第10話 気

 「格闘技道場で理屈っぽいのも野暮ですが。承知の上で聞いてください」

鏡は真剣な面持ちで話始める。

「人体は生まれながらに気を持っています。頭の天から足の指先まで、その体には神経が張り巡らされています。では血流を通せば人は動くか、神経を通せば人は動くか、骨格があれば筋肉があれば人は動くか。そう考えると、それだけで人が活動することは出来ません。物が活動するには外部からエネルギー、電気や熱を取り入れて、形作る物質を連動させ動かさなければなりません。私は人間の内部に生成可能な動力があることを学びました。それは気です。それを生み出す運動は我々が常に出し続けている呼吸です」

鏡は大きく息を三回吐き掌を前島の右腕の関節においた。触れてはいないほどの距離で静かに。

 前島は自然と目を瞑っていた。何故かわからないが、気を出している鏡圭一の力を感じようとした。その当てられた右腕は、数日前柔術家大滝恭二に腕ひしぎ逆十字固めを仕掛けられた箇所だった。キーロックというプロレス技で返したが、腕ひしぎは不完全ながらも入っていた。その一瞬の攻防ではあったが前島の右腕の筋はダメージを受けていたのである。

30秒ほど鏡が負傷した場所に手を当てると、先程の痛みが消えたように感じたのである。何故だかはわからない。瞬時に回復する痛みではないのは自身がよくわかっており、次の試合まで完治はできないと腹を括っていたのだが。。前島が不思議そうに腕を動かすと

「信じられないかもしれませんが、前島さんご自身の自然治癒力をお借りしました。これは気の力です。気は人間だれしも自身で生み出すことができ、筋肉を活性化させ、また修行により治癒ができます」

前島は痛みがあった具合を思い出そうとしていたが、思い出せないほど痛みは消えていた。

「今日は何も前島さんに、今のような気を教えようとは思っていません。安心してください。実はこの気を生成する場所が、格闘技に於いても重要なので知ってほしいのです」

続けて鏡圭一は話した。

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カーニバルレスリング 田中鯱 @shinpeiday

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