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第5話 NINE LIVES

 ストーロボーリを出発して2日。僕はセルフィーから紹介された、アンジと言う名のダークエルフに、双剣そうけんの稽古をつけてもらいながら南の森に向かっている。


 南の森、そこにはと呼ばれる土地があり、メネシー城の城主がその土地を統治している。エリーゼのいる北の山、そこを統治する、北の大地のルシエールさんと同じだ。

 以前、フェイレイから聞いてはいが、南の森にも魔女がいる。エリーゼやセルフィーのような存在だ。

 ただ、問題が一つ。ここの魔女、名前をガージル。年齢はエリーゼと同じ。趣味はBL全般。ひどくヤンデいるそうだ。その…。いわゆる…。ヤンデレ的な?

 なぜそんな事を僕が知っているかって? だって南の森の魔女とは、アンジのお姉さんなのである。ところで、エリーゼって何歳なんだ? それと、BL全般って? 全般の意味がわからない。



「いんやー! 颯太様の剣術の習得は早いですんなー! センスがすんばらしいですー!」

 アンジは能天気というか、マイペースに。それでいて熱く語りかけてくる。それはそうと、アンジはなんで東北弁? しかもバリバリ中途半端ですよね? ダニエル・カールの方が流暢な東北弁だぞ? あれ? 山形弁だったかな?


「そうかな? アンジの教え方がうまいんだよ。ありがとう。」

「いんやー! 謙遜するでね、颯太様ー! こりゃ、ガージル姉さんもおんどろぐぞー!」

 楽しそうですね、アンジさん…。


 そうそう、今回の旅にバグエは来ていない。勿論ヤシタもだ。それは、ルシエールさんから「一緒に旅なんて! そういう事は婚儀の後ですよ!」というダメだしをもらったからである。

 ちなみにその一言で、バグエは泣き崩れていた。ごめんねバグエ。


 したがって、今回のメンバーはアンジ・乾闥婆かんだっぱ王様・僕の3人だ。ちなみにリンファは今回はお留守番。そしてフェイレイはいつでも僕と一緒なので、あらためて人数には入れない。


「ところでアンジ。メネシー城の城主ってどういう人?」

「オラの婆ちゃんだ!」

 またもや能天気な口調で話す。

「身内かよ!?」

「んだ。なぜかオラだけ魔法が使えなぐてなー。それで、メニッツの町はずれの村で、オラは自警団をしてたんだー。」

「そうなんだ…。」

 てか、そんな事まで聞いてませんよ? 本当に調子が狂うな…。この、おっとりとした性格であの強さだもんな。これで魔法も使えたら、ダークエルフってこの世界で一番強いんじゃないのかな?


「颯太様? 話しの続きをしてもよいですかー?」

「え? うん、いいよ。」

 まだあるのかよ…。


「その町はずれの村がなー。本もねぇし? あがりもねえし? 馬車なんて1日一度きりでなー。もうこんな村嫌だー! うて、北の大地に来たんさー。」

「なにそれ? めちゃくちゃ中途半端なよし幾三いくぞうだな。」

「なんだ? 行ぐぞって、どこ行ぐだ?」

「いや、何でも無い…。」


 セルフィーの言っていた事がようやくわかった。中途半端ってそういうことか…。



 そして、僕たちはメニッツの町に到着した。


 この街に入り、僕たちはまず食事をとる。それは乾闥婆様が「メニッツに入ったら何よりも先に食事だぞ! わかったな! 」と言ったからだ。



「乾闥婆様、起きてください。メニッツに着きましたよ。」

 あーめんどくさい。まったく…。ずっと寝ているだけのくせに…。着いたから別行動にしちゃおうかな…。時間に余裕も無いしな。

 うん。そうしよう!

