第4話 扉
次の日、里子が出社すると机の上に、コンビニで買ったスィートポテトと一緒にメモが置かれていた。安達さくらからだった。
昨夜はご迷惑をおかけしました。
思いっきり泣いたら吹っ切れました。
今日から出直しです。
これからも、
合コンにはどんどん参加します。
と書かれていた。
さくらのメイクは今まで以上に気合いが入っており、みなぎるパワーに満ちていた。若いという事はポジティブでもあるのだ。里子の年齢になると立ち直るのにも時間がかかる。だから、臆病にもなるのだ。そして、気を抜いた途端老いという厄介なものが追いかけてくるので常にドタバタと走り続けなければならない。万が一、立ち止まってしまったら、老いの渦に巻き込まれ脱出不可能になる。
安達さくら!
今の君は思いのままの行動、
発言が許される年齢なんだよ。
頑張れ。
とエールを送った。もちろん心の中でだ。すると安達さくらが振り向き、Vサインをして見せた。また、口に出してしまったのかと焦ったが、さくらにもいつかはやって来る老いの先輩からのメッセージだ。
お昼ご飯は安達さくらがご馳走してくれた。前菜からスープ、パスタ、ドルチェとドリンクがついてランチセット千円。とても美味ですぐに客で一杯になるイタリアンのお店だ。さくらの話題は、今夜の合コンのお相手のことで、一方的に喋り続けている。なんでもK医大の卵達だそうだ。必ず、ゲットし結婚というゴールを目指すそうだ。
里子だって、結婚には夢や希望を持っていた事が遠い昔にあった。しかし、里子の時代はまだまだ家事、掃除、育児は女の仕事だった。結婚して初めて絶望したのは、毎日掃除、洗濯、買い物、ご飯作りのルーティンワーク、ただで雇えるお手伝いさんの役割が結婚後に待っていた事だ。初めは好きな人に美味しいとか言ってもらえるだけで嬉しかった。段々とそういった家事が当たり前になり、愛する夫からは感謝の言葉はなくなった。
「飯」
「風呂」
「寝る」
この三つの単語さえあれば事が足りるようになり、里子は「私は家政婦なの?」とある日泣いた。しばらくは、夫も気を使ってくれていたが結局、何もかわらなかった。誕生日も結婚記念日もクリスマスも何にもくれない、何のサプライズもない。里子が得たのは、小川さんの奥さんという呼び名だけであった。でも、結婚は一度はした方がいい。今は女の方が若干強いように思うので、しっかり目を見開き最高に都合のいい男をゲットして、自由な人生を楽しんで欲しいと里子は願わずにはいられない。店を出ると同時にラインの着信が鳴った。
「今日、会ってください」春翔からだ。胸が高鳴ったが、里子にはノーという勇気もイエスという勇気もない。しばらくすると
「俺は里子さんの事が本気で好きです。だれか、他に付き合っている人がいるんだったら正直に言って下さい」これまた直球玉を里子に投げてきた。
里子は遠い昔に置き去りにした感情がフツフツと湧いてくるのがわかった。
私、春翔に恋をしているのだ。
おばちゃんが恋!
