戦場に咲く一輪の華。それは悪役令嬢です
華洛
第1話
爆音が鳴り響き、悲鳴が轟く、悪夢のような戦場。
モンスターテイマーによって調教された高ランクの魔物が味方を屠る。
魔銃から放出される魔力の閃光が、味方の身体を裂いたり、撃ち抜いたり、爆破したり。
誰がどう見ても敗戦濃厚。
どんな神算鬼謀の軍師がいたとして、ここから逆転できる可能性は低い。
手に持つ王国軍が制式採用している魔銃を構え、向かってくる敵国の兵に向けて撃つ。
何発か撃つも敵兵には掠りもしない。
ここまで魔力濃度が高いと、中々目標の的に当てるのは難しい。
私は風魔法で少し空中に浮き、背中に自身の風の塊を作りだして破裂させた。
勢いよく放出された私は、銃を正面に構え、飛翔して、敵兵の喉元を銃の先端に付いてある短刀で突き刺し、そのまま刎ねた。
首元から飛び散る血液を、身体に浴びる。
――たぶん、水よりも血液を浴びた方が、人生において多い気がいる。
苦笑いをしていると、銃から放出された魔弾が幾重にも放たれて来た。
魔力密度が濃く、目標に当たりづらいとはいえ、数を撃てば当たる。
再びスピードを付けるため、背後に風の塊を生み出し、破裂させて、勢いよく敵兵へと突っ込んでいく。
私、アデル・ゲイン・シュペインは、最低最悪な戦場のど真ん中にいる。
「この場を以て宣言する! アデル・シュペインとの婚約を破棄するっ!!」
最低最悪な戦場から王命で帰還が命じられ出席した、前線とは天国と地獄の差があるパーティーで、私の婚約者であるノイド・ワウル・デッシェル第二王子は、宣言してきた。
隣には私の妹が、甲斐甲斐しく抱きついている。
「……ノイド様。理由をお伺いしても宜しいでしょうか?」
「貴様のような血の臭いをさせる女は、王妃に相応しくない!! それにだ!!」
「……それに?」
「愛しいアリサ・シュベインに対する数々の悪意ある行動! 言い逃れできないぞ」
アリサ・シュベイン。
私の妹で、たぶん、私と同じくこの世界と似通った乙女ゲームのプレイ済み転生者。
「貴様のような存在は、我が国においては害悪だ! 国外追放を命じる!」
「――ノイド様の命令であれば、分かりました。国外追放。お受けいたします。ただ」
「なんだ」
「幼き日の約束を覚えていらっしゃるでしょうか? もし婚約破棄するなら、相手の望みを1つ、なんでも叶えると」
「……ああ。覚えている。どうせ金だろう。幾ら欲しい」
「いえ、お金はいりません。今、欲しいのは、……――ノイド様の、頚、です」
手に魔力を放出させ、刃を作り出して、ノイド様の頚を刎ねた。
頸は宙に舞うと地面に転げ落ちた。
身体の方は首元から血が吹き上がり、人形のように崩れ落ちる。
転がる頸の髪を掴み、私は目の高さまで持ち上げた。
呆然とした表情。死を予期してなかったようだ。
まぁ婚約破棄するのに死を予期しようとするのは難しいか。
第二王子の頸の値段っていかほどだろうか。
敵国に国外追放という名の亡命をするに辺り手土産が必要と思って刎ねたけど。どうだろ。
ああ、王家って確か血統魔法があったから、それを調べることが出来るなら、ちょうど良いサンプルになるかも。
「お、お姉様。い、いったい、ど、どうして」
「――イラっときたから? あ、ノイド様が死んだのは、あんたの所為でもあるからね?」
「は、はぁ。ノイド様と仲良くなった事を」
「違う違う。そんな事はどうでも良いから。どちらかというと、お幸せにって感じ」
「なら、ど」
「アリサが私を最前線の戦場に送ったからだよ」
吐き捨てるように言った。
向こうも同じ転生者という事を知ると、不確定要素になると思ったんだろう。両親を丸め込み、私を戦場に送り飛ばした。それが10歳の時の出来事。
それから私は、家へ帰ることも出来ず、常に戦争の最前線で生きる事になった。
もしも、アリサが戦場に送らなかったら、こんな事にはならなかったハズ。
私は5年余りで、多くの人を殺し、死になれすぎた。
そうで無ければノイド様の頸を刎ねるなんて選択肢は出てこなかっただろうね。
周りの緊張が緩んだのか、悲鳴が幾重にも鳴り響く。
スカートの中に隠していた万が一の時の煙幕を幾つか投げ、パーティー会場を脱走する。
早くしないと、とっても怖い元帥閣下が来たら、私は死ぬ。
太陽と蝋燭の火ぐらい実力差がある。
煙幕の煙に紛れてテラスに出ると、風魔法を使い、一気に王都を後にすることにした。
アデルは敵国にノイド第二王子の頸を持ちこみ亡命。
本人は知らなかったが、敵国内でアデルは「頸斬姫」「鮮血姫」と呼ばれ、そこそこ名が通っていた。
そのため、アデルはデッシェル王国戦において、最前線へと送られることになる。
またそれを知ったアリサも、他の攻略対象者を連れて、前線に参戦。
戦場で、互いの生死をかけた、転生者同士の姉妹の戦いが始まろうとしていた。
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