本編一話

翌日、目が覚めた。

僕は支度すると、朝はなにも食べずにさっさと出ていく。

いつも通りの工程だ。

ただ一ついつもと違ったのは、僕の家の塀の向こうになんか見える、いや、真依が見えることだ。

塀の隙間の間からこちらを覗いているのだろうか。

しかしながら、家の門に一番近い穴から覗いているので、まさに頭隠して尻隠さずだった。

「…はぁ」

無意識にため息が出た。

どうやら僕の体は呆れを隠せなかったらしい。

庭の方に抜けて、塀の裏を屈みながら伝って行く。

そして、真依の覗いている穴から僕も覗いてみた。

「いやぁぁぁぁぁ!」

真依が驚嘆し、後ろへとしりもちをした。


「バカ。石川くんのバカ」

顔を真っ赤に染めた半泣きの真依が呟くと、そっぽを向いている。

疑似恋愛初日の登校という条件付きならダントツでよどんだ空気のカップルだと僕は自負できる。

目をそらし、まさに怖いものに蓋をした状態が限界だった。

真依の方を見ても頬を膨らませ、いかにも怒ってますよという感じだ。

「すまんな。アイス買ってやろうか」

明らかに真依の自業自得の気がするが、僕はジェントルマンなので謝ることにした。

「怒ってないし。というか、私の許しとアイスを同価値だと思ってることに腹立つわ」

やはり拗ねているようだ。

「安心しろ。ルマンドアイスだから割りと高めだ」

「結局アイスじゃん」

「百四十円だぞ。高級品だ」

「私の許しは謝罪さえしてくれればプライスレスです」

下らない会話が続いた。

「…」

「…」

沈黙が続いた

『あのさ…さっきはごめん』

二人同時に言葉を放った。

その言葉は偶然か、はたまた必然か同一の言葉だった。

二人はあっけらかんな表情をした。

「まて、何で瀬戸内さんが謝るんだ」

「私も、なんか勝手に覗きみたいなことしたし…。多分、私にも非があったんでしょ」

「ああ…否めない」

「否定してよ!」

再度下らない会話が続いた。

しかしながらさっきとただ一つ違いをあげるなら、真依が笑顔なことだろう。























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終焉へと向かう毎日に花束を。 藤沢咲翔 @sakutofujisawa

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