第2話 佐伯君は囲碁をしない
ここは部室棟の一角。部屋の真ん中に広げられた机とソファ。4月だというのに今日は暖かく、夏を感じてしまう。まだ春も来ていないというのに。部屋は閉め切られており、春の風は窓にぶつかっては散っている。仕方なしにキョロキョロと顔を動かせば、あら不思議。まわりに熱い視線を感じている。
いや。熱いのはこの視線、もとい死線のせいであった。さらば高校生活 ー完
「おい、勝手に終わらせるな」
目の前に座っている腕っぷしのいい男が口を開く。
「まあ、まずは自己紹介からかなー。まだ入部生の名前を知らないなんて悲しいからね。とりあえず僕から。2年生
ソファに座らずに立っていた茶髪の加賀美先輩は手を差し伸べる。
ギュ。ん?何かの紙が渡された。メモ帳か何かの。
【写真、あとで一枚プレゼントするね♪】
「俺、せ、先輩と仲良くできる気がします」
「そっかぁー。それはよかったよ!」
にっこりと笑いながらピースまでしている。
ああ。
「俺は
日焼け筋肉ゴリラが隣の女子に顔を向ける。
「こんにちは、慌ただしくてごめんなさいね。3年生の
にっこりとほほ笑む天使がそこにはいた。先のほうが軽くまかれた美しい髪に、服の上からでもあるであろうとわかる胸。そして何よりもモデル顔負けの美顔。
ああ。この部活の天使か、それとも神か。
原木先輩が笑いながら俺の肩に手を置く。
「ちなみに俺の彼女だ」
か、神は死んだ。。。
「か、カリン先輩?なんで猿人に退化しようとしてるんですかぁ!!」
俺は精いっぱいの声で叫んだ。
「あっははっは。原木先輩、人間だって思われてませんよ。新入生にー」
加賀美先輩とカリン先輩が笑っている。
「いいなぁ。やっぱ若いやつがこうじゃないと。しかしまだお前の名前をきいてなかったな、1年よ」
そういえば、まだ名前すら名乗ってなかったのか。仕方あるまい。
「俺の名前は
俺は誠心誠意をこめて頭を下げる。
さっきまで騒がしかった向かい側がスッと静かになる。
ゆっくりと頭を上げる。先輩たちにも真剣さが伝わったのかうつむいたままだった。もう行こうと立ち上がろうとした時だった。
「ふーん。カイトっていうんだお前、いい名前してんじゃん。サイコーにかっこいいぜ。親に感謝しろよ☆」
急に目の前がまぶしくなる。太陽がそこに現れたようなまぶしさを発している。
「おいおい、俺を見るときはサングラスくらいかけねぇと、俺以外見えなくなって失明するぜ☆」
「
ふいに加賀美先輩が声をはる。美河といっただろうか。あの窓の前でポーズを決めていた男か。
「カイトさ、俺はこの部活ってのは確かにお前の好きな囲碁はできないかもしれない。でも俺は女の子相手に全部白星に。全勝することはできるぜ☆」
マジで何言ってるかわからなかった。多分オセロの話だろうか。いや違うな。
でも。俺は....。
「確かに、確かに俺は高校でも囲碁がしたい!でも、でも先輩!」
俺はスッと背を伸ばして立っている美河先輩の前に倒れこむ。
「せ、先輩....。女子にもて・・・たい・・です....」
暖かい光が俺らを包み込む。ああそうだ。この部活に入ろう。
「最悪なシーンですね、原木先輩」
「ああ、これは原作者に怒られたほうがいいな」
瞬く間に心変わりをした俺はなぜか泣いていた。
日が暮れ初めの教室。赤くまぶしい夕日と、黒板の前の太陽の光がぶつかる。
「つーわけで、よろしくなカイト。コイゴコロ部、部長の美河だ☆まあ俺は恋する羊たちを迷わせずに導く係だからさ。詳しいことはカリンとかタケルに聞けよ☆」
慣れていない俺にはサングラス越しに彼を見ている。
バカみたいな光景だった。
「不本意ですが、新入生の佐伯です。コイゴコロを学んでいきたいと思います。
というかほんとにコレなにする部活なんですか?」
俺は率直に質問をする。
原木先輩が首をかしげながら答える。
「お前知らないで部活選んでいたのか。まったく物好きな奴だなあ」
「囲碁部だと勘違いして、しかも部屋に入った瞬間脅されるなんて誰が予想できましたかね」
「恋は予想外というしな」
「やっかましいわー!!!」
「まあ。僕もよくわからないで入ったんだけどね」
加賀美先輩が髪をいじりながら言う。
「うーん。とりあえずこの部活の目的は、さっき美河先輩が言ってた通り。
恋愛相談所さ!!」
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