全然イケてない。
これ以上深入りしたら駄目。
ちゃんと会って断らなくては。
里子は決意を固めた。大人をからかったら駄目と子供にたしなめるように言うのだ。
「それじゃ、今日会いましょう。何時にどこに行けばいい?」と返事を送った。
「ありがとう。今日は八時に店を上がるので、京橋の緑の窓口に八時十五分くらいで。大丈夫ですか?」と返信してきた。了解のスタンプで里子は応えた。
何も始まってはいないけど、これで春翔とは終わりと里子は呟いた。
お会計を済ませたさくらがお腹をさすりながら満足そうに店から出てきた。
「ご馳走様。今晩頑張ってね」と今しがたのラインのやり取りを悟られ無いように、シワができそうなくらいの笑顔でお礼をいった。鞄の中ではラインの着信を知らせる音が鳴っていたが、さくらに色々詮索されるのが恥ずかしくて、結局昼休みの間に見る事は出来なかった。ラインを開けたのは仕事中に、お手洗いに立った時だ。
「何か作る事って出来ますか?」とラインには書かれていた。
作るって何? 里子は戸惑った。
「何を?」
「料理!」
「何か食べたいの?」
「洋食!」
「了解」と素早く返してしまった。
春翔にしてあげられることが里子にもあるということに喜びを感じてしまったのだ。里子の存在価値のようなものだ。それは子供が美味しそうに里子の作ったご飯を頬張る姿を思い描き、台所に立つ母の気持ちに似ている。里子は春翔がどんな物が好きなのか思案した。でも、作るってどこで? 春翔の家? 油や調味料、フライパン、お皿、まな板に包丁普通は家に揃っているものがあるのだろうか? 春翔が料理をする、もしくはしてくれる人がいれば揃っている。そんな些細な事でさえ、春翔に聞くのが怖くて聞けなかった。里子の心は弾んでいた。会社が終わるや否や京橋駅に向かい近くのスーパーでサラダの材料とドレッシング、本当は調味料が揃っていたら手作りのドレッシングにしたかったが諦めた。合挽き肉に卵、玉ねぎ、牛乳にパン粉、サラダ油に塩胡椒、ソースにケチャップ、デザートにイチゴを買った。
待ち合わせ場所には三十分も前に着いた。里子は昔から人を待たせる事のできない性分で、いつも一番乗りだった。
その昔、コメツキバッタの元彼と枚方パークでデートの日、二時間半も待たされた事があった。正式には三時間だ。なぜなら待ち合わせ時間の三十分前に、里子は指定された場所にいたからだ。初めてのデートでじっとしていられなかったという理由もある。ところが元彼はなんせ時間にルーズな男。里子が待ち合わせ場所に着いた時はまだ夢の中。ようやく布団から起き出したもののデートの事を思い出したのは、随分経ってからだった。履き慣れたジーンズに足を通しながらヨレヨレのTシャツを被り猛ダッシュして、待ち合わせ場所にむかった。遠くの方に里子が見えた。里子も元彼がこの世のものとは思えない形相で走ってくるのを見ていた。ごめん、ごめんと何十回も頭を下げて謝ってきた。はっきり言って周りの視線ばかりが気になって恥ずかしくて仕方がなかったので「私も今来たところ」と嘘をついた。きっと浮気がバレた時もこんな感じで謝ったんだろうな、あいつ。そんな事を道行く人を見ながら思いだしていた。
「ごめん、遅れる」春翔からのラインだ。
「気にしないで、仕事に専念して」とかえした。
里子はじっとしていても仕方がないので、買物袋を下げたまま京橋を探索することにした。里子の家は京阪沿線で、京橋はJRに乗り換える時に通るぐらいである。ディープ界隈には、足を踏み入れたことがなかった。寒空の下、腰のあたりまでスリットの入ったチャイナドレスに本物かどうかはわからないが、毛皮を羽織った若い女の子達がスーツ姿の男性達に声をかけていた。少し離れた所には黒子というか見張り役の男が立っていた。ここには、居酒屋や立ち飲み屋、焼肉屋がところ狭しと立ち並び、なんとパチンコ屋もある。店内だけでは狭すぎるのか歩行者の通るところにまで机とイスを置いている。客も慣れたもので好きな所に座り各々ビールや焼酎、アテを頼み会話とお酒を楽しんでいる。少し路地に入った所にある暗い店内を覗くと喫茶店なのか、この場所には似つかわしくない小学生の男の子がカウンターに座っていた。