「アンジ、あとは任せた。」


 僕は乾闥婆様をアンジに任せ、その場から逃げるように去った。そんな僕に、アンジは何かを叫んでいた。ちょっと急ぐので、ごめんねアンジ。




 僕はアンジと別れ、遊歩道を城に向かい歩いた。先ずは情報収集だな。この土地を統治する、アンジのお婆さんに挨拶だ。

 それにしても、人がいないな。ヒューマンどころか、人影すら無い。もしかして猫族が多いらしいから、僕を警戒しているのか?

 そんな中、一軒のお店を見つけた。薬屋だろうか? 店内には人影がない。とりあえず入るか。


「こんにちは。」

 誰もいない?

「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」

 相変わらず返事は無い。てか、いますよね? バリバリ気配は感じていますが?

「しかたがない、城に行くか…。」


 僕は薬屋を出て、城に向かった。最初の角を右に曲がると、後ろから気配を感じる。僕の跡を来ている。どうやら先ほどの薬屋からなので、自警団では無さそうだ。何となく、この気配はただ者ではない。という事はわかるけど。


(フェイレイ。この気配は…。)

(主よ。主のあとをつけているのはガージルだ。)


「ガージル? 何で?」

「えへへへ。よくわかったね。ガージルだよ。颯太でしょ?」


 その声に振り向くと。バグエのような白銀色はくぎんしょくで長い髪の女の子? 背丈は僕の胸ぐらい。厚底の編み上げブーツをはいているので、実際はもっと小さい。


「ええ。颯太です。」

「えへへへ。ガージルだよ。」

「はい、先ほど聞きました。」

「颯太でしょ? ガージルだよ。」

「はい。颯太です。」

 何これ? 芦田あしだ愛菜まなだよ。的なあれ?


「こっちだよ、颯太。」

「どこに行くんですか?」

「ガージルのおうちだよ。」


 は? 何でガージルさんのお宅へ?


「あの、ガージルさん? 先にこの土地を統括されている方に、ご挨拶をしたいのですが。」

「うん、そうだね。行こうか颯太。こっちだよ、一緒に行こうね。えへへへへ。」


 何でいちいち笑うの? えへへ…って。リアルに言う人を初めて見たんだけど。

 それにガージルさん…。目がおよいでいるけど、何か企んでいるのかな…。


「ねえ颯太? あそこでお茶しない? あそこのお店にね、好きな人をとりこにできるお茶があるの。」

「えっと、ガージルさん? 先に城主じょうしゅにお会いしたいのですが…。」

「そうだね。そうだよね。それじゃ、私のお家に行く前に行こうね。えへへへ。」


 やっべ! やっべ! マジやっべ!

「フェイレイ!」

「私はガージルだよ。えへへへ。」

「違くて! そうじゃなくて!」


(オイ! フェイレイ! 出てこい!)

(すまん主よ。持病の腰痛が…。)


「嘘をつくな!」

「嘘じゃないよ颯太。ガージルだよ…。大きな声を出したら怖いよ…。えへへへ。」

「す、すみませんガージルさん。今のは違くて。」


 怖いと言いながら何故、最後に笑うのですか?




