第2話



 俺の名前は、アルベルト・ノイマン。

 帝国軍所属の軍師だ。

 今はデッシェル王国戦の末端参謀として前線に駐留している身である。


 給金が発生している以上、給金に見合う仕事をするのが俺の信条。

 上からの命令も、出来るだけ応えてきた。

 ただ、今回命じられた任務は出来たら遠慮したかったのが本音だ。


【『頸斬姫』の監視及び監督】


 デッシェル王国戦を経験した者であれば、一度は目にするか訊いた事がある怪物だ。

 常に敵兵の頸を斬り続ける少女。

 魔力を効率的に放つ魔銃が開発されて以来は、剣刀で頸を落とすという行為をする者はほぼいなくなった。

 居たとして、有名な将兵と対峙して手柄をあげる時ぐらいだ。

 それを常時するのだから、頭のネジが何本か飛んでいる。

 イカれているのは、当たり前か。

 婚約破棄と国外追放されたからと言って、婚約者、しかも、第二王子の頸を斬って敵国に亡命してくる者など前代未聞。歴史書を紐解いても、いないだろう。


『アデル・シュペイン。デッシェル王国公爵家令嬢です。帝国に亡命します。手土産に第二王子の頸を持ってきました!』


 悪魔ですら、あんなに良い笑顔で言えるか疑問だ……。

 兎も角、『頸斬姫』が第二王子の頸を持って亡命してきた。

 上層部は色々と検討しているようだが、アレは今も帝国軍の最前線にいる。

 敵の内部情報を知っているというのが理由だ。

 ……俺としては、あんなイカれたヤツは前線で放置するよりも、後方の安全地帯で自宅軟禁でもいていた方が安全だと進言してみたが、所詮は末端。却下された。


「~~~♪」


 『頸斬姫』は、丸太に腰掛けて、短剣四本を空中に飛ばしながら鼻歌を歌っている。

 何年か前に作られた武器だ。

 魔力で短剣を操作しながら攻撃するという物だ。

 ただ魔銃が主武器となっている現状では、魔力消費量が悪く操作性が難しいことから、試作品が幾つか作られ倉庫に眠っていた物である。

 渡したところで、直ぐに使えないと言ってくるだろうと考えて譲渡したのだが、『頸斬姫』は見事に使いこなした。

 敵の将兵の頸を面白いように斬り落として成果をあげてみせたのだ。

 そして『頸斬姫』は、戦後、俺の元に来てこう言った。


『ありがとうございます。とても良い物をいただきました。もっともっと頸を斬り落とすので期待してて下さい!』


 笑顔で、そう言ってきた。

 どうやら俺は、鬼に金棒をあげてしまったと、深く――深く後悔して反省をした。







 アデル・シュペイン。……あ、国外追放されたのだから、家名は名乗るべきじゃないか。

 私はアデル。元公爵令嬢で、今は帝国軍の一般兵です。

 目の前にはかつて共に戦った王国軍の兵士達がいます。

 昨日の敵は今日の友。その逆もまた然り。

 手加減するのは、向こうにとって侮辱だ。だから私は常に本気で相手をする。


 そもそも私は亡命者。第二王子の頸を手土産にしたからと言って、全幅の信用をして貰えるとは考えていない。

 信用を得るというのは中々にして難しい。

 そして戦場であれば、信用を得る方法は限られる。


――元同僚で同じ戦場で戦った王国の将兵達を殺すこと――


 だから、私は殺す。

 信用と信頼を得て、後方で安全な日々を過ごすことができるその日まで。


 第二王子の頸を持って亡命したとはいえ。5年も戦い続けた以上、肩身は狭い。

 そんな中でも、軍師である、アルベルト・ノイマンさんは、私に話かけて来てくれて、しかもプレゼントまでくれた。

 凄く嬉しかった。

 プレゼントは、今や私の副装備となっている飛空剣。魔力で操り自在に飛ばすことが出来る剣。

 多くは言わなかったけど、これを使って、味方の信を得よ、と、いう軍師としてのアドバイスだと私は感じた。

 私はその期待に応えるべく、王国軍の将兵の頸を、これを使い頸を斬り落とした。


「見つけたぞ! この国賊めっ」


 馬に乗った騎士風の少年が、私に向けてそんな事を言ってきた。

 国賊?

 意味が分からない。

 私は、ノイド様に国外追放を言い渡されて亡命した身。

 国賊って言われると、まるで私が悪いみたいに感じる。


「俺の親友であるノイドを殺し、アリサを泣かしたお前は、俺が討、」


 不愉快な名前が出たので、飛空剣を背中に回して、背後から心臓を刺し、もう一本で頸を刎ねた。

 馬は啼くと死体となった男性を振り落として逃げていく。

 それにしても誰だろう。鎧や剣、それに魔銃は上等な物。一般兵ではなさそう。

 兜を外して顔をきちんと見る


「どこかで見たような――?」


 同年代の知り合いはほぼいない。5年以上、最前線で過ごしていたからだ。

 でも、この顔。どこかで見たような?

