第9話 蝶
いつの間にか自分の胸板あたりに鏡の側頭部がピタリと吸い付いていた。脇を刺されて引きつけられるとあとは足をかけられ倒されてしまう。前島は腰を落とし、脇の間にすこしでも指先が入れられる隙間を探した。わずかに脇の間に数センチ程度の空間があるのを見つけ指さきからねじこむ。ねじ込まれて差し返される前に鏡はすぐ次の動きを実行した。下半身の片足タックルのような形に攻め方を切り替える。腰を切りこらえる前だった。
瞬間足をすくわれ、そのまま倒された。下になると何か非常に強い力で押さえつけられたような感覚になり身体が上下左右動かなくなる。手足は動かせるが、ブリッジなど腰を軸にした運動が全く出来なかった。一瞬上になった鏡の様子を見えた。鏡は片手の手のひらだけで下になった前島を押さえ込んでいた。
スパーリングが終わり。お互い決め技のないまま終了したのだが、前島はなんとも不甲斐ない五分間であった。まさかプロレスラー得意の裸の乱取りで1本は取れず。一度も優勢な形をえることができなかった。柔術ならまだしも。。こんなことで次の試合に勝てるだろうか。前島に不安が襲う。
鏡が話しはじめた。
「汗は武器です。裸ではなかなか極まりませんね」
「鏡先生。。」
前島は一言聞かなければならないことがある。
「先生に抑えられ、動くことが出来ませんでした。なにか、こう、体全体の自由がきかなくなり、例えるなら昆虫標本の蝶になった感じです。針で刺されたように身動きが取れませんでした」
鏡は微笑む、この前島の言葉を期待していたのだ。この動きを実体感させるため裸のスパーリングを申し出たのであった。
「実は、私はある体の部位を意識し押さえ込んだのです。古来から伝わるいわゆる術です。その部分は人間の中心です。前島さんにそれを教えたいと思います。関節などの技術はこれまでの鍛錬と本能が発揮されればいくらでも試合での勝機はありますから、私が今日教えるのはギを武器として身を守る柔術ではなく。相手がどんな状態であろうと制することができる剛の柔術といえます」
鏡は前島を自身の前に座禅を組ませるとゆっくりと話し始めた。
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