 その頃、アンジと乾闥婆かんだっぱ王は、この町のバー? 居酒屋? 的な場所で食事をしていた。


「アンジ様でねぇの? どしたの?」

「おお! 久しぶりだんなー! いんやぁ颯太様がぁ、セーシェの婆ちゃんに挨拶したいんだと。」

「あんら! さっきいたイケメンが颯太様かえ? アンジ様、はよ言えやぁ! おーい! みんなぁ! さっきのイケメンは颯太様だってよぉー!」


 ウェイトレスの一言で、店内にいたお客から店員までもが、我先にと、お店を出て行った。


「えっと…。アンジ君?」

「はい。」

「食事できないよね? 厨房がもぬけのカラだよね?」

「みんなぁ、いなぐなっちゃいましたね…。」


 その時、空間が歪み、何かが現れた。


「乾闥婆、交代だ。天界へ帰れ。」

 強面こわもてのオジサマの登場。


「夜叉!?」

 驚く乾闥婆王。


「早く帰れ乾闥婆。俺にも普通飯ふつうめしを食わせろ!」

「ああ…。わかった…。残念だ…。また地獄の回鍋肉ホイコーロー生活か…。」


 そう言って乾闥婆王は消えた。


「ところでおぬし、名前は?」

 突然現れた夜叉王やしゃおうに緊張を隠しきれないアンジが答える。

「アンジです。」

「アンジよ。颯太はどこだ?」

「多分、セーシェの婆ちゃんのとこだと思いますぅ。」

「そうか、ありがとうアンジ。」

 そう言って夜叉王は消えた。


「こっわー! あれが神様かぇ〜。」


「おい貴様!」

「うぅわっ! アリゼー様でねぇですかい!」

「颯太さんはどこだ! 1秒以内に言え!」

「そんなぁ、1秒過ぎちゃいましたよ…。」

「早く言え!!」

「ババババ婆ちゃんに挨拶してから、多分、っちゃんで、お泊りすると思いますぅ。」


 アンジへの尋問が終わると、アリゼーはその場から消えた。


「アリゼー様こっわー! でも、えっれーべっぴんさんだなぁー!」





 一方、颯太とガージルは、メネシー城の城主。セーシェと対面していた。


「初めまして颯太殿。北の大地から、我が南の草原へようこそ。そろそろ到着する頃かと思い、ガージルに迎えに行かせたのですよ。」

「そうでしたか、ご丁寧にありがとうございます。」

 てか、ガージルさん。貴女の登場はお迎えではなかったですよね?


「早速ですが、颯太殿。セルフィーから、おおよその事は聞きました。ヒューマンの集落へ行きたいそうですね?」

「ええ。この南の草原の近くにあると、お聞きいたしましたが。」

「そうですね、いかにも近所です。メニッツから東に続く、街道の先です。ですが、今は颯太殿があの街に行く事はおすすめいたしませんが…。」

「ああ。その事なのですが、ルキエラやセルフィーにも同じことを言われましたが、何かあるのですか?」


 セーシェさんはニコニコと微笑んでいる。


「今あの村は収穫期なのですよ。行っても相手にしてもらえませんよ。ちなみにブッガーも先日、このメニッツを通って行きました。急いでいたんでしょうね。私に挨拶もせずに行きましたよ。」

「ブッガーが?」

「ええ。エルフの血をもらったのかしら? 昼間に行動してました。」


 吸血鬼ルヴニールとエルフの血の関係って、この世界では常識なんだな。


「それなら僕もブッガーを追いかけないと!」


「待て颯太。」

 突然、壮大な気配とともに、強面こわもての男性が…。

夜叉王やしゃおう様!?」

 僕は夜叉王様の登場に驚き、声が裏返った。


「違うよ颯太。ガージルだよ?」

「う、うん。貴女はガージルさんですよね。」

 さすが兄妹ですね。のほほ〜ん加減がアンジと同じですね…。


「颯太よ、先を急ぐな。今行っても迷惑になる。それにブッガーも収穫の手伝いで、その先には進めん。」


 何それ? ブッガーって、バリバリいい人?


「そ、そうですか…。それでは、今日はメニッツで過ごします。あと、夜叉王様がという事は、乾闥婆様は天界に帰られたのですね?」


 夜叉王様はニィっと笑い答える。

「ああ。やっとだ。やっとこちらの世界にこれたのだー!」


 うわー。夜叉王様、嬉しそうですね? もしかして、例のメタさんの回鍋肉ホイコーロー


「そのとーーり!」

「夜叉王様? 僕の心を! やめて下さいって!」

「さあ、今夜は宴だ! 行くぞ! それではセーシェ、さらばだ!」

 そう言って僕の左手を引く夜叉王様。


「待って颯太! ガージルだよ! 颯太はガージルのおうちに行くんだよ!」

 僕の右手を引っ張るガージルさん。


「おい夜叉よ。ガージルが颯太殿を持て成すそうだ。貴様は今日は引け。」


 セーシェさんも天界人を嫌うのか? ルシエールさんは、そうでもなかったけど、ルキエラとエリーゼは敵対心をまる出しだったもんな。


「わかった。」

 わかっちゃうのかよ!? 夜叉王様!


