第3話  イゴ部に恋は難しくない

「れ、恋愛相談ですか?」


意気揚々に語った加賀美先輩をじっと見つめる。

茶髪にきらきらとした笑顔。そして社交性の高さ。


た、確かにこの人は恋愛経験豊富だろう。


この人以外のも、めちゃめちゃ美人な水樹先輩に、もう輝きすぎて誰かもわからない美河先輩。そして人類以外の相談にもってこいの原木先輩。


この人たちレベル高ぇ....。


「なんか俺のとこだけおかしくないか、新入生」

原木先輩が何かを言っていた気がしたが聞こえないふりをしておいた。


「っていうか、俺、恋愛相談に乗れるほど経験ないんですけど。皆さんのように容姿もそこまでですし、バラキ先輩のように彼女だっていませんし」


「誰がバラキ先輩だ。人を昔荒れまくっていた人みたいに呼ぶな。俺の名前は原木だ」

「失礼、噛みました」

「ちがうな、わざとだ」

「狩りますよ?」

「俺は野生動物ではないぞ佐伯。ってかなんで俺が怒られる側にかわってるんだ?」


うん。意外とこの先輩と仲良くなれそうだ。


・・・リア充じゃなければ。


「と、とりあえず今日は帰りましょうか。明日また部室集合で、その時詳しく話しましょう。佐伯君も」

カリン先輩が立ち上がって窓を閉めに行く。


窓の外はさっきまでの夕焼けではなく薄暗くなっていた。

手伝おうと窓を閉めに行くと、まだ冬なのではないかと思わせるくらいの冷たい風が吹き抜ける。やはりまだこの時期の夜は肌寒い。


本当に俺はこんな部活に入ってしまったのだろうか。いや現実なのではあるが。

スマホの待ち受けに映る時間は6時を指していた。

こんなにも話し込んでいたとは。俺もリア充になれるのだろうか。

せっかくこんな部活に入ったんだ。ならなければならない。マストだ。


部室から出ると、自転車通学である俺と加賀美先輩は置き場に行き、先輩たちは駅のほうに向かっていく。すごいな美河先輩。付き合ってる二人の間に居てもきらきらしてる。なんか怖いわ、あの人。


俺の高校の駐輪場は校舎の裏側にある。部室棟からは歩いて1分くらいといったところだろうか。加賀美先輩は鍵のキーホルダーを回して遊んでいる。


「先輩はなんでこの部活入ったんですか?」

少し気になっていたことを聞く。

「さっき入ったとき何の部活か知らなかったって言っていたんで。先輩も囲碁好きなんですか?」

もし好きなら一局お願いしたい。


「いやそんなことはないんだけどさ」

一言で片付けられてしまった。まあそんな気はしてたけども。


「んー。別にイゴ部って言われてなかったんだよね。俺の時は。っていうか部活ですらなかったしさ。あの部活去年俺と美河先輩でつくった部活なんだよね。あの先輩一年の教室にいきなり入ってきて、『君、俺について来いよ☆』っていわれてさー、そんで急に部活作っちゃってさ、そしたら最初のお客様が原木先輩だったんだよね」

懐かしむように加賀美先輩は上を向いて話す。


初めは美河先輩と加賀美先輩二人だけの部活だったとは。ってか部活ってそんな簡単に作れるのかよ。美河先輩やっぱすげぇ。


「最初の客ってことは原木先輩は客としてきてその後部活に入ったんですね。まあリア充になってからだけど」

俺たちは駐輪場の入り口に着く。


「ま、続きは木原先輩に聞いてみてよー。去年どうやってカリン先輩を落としたかとか。初デートは?とか。ぶっちゃけどこまで進んだの?とか。あ、必要ならボイスレコーダーいる?貸すよ、一回1000円くらいで」

いつもの加賀美先輩の顔に戻っている。まぎれもない悪魔の顔に。


「遠慮しておきます、っていうかあの人動じなさそうな感じなんですけどね」


「まあ木原先輩は素直だからなー」

面白がって笑う先輩は歩いて自分の自転車のところに向かう。


マウンテンバイクにまたがると、先輩はそのまま正門へと漕ぎ出す。


「じゃあな、カイト。また明日の部活で」


「はい、明日も行きます。写真消しといてください」


多分聞こえないふりをするだろうな。あの人は。






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イゴ部でコイゴコロを理解する 越野 来郎 @kukitaman

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