 頭の隅まで出かかっているのに、出てこない。

 もう少しで出てきそうな所で、目の前に火炎球が放たれてきた。

 私は得意とする風魔法で、火炎球を吹き飛ばす。


「――お姉様。よくも、よくも。アーノルドまでぇぇ!!」


 ……アーノルド?

 ああ! 思い出した!!

 乙女ゲームに出てくる5人の攻略対象者の内の1人。騎士団長の息子だ。

 その前に、私は目の前の光景が信じられなかった。


 ここは王国軍と帝国軍が戦っている激戦の戦場。

 味方も敵兵も無残に死んでいく場所に、煌びやかなドレスで来る愚妹。

 最悪だ。戦場にパーティー会場で着るドレスで来る女が、私の血縁者と判明したら、一生帝国内で嘲笑の的になりかねない。

 いや、ちょっと待って。

 もしかしたら、ここをパーティー会場と勘違いしているのかもしれない。

 前々から頭がおかしいと思っていたけど、ここまで愚かだとは思わなかった。


 婚約破棄があったあの場で、殺す事もできた。

 でも、殺さない方が、王国を内部から腐らせてくれると思ったから生かして置いたのに。

 戦場にパーティー会場のドレスで来るとか、戦場にいる人々への冒涜以外なにものでもない。

 ここは姉として愚妹に死を送るのが、最初で最後の妹への手向けだ。。


 手に持つアーノルドの頭を愚妹の方に風魔法で飛ばす。

 私が頭を飛ばすとは思ってなかったんだろう。

 呆気にとられている所で、愚妹の近くになる所で「バン」と言うと、頭が破裂した。

 血や肉片やら頭部の部位が、愚妹の全身にかかる。


「い、い、いやぁぁああああ」


 さて、死化粧も終わったし、そろそろ殺そうか。

 戦場をパーティー会場と勘違いしている愚妹には、さっさと舞台から退場をお願いする。

 ベルトに付いているホルスターから、残りの飛空剣を取り出し、計四本の飛空剣と、真銃を構えて狙いを定める。

 引き金を引こうとしたした瞬間。


「アリサ! 大丈夫かっ」


「血をこんなに浴びて可哀想に……。この外道め!!」


「必ず殺してやるぞ、悪魔令嬢っ!」


 残りの攻略対象者が、愚妹を馬に乗せて後方へと下がっていった。

 悪魔令嬢って、私は悪役令嬢ですが?

 それに戦場に出てきて血を浴びて可哀想とか。一生、後方の安全地帯に居て欲しい。

 追撃しようと思えば出来るけど、流石に攻略対象者3人とヒロインである愚妹を同時に相手するのは分が悪い。

 型録スペックだけは高いんだよね。

 でも。


「愚妹だけでもさっさと殺しておくべきだった、かな」


 ヒロインである為、スペックだけは無駄に高い。

 アーノルドの頭なんて投げずに飛空剣を投げれば良かった。

 ――過ぎた事はしかたない。次に生かそう。

 アレの事だから、ダサい服装を着るのは嫌がるだろうから、次に戦場でドレス姿を見つけたら、真っ先に殺す。


  私は一発。愚妹が逃げた方向に魔力弾を放ち、決意を固めた。







「……アデル。先ほどの戦闘では、ドレスを着た少女が戦場に出てきたと訊いた 確か君を姉と呼んでいたようだが?」


「ごめんなさい。取り逃がしましたっ。あまりの巫山戯た格好だったので、つい、攻撃の手を……。でも、大丈夫です! 次に会えば、必ず殺して首級をお持ちします!」


「……君の妹だろ?」


「ご心配には及びません。血の繋がりがある程度の他人です! 必ず殺すのでご安心下さい」


「……そうか。分かった。下がっていい」


「はいっ」


(自分の妹ですから、笑顔で殺すと宣言できるか。戦場では正しい。正しいが――。人としては最低最悪な部類だな。やはり『頸斬姫』は、危険すぎるのではないか? イカレた少女の監視・監督とか、本当に上層部は面倒を押し付けてくれる!)


(もしかして二心あると疑われてる? 愚妹の所為で、帝国陣地での私の立場が! ううん、できるだけ笑顔で殺すって言えたハズだから大丈夫……。たぶん、まだ信用はしてくれているハズ。でも、次はないかもしれない。こうなったら絶対に頸を斬り落として、アルベルトさんの信用と信頼を勝ち取ってやる!)




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戦場に咲く一輪の華。それは悪役令嬢です 華洛 @karaku_f

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