「それでは颯太、私はアンジとともに過ごすことにする。じゃ!」


 夜叉王様はそう言って、この場から消えた…。


「夜叉王様? 待って…。」

「ガージルだよ、颯太! 颯太はガージルと一緒だよ!」

「あ、はい。そうですね…。」


「それでは颯太殿。今夜はガージルとヨロシク、ムフフ…。」

 ヨロシクって…。

「ああ、それは無いです。それでは失礼致します。」


 僕とガージルさんは、2人でメネシー城を後にした。





 メネシー城を出た僕たちを待っていたのは、黒山の人だかりであった。


「よがっだなー! ガージルちゃん!」


 意味がまったく、わからないのだが、町のみんながガージルさんに拍手喝采を贈っている。


「みんなありがとう! ガージルは嬉しいよ!」

 ガージルさんは相変わらず、ゴニョゴニョとした口調で、照れくさそうに町のみんなに応えている。

 誕生日? 何かのお祝い?


「あの、ガージルさん? 今日は何かのお祝いですか?」

「何を言っているの? 今日は私と颯太が結ばれる日だよ。」


 いや! マジで無いですから…。

「んー。意味がわからないですね。僕には恋人がいます。」

「大丈夫だよ颯太。大丈夫なんだよ。颯太は私と一緒になるんだよ。えへへへへ。」


「あの、颯太様。」

 人だかりの中から、1人の亜人種猫族の女性が…。


「ってエメリア!?」

「こんにちは颯太様。ようこそメニッツの町へ。ここは私の故郷なのです。」

「そうだったんだ! 今日は休暇かな? ゆっくりしてね。」

「はい。ありがとうございます。それと、アンジを連れて来ていただき、ありがとうございます。」


 おっと? これはもしかして、エメリアはアンジの彼女的な?


「あんれ? 颯太様! 婆ちゃんとの話は済んだのけ?」

 そこにアンジも来た。てか、どこの方言だよ! もう滅茶苦茶だな…。


「アンジ。」

 か細い声でエメリアが言う。


「あんれ、エメリアでねーか! ひっさしぶりだなー!」


 久しぶり? どゆこと?


「ねえ颯太、ガージルだよ。えへへへへ。」

「はい、ガージルさん。大丈夫ですよ。名前でしたら覚えましたよ。」


 ところで、アンジとエメリアは恋人同士じゃ無いのか?


「キッサマー! はよ、金をけえせーな!!」

 おっと? エメリアさん? 突然の変貌へんぼうですね! てか、エメリアもやっぱりその方言なんだ…。


「待って! あと2日待って! 今回の旅がおわりぇーば、けえせれーな!」


 あ、そういう仲ね…。がんばれアンジ。借りたものはきちんとけえすんだぞ。




 そして、僕たちはメニッツの町を出て、南の森へと向った。途中、綺麗な湖が見える。現世うつしよでは決して見る事などできない、綺麗な湖だ。


「ねえ、ガージルさん。湖を見たいのですが、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」


 僕の問いかけに、嬉しそうな顔をするガージルさん。


「うん。一緒に沈もう!」

「いや! 沈まねえし!!」

 僕のツッコミに驚き、背後うしろ仰反のけぞるガージルさん。

「怖いよ颯太。大きい声でのツッコミは怖いよ…。えへへへへ。」

「すみません。気をつけます。」


 そして、ガージルさんは僕をジッと見ている。


「颯太…。私にツッコむのは…。颯太のアレをツッコムのは夜まで…。」

「安心してねぇー! 僕はそういうことは絶対にしませんからねー!!」


 マジか!? この人マジか?


