第5話 決着!

再び土煙が収まっていく。

当然、先ほどと同じ様に両者は倒れている……が、しかし……。


「なんと!ローの右足と左腕が無いではないか!」

「先ほど、爆音が轟く寸前、ローの左腕が深紅に眩く輝いておりました」

「うむ、それは余も見た。だが、あれは?」


「恐らく、炎龍神掌えんりゅうしんしょうの秘奥義と呼ばれる、炎龍神功波えんりゅうしんこうはでは無いかと」

「秘奥義とな?」

「あまりにも強力で、危険な奥義ゆえ、門外不出の禁じ手と噂されるものに御座います。私もそれが、どういうモノなのか噂でしか聞いた事が無かったのですが、今、目の当たりにして、ようやくそれがどういうモノか分かりました」


「ほう、成らば説明して見せよ」

「先ほどと同様、魔力と気功を融合させたので御座います。ただし、今回はロー自身が、自身の魔力と気功を左腕に集め、その腕を犠牲に放った物に御座います」

「なんと、自らの腕を犠牲にとな!では、ローはエクベルトのシールドで止められた右足をも切り捨てて、捨て身の秘奥義とやらを放ったと言う事か……」


ローがその左腕と右足を犠牲にしてまで放った炎龍神功波えんりゅうしんこうは、さすがのエクベルトも無傷では済むまい……。


闘技場の壁際迄吹き飛ばされ、倒れていたエクベルトがゆっくりと立ち上がる。

見るからに、無残な姿と成り果てたローの方は、息は有る様だが、未だ起き上がれない。


その時、ガシャンと音を立ててエクベルトの盾が地面に転がる……。

いや!盾だけじゃ無い!

フルプレートをまとったままの左腕が……その肩から先が、地に落ちる。

そして、エクベルトの体が揺れ、闘技場の壁にもたれかかる様に座り込む。


度重なる炎をまとった連打、そしてバーストと爆竜功ばくりゅうこうによる爆発、更にはローの捨て身の炎龍神功波えんりゅうしんこうは

あの強靭なフルプレートをまとい、プロテクションやファイヤー・レジストを掛けていたとは言え、ああも、執拗な炎の攻撃を盾で受けていれば、その盾を手にしていた左腕へのダメージは深刻なものに成っていたのだろう……。

恐らく、ローが最後に炎龍神功波えんりゅうしんこうはを放つ以前に、既にエクベルトの左腕は使い物に成らなく成っていただろう事は、想像に難くない。


そして、今度はローが立ち上がる。

彼もまた左腕は肩から先が無く、右足も膝から先が無い。

ローは残った左足と尻尾を、失った右足の代わりに使い、器用にゆっくりとエクベルトの方に歩みを進める。


エクベルトのフルプレートの胸部が上下する。

まだ、エクベルトのその命は尽きてはい無い……すなわち、まだ勝負は付いてはいないと言うこと。


ローはジリジリと慎重に歩みを進める。


「バースト!」

エクベルトも未だ諦めてはいない。

右手には、未だ戦斧が握られている。

その戦斧に最後の力を振り絞って、勝負を仕掛ける筈。


だが……。

ブンッ!と風を切る音が空しく響く。

エクベルトが投擲とうてきした戦斧を、ローは難なく右手で弾く様に叩き落す。


「馬鹿な!最後の切り札を捨てると言うのか!……いや、むしろエクベルトは良く闘ったと褒めるべきだな。此処ここまで闘い抜いたのだ、奴も満足したのだろうな……」

身を乗り出して観覧されていた大公陛下が、残念そうに椅子に背をもたれ掛ける。


それに、あの戦斧に込められたバーストの魔力は、見る影も無い程の物。

ローはそれを見切って、避けるのではなく、敢えて叩き落としたのだ。


ローが納得したかの様に、竜王の構えを取る。

もっとも、左腕と右足の二頭の竜は既に無く、四海を統べる竜と呼べるものでは無いな。

むしろ双竜の構えと呼ぶべきか……。


エクベルトの体は既に力なく、座ったまま前かがみに……。

そして、最後の瞬炎歩しゅんえんほによる爆音!