この辺り一帯は大人の領域という認識があったので、とても違和感を感じた。角度を変えてもう一度見ると母親らしいき女がいた。タバコと瓶ビールを飲みながら、男の子が食べるオムライスをじっと眺めていた。時折話しかける女に対して、男の子は食べる手を止めて笑顔を見せていた。きっと女も笑っているに違いない。女の服装から夜の仕事をしているのだろうと里子は察した。これから、母親のいない家で一人眠ることに男の子はどのような思いでいるのだろうか。寂しくて、怖くて、泣いても誰もいない。いつしか眠りに落ち、朝、横を見るとお母さんが寝ている。その姿を見て安堵するのか。そんな毎日を過ごし、やがて大人になる。怖い夜はやがて楽しい大人の夜になるのか。里子の知らない生き方があった。見上げると京阪電車の方には背の高いビルやホテルがキラキラと輝いていた。きっと向こうの世界からは、今里子がいる世界は見えないだろう。歩いて五分ほどの距離しかないのに全く違う世界なのだ。太陽と月だと里子は思った。
「ほんとごめん」
「九時過ぎる」
「お腹すいた?」
「なんか食べに行こう!」と切れ切れにラインが入った。
「気にしなくていいから。
材料は買ったから作るよ。
お客様優先で慌てなくていいから」と送った。
「ほんと! 嬉しい。家の住所送るから近くまで来れる?」と返してきた
了解のスタンプで返事をした。
送られてきた住所をナビウォークというアプリに入力した。今は昔と違ってスマホさえあれば、何処へだって連れて行ってくれる。買い物だって、振込だって、なんだってできる時代になったのだ。しかし、そんな便利なスマホを里子たちの年齢は悪戦苦闘して使っている。その現実を春翔は知っているのだろうか。子供たちのような早業は里子達の世代は持ち合わせていない。まずは、老眼鏡を取り出す作業からだ。こんな些細なことでも歳を重ねると違ってくるのだ。当たり前だが里子だって、春翔の年齢の時は老いがどういった物なのか想像もしていなかった。
ナビによるとディープ界隈を通り過ぎ、国道一号線を横断となっていた。里子はナビの指示通り春翔の家を目指した。あれだけ賑やかだった街が急に静まりかえり暗い街に変わった。この辺りは里子の住んでいる所とは全く違う。庭がないどころか家と家の隙間はなく犇めき合っている。古いアパートや最新のワンルームマンション、昭和なラブホテルもあった。かと思うと高層のいかにも高そうなマンションも有りで様々な時代が混在していた。幾つか角を曲がり、春翔の住む古いワンルームマンションの下に着いた。同じようなマンションが隙間なしに建っている。
「着きました」と春翔にラインを入れた。
「もうすぐ着く」と返ってきた。
里子はできるだけ自然に振る舞えるようにと願った。春翔が自転車に乗って帰ってくるのが見えた。春翔の目は里子だけを見つめていた。
「待たせてごめん」
そう言って里子の顔を覗いた。まるで子供がお母さんに許しを乞う時のように。ただ、子供は思いっきり頭を上にあげて下から覗くが、春翔は上から出来るだけ頭を下げて覗いている。そして、春翔が言った。
「部屋狭い。散らかってる。片付けるから五分だけ待って」
毎日のように片付ける涼の部屋を想像した。
「気にしなくていいよ」
「男の部屋やで待ってて。部屋は五〇七号室だから」と言ったかと思うと、もうそこには春翔はいなかった。
今頃になって、春翔は子供ではなく大人であり、今から里子が行くのは男の部屋なんだということを認識した。なんて大胆な事を私はしているんだろうと急に胸の鼓動が高鳴り張り裂けそうになった。
「いいよ。上がってきて」
里子はまるで操り人形のような足取りでマンションの階段を一段一段確認をするようにのぼっていった。春翔の住む家は昭和な建物を壁や床をリフォームして見栄え良くしていた。エレベーターはなかった。部屋の扉は昔の団地についていた新聞受けと一体型になっているタイプだ。部屋からは色んな音が聞こえ、色んな生活の匂いがした。扉の向こうではそれぞれが生活をして生きている。
