第10章 最後の隠れ場所

 14時前には部屋を出た。かくれる時間が必要だった。


 建物の外へ出て、広い庭を探してみる。生きものたちはすっかりもどってきていた。花には虫が引き寄せられ、木の上の小鳥たちは歌っていた。私はかたぱしから声をかけてみたけれど、聞いてくれていそうな生きものはいなかった。


「うーん、反応がないなぁ」


「どうしよう。1時間しかないのに」


 ザザは魔法使いだ。隠れずに動き回っても、あっという間に見つかってしまいそうだ。


「ザザみたいに変身しないと、見つかっちゃいそうだよね」


「そんなこと、できるわけないよ」


 魔法使いの生きものが見つからなければ。私は心の中でそうつけ足しながら、ほこる花にも話しかけてみるけれど、やはり反応はないみたいだ。


 急がないと。私は庭のうらに行こうと伝える。たぶん、馬小屋に馬がいる。


 案の定、そこには馬たちも戻ってきていた。そういえば、ここの馬はこの前、1頭だけしか反応しなかった。


 私は1番小さい馬のところへ真っすぐ向かった。馬たちは草を食んでいて、私たちなんかどうでもいいみたいに見える。


「どうするの?」


「小さい馬に相談する」


 そして、文字どおり、そうした。馬が笑ったように見えた。


「私の足元にいれば大丈夫だいじょうぶ


 本当に大丈夫だろうか。かえって不安になる。だけど、この馬は前に助けてくれた馬だ。


 たけしは不安そうに私を見てくる。


「本当に大丈夫?」

「信じるしかないよ」


 私は馬の囲いを確認して、そっと中に入る。毅もおそる恐るといった様子で入ってくる。


 首からげた時計を見ると、もう14時近くなっていた。早く隠れないと、間に合わない。


「小さくするので、気をつけてくださいね」


 馬がそう言うのが聞こえた。


 次の瞬間しゅんかん、私は自分の周りのすべてが大きくなったように感じた。毅の姿すがたも消えてしまった。たぶん、相当そうとう小さくなったんだろう。自分の身体がふわふわしている感じさえする。


 私は下へ移動しようとしてみた。そのまま草にりる。たぶん何かの虫にでもなったんじゃないかと思う。


 滅多めったにない経験だけれど、今は隠れておかないといけない。そして、そこにいる馬に食べられない位置にいないといけない。


「毅、端っこにいよう」

「うん」


「しゃべらないほうがいいと思うよ」


 馬に注意されて、私たちはだまっていなければならなかった。


 しばらくすると、ザザが通りかかる。私はハラハラしながらも、すみっこのほうで草に隠れておいた。


 ザザはそのままどこかへ行ってしまった。


 時間はゆっくりと過ぎていく。虫になっていると、なんだか花の香りに引きつけられてしまいそうだった。だけど、出て行けば帰れなくなる危険が増す。


 そのまま退屈たいくつな時間をやり過ごして、私たちは18時になると、元の姿に戻してもらった。


 それから1度、部屋に戻ると、私たちは軽くお菓子かしとお茶をもらう。そして、荷物をまとめて、そのまま出ていく。


「こんな時間に出ていいのかな?」


「知らないけど、いつまでもいるわけにいかないよ」


 ナップザックを背負って、部屋を出る。そのまま1階に降りると、玄関げんかんと反対側に、出口ができていた。


「ねえ、あれ」


「うん」


 不気味な裏庭に出ませんように。ひそかにそう思いながらとびらを抜けると、なぜか外は明るく、そこにはもう、銀色の門があった。

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