蝋人形を作る

@sasayasara

第1話 出会い

中学生だった。私は東京観光で親に連れられ東京タワーに行った。田舎者で東京に来るのが嬉しかった。

「東京タワーだ!本物だ!テレビでみたやつ!」

「あんまりはしゃいだらあかんよ」

初めての東京のシンボルからの眺めに興奮して、東京タワーの中をくまなく動いた。

「何これ?」私の目に入ってきた文字

【東京タワーといえば蝋人形館】

蝋人形という言葉すら知らなかった私はその漢字からして不気味な雰囲気な館にどうしても入りたくなった。

「お母さん、東京せっかく来たから入ってもいい?東京タワーきたら蝋人形館らしいで」

「いくらするん?お母さんの分まで払いたくないわ。あんただけ入り。外でお母さん待ってるな。」

お母さんから入館料をもらうと私は好奇心に押され入った。

「不気味やなぁ」一人言でも言わなければなんだか幽霊でも出てきそうな独特の空間に私は入ってしまった。

「うわ、すごいわ。めっちゃ怖い」

自分から出てくる言葉とは反対に心は蝋人形に引かれた。

内弁慶な性格で、友達の前では話しかけたくても話しかけられず、話す前に皆どこかに行ってしまうことが多かった。しかし、蝋人形は人間にそっくりな蝋人形は友達とは違い、私のことをじっと見て、まるで私が話すのをゆっくりと待つように黙っていてくれた。それがとても心地よく感じた。蝋人形に向き合ってたとえ返事が来なくても人間にそっくりな姿をしたものにきちんと話を聞いてもらえているようで嬉しかった。

蝋人形は私の好きな人間観察にもうってつけだった。内弁慶な子がなりやすい、話しかけようとするが出来ないジレンマから起こり、人を見て様子を伺い次第に話すことを諦めた末になる人間を観察するのが好きという傾向に私も当てはまっていた。蝋人形はどんなに観察してもクラスメイトとは違い、嫌な顔ひとつしない。ただそのままの顔でいてくれる。中学生の私はなんだか時間が止まった世界に来たような気がして不思議と楽しかった。自分が特別な力を使えた気がしたのだ。

東京タワーにいた蝋人形は私の対人関係のコンプレックスを全て補ってくれ、私を楽にしてくれた。

それから何体の蝋人形といや、偉人の姿をした何人の人を私は心いくまで観察し、話をしただろう。

「あんた、まだこんなとこいたん?あんたが帰ってこんからお母さん心配なって入ってもうたわ。こんな暗くて怖いとこもうええやろ。はよ帰るで」お母さん曰く、私はかれこれ二時間蝋人形と話をしていたらしい。我に返った私は普段通り「わかった!帰ろ!」といい連れられて帰った。でも、私の心は蝋でできた人にそっくりな新しい友達とのことで頭がいっぱいだった。

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