五〇七号室。里子は扉の前に立った。この中に入ったら、もう後戻りは出来ないかもしれない。夫と離婚してからは子供のためだけに必死で働いてきた。子供にご飯を作り、居心地の良い環境を作る努力をしてきた。ここにきて、子供はいつか親元を離れ、自分は一人ぼっちになるんだということに気づいている。そして、子供のためとか言っておきながら、実は里子自身の価値と存在感のためにもがいていた事にも気づいている。
五十四才という年齢は確実に乙女ではない。
浮かれていてはならない。
地に足をつけていなければならない。
人生の見本でなければならない。
何をするにも理由がいる。
今の里子の行動は春翔が洋食を作って欲しいと言ったから、ここにいるのが理由なのだ。里子は自ら扉を開ける勇気がなくノックをした。春翔が扉を開けた。里子は自分の意思で足を進ませ、春翔のプライベートな領域にその瞬間、踏み入れたのだ。
さっきは暗くて気づかなかったのだが、春翔の顔からは随分と疲れが見た。一生懸命仕事をしてきた春翔に、ほんの一瞬でも安らぎをあげたいと思った。昔、里子の仕事の疲れは、幼い涼の笑顔が癒してくれた事を思い出す。実際に疲れが吹っ飛んだわけではないが愛する人の存在はとてつもなく大きな力になるのだ。
「先にシャワーを浴びてきていい?」
「うん。その間にご飯作るね」
と夫婦のような、いや親子のような会話をした。
部屋の家具はベットとテレビだけ、突っ張り棒に服がランダムにかけられていた。キッチンは一口コンロが一つあるのみで料理するスペースすら無い。包丁はあった。しかし、料理をした形跡はなく、まな板は未だ袋にはいったままだった。油も調味料も何も無い。あるのはフライパンだけ。この部屋には女の形跡が全く無い。部屋の床にはワインの本が所狭しと置いてあった。窓が一つあった。カーテンを開けてみると見えたのは隣のマンションの壁。ここは春翔がただ寝るだけの部屋であって、安らぎを与えてくれる部屋ではなかった。朝陽のあたることのない、ただの寝ぐらなのだ。
里子はベビーリーフにトマトそしてアボガドをさいの目に切ってお皿に盛り付けた。ハンバーグを作るための材料を手際よく下ごしらえして、フライパンに買ってきたサラダ油をひき、こねたハンバーグを焼き始めた。するとたちまち肉の焼ける匂いが部屋中に立ち込めた。
春翔がシャワーを終えバスタオルを腰に巻いて出てきた。一瞬、春翔と目が合ったが、恥ずかしくてフライパンに目をおとした。すると、春翔が後ろから里子の肩を抱いてきた。一人息子の涼も幼い時、里子が台所に立つと必ず後ろから足にしがみついてきて、下から里子の顔をのぞいていた。涼の身長は一〇〇センチ。春翔は里子が見上げないと顔を見ることができない。一八〇センチはあるだろう。里子の手が止まった。
「駄目?」と甘えた声で言ってきた。
「もうすぐ出来るから」と春翔がそれ以上の行動に突き進むのを心のどこかで期待しながらもいまは阻止した。春翔の視線を背中に感じながらハンバーグの焼けるのを待った。とてつもなく長い時間に感じられた。
春翔はとてもお腹が空いていたようで、サラダもハンバーグも一気に平らげてしまった。途中で発した言葉は「アボガドって栄養あるんですよね」だった。春翔が栄養バランスを考えた食生活をしているようには思えなかったので、里子はおかしくなって笑った。何がおかしいのか春翔が聞いてきたけど何でも無いとだけ答え、食べ終えた食器を片付けた。
その間、春翔は日曜の朝に放映しているナイナイの旅猿の録画を見ていた。沖縄がロケ地だった。
「里子さん、沖縄に行ったことある?」
「ないよ。春翔くんは? 私、旅行自体がほとんど行った事がないのよ。つまんない人生だなって思うことがある」
「俺も実はないんだ。いつか一緒に行こう」
「…」
「でも、俺、ソレイユの他に仕事をしてるから、正月以外は何年も休みを取ってないんだよな」
「なんで?」
「ワインの勉強をするためにフランスに行くからお金がいるんだ」
里子にはワインの事はわからないが、春翔には何か大きな夢がある事だけはなんとなくわかった。
春翔の部屋に来て、涼がいかに甘ったれた生活をしているのかを思い知らされた気がした。里子がそうさせてしまったのだから涼のせいではない。涼が家を出る時はおそらく、結婚する時だろう。涼は春翔のように一人で、がむしゃらに何かをした事があったのだろうか? 目標ややりたい事があるのだろうか? 涼とは違い、春翔は一人で生きているのだ。