(主よ、安心してくれないか? 私が主を必ず守る。)

「どの口が言うんだ!」


「この口だよ颯太。この口で颯太をペロぺロ…。」

 ガージルさんは僕に抱きついて来た!? その時!


 バコ!

 ボコボコ!

 バコン!!


「テメェ、マジコルォすぞ! ゴォルルゥゥア!」

 ここでエリーゼの登場である。メッチャ巻き舌ですね、エリーゼさん。

 てかガージルさんが半分、お亡くなりになりかけておりますが?


「もーーーう! 颯太さん! ダメじゃ無いですかーーー! わたくしを置いて行くなんていけません! ここからは私も一緒ですわ!」

 エリーゼはそう言って、両手で僕の胸ぐらをつかむ。


「待ちゃーれなゴォルルルァ! 貴様キッサーブチこりょすじょー!」

 エリーゼにボコられたガージルさんは、口から大量の血を吐き出しながら、エリーゼに向かって行く。


 何これ? すっげースプラッターじゃん!


「2人とも、もうやめてください!」

 僕はエリーゼとガージルさんの間に入り、2人の争いを静止させた。ケンカを止める僕の右腕には、ダラダラとガージルさんの血が彼女の口から垂れ落ちる。


 ああ。ウォーキング・デッドで、こんなシーンがあったな…。




 言い争いをする、エリーゼとガージルさんを僕はなんとか、3人は仲良く?

 恐怖の館にたどり着いた。いわゆるガージルさんのおうちだ。と言っても、とても可愛いをしている、ログハウスのような家だ。

 部屋の中は綺麗に整理整頓がされている。家具や小物も可愛らしい物で揃えている。森の中にこんな可愛い家を発見したら、普通の女子だったら、きっと「インスタ映え!」と言って写メるだろう。


「はい、颯太。お茶だよ。えへへへへ。飲んで。さあ、グイーッと、えへへへへ。」

 ガージルさんが可愛いカップで持って来たお茶をエリーゼが受け取る。

「こら! アリゼー! お前が触るな!」


 エリーゼはガージルの言葉など無視して、カップのふちを 人差し指で、クルッとなぞる。

 すると、カップは光だし、水蒸気のような物が天井まで上がった。

「チッ…。」

 眉間にシワを寄せるガージルさん。


「はい颯太さん。これで大丈夫ですわ。」

「エリーゼ、ありがとう。」


 もしかしてアレか? 虜にするお茶か?


「ところで颯太さん。ヒューマンの集落に行かれるのですね?」

「はい。できればブッガーと話をしたいと思いまして。」


 エリーゼは目を閉じ声に出さず、ため息だけををついた。


「颯太さん。実はヒューマンの集落なのですが…。」

 エリーゼはそこまで言うと黙ってしまい、言いづらそうにしている。


「ごめん…。エリーゼ…。エリーゼの心を探らせてもらいました…。」


 エリーゼは下を向いている。


「ねえ颯太。ガージルもお話をしてもいい?」

「はい。どうぞ。」


「私たちエルフとヒューマンが相容あいいれれないのはソコなの。ヒューマンは今でも亜人種、特に猫族を襲うの。そして、彼らには神の姿を見ることができない。あがめている神を見れないの。それは吸血鬼ルヴニールも同じ。」


