たい?」


 お母さんにかれて、私はちょっと迷う。迷宮はこわかった。でも、楽しかったといえば楽しかった。


「怖かったよ、ここ」


 毅はあまりうれしくなさそうに言った。そのうち大きくなって、友だちと一緒いっしょに来たら楽しいかもしれない。お父さんとお母さんが外で待ってるんじゃなければ、たぶんもっと、気楽に楽しめた気がする。


「まあ、楽しかったけどね」


「毅がもう少し大きくなってからのほうが、よかったか?」


 お父さんは問いかけてくる。


「うーん、友だちと来たほうがいい場所かも」


 おだやかな風が、どこかから若い緑の香りを運んでくる。


「またおいでよ。今度はぼくが案内するよ?」


 そんな声が聞こえた気がした。そういえば、ここのマスコットは3人いたんだっけ。


 不思議な感覚に包まれながら、この迷宮は一生の思い出になりそうだな、と思った。

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ザザとわくわく大迷宮~魔法少女と遊園地~ 桜川 ゆうか @sakuragawa

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