「おいで」
春翔が両手を広げてきた。扉を開けた時から、里子は拒めないことはわかっていた。「大人をからかっては駄目」なんて言う事はもはや出来ない。今日だけは、自分の感情に素直に従いたい。そう思った。細くキャシャな体だと思っていたが春翔の胸は広く、里子をスポッリと包み込んだ。ジグゾーパズルの最後のピースがはまるように、初めからそこが里子の居場所だったような居心地の良さがあった。春翔は優しく里子にキスをした。その時、里子はどこかで春翔とこうなる事を望んでいたんだと自覚した。しかし、世間一般には十九の年の差はカップルには見られない。それは親子でもおかしくはない年齢の差だからだ。
「春翔くん、どう見たって私たち親子だよ。こんな事してほんとにいいの?」
「年の差なんて気にしなくていい。里子はいや? 嫌ならしないよ」
里子と呼び捨てだった。その呼び方がひどく里子には心地よかった。ついさっきまで、春翔は里子さんと呼んでいた。友達は里子と呼び、元彼も里子と呼び捨てだった。元彼の友達や叔父叔母は里子ちゃんだ。さんはどこかよそよそしく時に年の差を感じさせる呼び方だった。
里子は言い訳をするのをやめて、春翔のキスを全身で受け入れた。それは里子を切なく苦しく愛おしくさせた。それぞれの一途な思いが、探し求めていた安らぎが、行き着くところを探し当てて重なりあった。春翔は子供が愛を乞うように里子を求め、里子は全身で春翔を受け入れた。その瞬間、嗚咽と共に涙が頬を伝っていた。
どれくらい眠っていたのだろう。暗闇の中に春翔の寝息が里子のすぐ横から聞こえた。ついさっき、里子は春翔に抱かれながら夢をみていた事を思い出した。生まれたばかりの赤ん坊を若い里子が抱いて泣いていた。嬉しくて泣いているのか、悲しくて泣いているのかわからない。ただ、赤ん坊は今の春翔のように無防備にスヤスヤと里子の腕の中で寝ていた。ただ、それだけの夢。
里子は春翔を起こさないように、腕の中をまるで知恵の輪を外すようにそっとすり抜けた。服を手探りでさがし、素の里子の体に服を着せ、春翔を起こさないように音を立てずに部屋を後にした。
里子は数時間前に通った同じ道を色んな思いを胸に抱いて歩いた。春翔が熱く語った未来は、里子の知らない世界のもので、里子の手が届かない遠い所にあるようで怖かった。ただ、春翔はその目標のために、長い年月を費やしている事だけは充分伝わってきた。春翔の中で、里子がどれほどの部分を占領しているかはわからないが、春翔の邪魔になるような事だけはしてはいけない。春翔が別れを告げた時は、笑顔で応じなければいけない。それは一年後かもしれないし、十年後かもしれない。もしかすると明日かもしれない。春翔にとって里子はちょっとしたスパイス、有っても無くてもいい存在だけど有れば少し笑顔になれる、そんな存在で充分なのだ。
陽の当たらないただの寝ぐら
ここから、
どこまで登り詰める事が出来るのか
何かの自分と闘い
何かを掴み取ろうとしている
春翔の熱い情熱
もがき苦しんだ日々が
春翔の大切な思い出になり財産になる
その先にある春翔が思い描く
その場所に必ず辿り着く
願わくは素敵な家庭を持ち
疲れ切った体を
春翔の愛する人が優しく包み
春翔が幸せそうな顔をして笑う
そのまま眠りにつく
次の朝は春翔が愛する人の入れた
コーヒーの香りと
朝の陽の光で目覚める
そんな春翔の幸せを見届けたい
いつか
脚光を浴び
とても満足気に笑う春翔でいて欲しい
春翔は私の自慢の人に必ずなる
大きな舞台で輝く人に必ずなる
二十年後の春翔はどんな感じだろう
二十年後の私は
この世に生きているのだろうか
もし、十九才の里子が子供を生んでいたら春翔と同じ年齢だ。春翔との出会いは偶然ではなく必然であったのではとふと思った。あの時のことは、全て封印して生きて来た里子。でも、春翔はずっと探し続けていたのではないのか。愛おしい。春翔に対する気持ちは愛おしいという気持ち以外には思い浮かばなかった。
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