口福への5m

口福への5m

「ただいまー。」

夜、会社から帰宅して玄関を開けると、ピチピチという音と家中油の匂いが充満している。

今日は揚げ物だ！

オレは心の中で歓声を上げた。

今日は取引先との交渉が長引いた為、昼食を食いっぱぐれたオレは腹ペコで倒れそうだ。

いそいそと靴を脱ぎながら、心が踊る。

何の揚げ物だろう。

リビングに通じる廊下を歩みつつ考えてみる。

鶏の唐揚げか？いや、唐揚げは先週食べたし、醤油の匂いがしないので違うだろう。

では、フライか。

今日は魚の特売日だから魚のフライかも。

鰯のフライ最近食べてないなぁ。

鰯は煮魚でもいいけど、やっぱりフライが旨いよな。

白身魚のフライもいい。

ウチの妻のタルタルソースは手作りで卵がゴロゴロ入ってて好きなんだよなぁ。

エビ、イカ、カキなんかの魚介のフライもいいな。

プリプリな歯応えがいい。

ソースでもタルタルソースでもシンプルにレモンでもいいなぁ。

いやいや、魚っぽい匂いがしないからやっぱり肉か。

チキンカツは鶏胸で作るから大きくて淡白ながらもボリュームがあるんだよなぁ。あぁ。ガブッとかぶり付きたい！

あと。この間、ササミ肉に梅とシソを巻いて揚げてたな。あれもさっぱりしていてたくさん食べられた。

コロッケ、ミンチカツもあるな。

でも、あれは手間が掛かるってあまり作ってくれないんだよな。今日は平日だし。

あっ、スーパーで成形したものを買ってきてたらそれもありか。

あと、そう、フライと言ったらトンカツだ！

サクッと衣を噛むと出てくるジュワっと出てくる脂。最高だ。

あれこそ揚げ物の王様だ！

あぁ、ヨダレが出てくる。

いや、待て、まだトンカツだと決まった訳じゃない。

落ち着けオレ。早とちりはいけない。

―――はっ、つい思考にのめり込んで、リビングのドアの前で立ち止まってしまっていた。

さぁ、答え合わせの時間だ。

いざリビングのドアを開けよう。

ガチャ

ドアを開けると妻が笑顔で出迎えてくれる。

「おかえりなさい。今日はトンカツよ。」

キターーーーーーーーーーーーーーー！！

オレは手を胸に組んで天に祈った。

「神様、ありがとう！」

オレの大袈裟な態度に、妻はため息を付きく。

「もう、神様じゃなくて、お礼を言うのは妻（わたし）にでしょ？ほら、冷めちゃう。早く着替えて手を洗って来て！」

妻の呆れ顔を気にも留めず、オレは急いで洗面所に向かった。

トンカツがオレを待っている！