刹那!

「ファランクス」

魔力がほとんど底を突き、召喚された槍は一本のみ。

だが、その一本が、瞬炎歩しゅんえんほで飛び掛かるローの胸部を貫いて、そして消え去る。


「なに!」

既にローがエクベルトのトドメを刺すだけと、椅子に深く座っていた大公陛下が身を乗り出す。

「何が起こった、ベネディクト!」

「エクベルトがファランクスにてローを貫いたので御座います」

「それは、見ればわかる……だが……何が起こったのだ」


「恐らく、エクベルトが戦斧を投擲とうてきしたのは、試合を放棄したのではなく、この為の布石では無いかと」

「ローがトドメを刺しに来る様に誘ったと申すか?しかし、ファランクスの間合いは……ま、まさか、その為にエクベルトは座ったと!」


「さすがは、大公陛下、御明察の通りに御座います。エクベルトは、座り込み前かがみに成る事で、ローを自身の視界の斜め上、二メートルの間合いに。すなわちファランクスの間合いに捕らえたので御座います」

「はっはっはっは!なんと!これが、エクベルトの、魔道戦術の達人の極意と言う物で在るな!はっはっはっは!見事であった!」


闘技場の中に、道化の者が一人入っていく。

そして、ローの前に立つと、十字を切り両手を組んで祈る仕草を。

ローの、その命が尽きた事を確認したという合図。


「うむ、見事な闘いであった。エクベルトを余の前へ。直ちに医師に診せねば成らんのは承知しておるが、余が勝者の勝ち名乗りを上げるのもまた習わしである」

「大公陛下、エクベルトは腕が焼け落ちるほどの炎の攻撃を受け続けておりました……それ程の攻撃を受け続けたと成れば……残念ながら、我が友は……」


闘技場の中の道化がエクベルトの前で十字を切り、両手を組む。


「なんと……それは、残念な事で在るな。けいにも悪い事をしたな。友を同時に二人も失わせる仕事をさせてしまった。許せ」

そして、大公陛下はおもむろに懐から袋を取り出すと、私に手渡す。

ずっしりと重い。

恐らく中は金貨。


「それは褒美だ。それで、二人の友に墓でも建ててやるが良かろう。余った金は、そうだな、エクベルトの家族でも見舞ってやるが良い。エクベルトの娘は病が癒えたと聞くが、この先、あれ程の英雄の家族が食うに困る様では、大公国の名誉にかかわる事ゆえな。よって、エクベルトの家族には向こう三十年間、恩給を与える事を約束しよう。ベネディクト、その様には計らえ」

「はっ!仰せのままに」


「今宵の御前試合は満足で有った。次も期待しておるぞベネディクト」


貴賓室の扉が開かれ、大公陛下が退出される。


この御前試合で失われる命は重く尊い。

今日、来賓された各国の重鎮も、思うだろう。

大公国にはこれ程迄の武人が居たと。

そして、それ程迄の武人に、惜しげもなく御前試合で命を掛けさせると。

それは、すなわち大公国に戦を仕掛ければ、どれほどの被害を自国にもたらすのかと。


エクベルトの命一つで、一つでもいくさを抑止出来たなら、そのいくさで失われるだろういく千もの将兵の命を救った事にも成る。


「さて、大公陛下の御相手は済んだが、未だもう一つ仕事が残っているな。それも、最も気の進まない仕事が……」

エクベルトの家族には、俺から話をせねば成るまいな……。

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スールガー大公国御前試合 『魔道戦術の達人 鉄壁の武人エクベルト・ヴァルトシュタイン』 vs 『炎を纏って戦うドラゴニュート 灼熱の炎龍ことロー・ウォン』 ~ いざ、刮目せよ! ~ 春古年 @baron_harkonnen

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