「颯太さん。ストボリの街で、ミチオに会いましたでしょ? 彼がストボリにいるのは集落から追放されたからなの。生贄いけにえという儀式に反対したから…。」

「それじゃ。収穫期というのは…。神に感謝をするために生贄を?」


 エリーゼとガージルさんは同時にうなづいた。


「それじゃ何故? 僕はヒューマンなのに…。」

 答えるのはガージルさん。

「ルシエール様が、颯太を認めたからだよ。」

「それに颯太さんは、皆に心遣いをしますでしょ? その噂はエルフだけではなく、ドワーフ族や亜人種、特に猫族にまで噂は広まっていますわ。」

「そうでしたか。ちなみに、彼らが崇める神とは?」


 少しの間をおき、エリーゼとガージルさんが声を合わせた。

「Ἔρεβος(エレボス)。」


「Ἔρεβος(エレボス)って!?」


 この場が沈黙する。暗黒神であるἜρεβος(エレボス)が、その座をセルスに明け渡そうとしている。そんな状況下で…。


「あの。先日、エレボス様の奥さんである、Νύξ(ニュクス)様はルキエラを諦めましたが、今回はどうなんでしょうか?」


 僕は2人に質問をした。が、答えたのは、いつの間にかこの部屋にいたルキエラだった。

「そうね…。今回ばかりは無理かしらね…。」


 ルキエラがそう言うと、エリーゼとガージルさんはルキエラに向かい、片膝をつき、頭を下げている。相変わらずのレジェンド・ルキエラである。


「今の話を聞いて、颯太はどう思った?」

 ルキエラが僕に聞く。

「そうだね。最初に生贄をなんとかしたい。次にセラやウルスラ。特にウルスラは相当なダメージがありそうだね。」

「そうね。あの子からは目を離せないわ。」


 なるほどね。それでいつも連れ回しているのか。


「さあ。話はこれくらいにして、夕飯にしましょう。リンファとクオンを連れて来ました。」

「え? クオンを? もう大丈夫なの?」


 ルキエラは僕の質問など無視し、エリーゼに向かった。

「おいアリゼー? キサマ何を勝手なことをしてんだゴォルルルァ!」


 何これ? 最近の流行? あおり運転ワードが流行ってんの? 僕はガラケーで写メるか?


「え? ルキエラ様?」

 エリーゼが畏縮いしゅくしている?


「クオンは颯太が迎えに来るんだゴォルルルァ!」

 ルキエラはそう言ってエリーゼの髪をつかみ持ち上げた。


「ルキエラ! やめろ!」

「うん。やめる。」

 僕の一言でその手を離すルキエラに、あっけに取られる、エリーゼとガージルさん。


「エリーゼ、大丈夫? 髪、抜けなかった?」

 僕はルキエラがつかんだ、髪の部分を撫でてあげた。


 ブチ!

 後方で、何かが剥れる音がした。


「颯太。ガージルも髪抜けちゃった…。」

 両手に大量の自分の髪を持つガージルさん。

「自分で抜きましたよね! ガージルさん! それ、ホラーだから! 逆に怖いから!」


「まったく颯太はガージルまでか…。」

「知らないってば、ガージルさんとは今日初めてお会いしたんだよ!」

「颯太さんのことだから、きっとガージルに優しくしたんですわ!」


「フェイレイ!」

「違うよ。私はガージルだよ。」


「フェイレイ! 出て来いフェイレイ!」


「颯太、フェイレイは出てこないぞ。何つったって、ガージルが苦手だからな。」

 高笑いをしながら言うルキエラ。


(フェイレイ? マジか?)

(マジだ。以前、イラついて奴を上下で切り離した。)

(了解です。それではフェイレイさん。あなたは僕の影でゴユルリと休んでいて下さい。)

(あらあら、主殿。嬉しい限りの所存ドスゥ〜。)




 その頃、メニッツの町では…。


「そう言えば、颯太に教えるのを忘れたな…。」

「何をですかー?夜叉王様ー?」

「猫族は9回、生き返るんだよな。しかも、生贄は仮死状態だから、実際は死んで無いし。」

「あんら、そりゃ重大なことじゃ無いですかー? 颯太様ー。多分、今頃、ねっちゃんとアリゼー様から、中途半端な情報を聞いて、ブルーになってますよー? まぁ、それはそれとして、アリゼー様ってエッライべっぴんさんですよねぇ〜。」


 バコン!

なぁにを呑気にめしくっちょるの! 金返かねけぇせっちゅーの!」

いたぁー! すまんってー! エメリアすまんってー!」

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